ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「フクシマ事故と東京オリンピック」を読む

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小出裕章さんの「フクシマ事故と東京オリンピック」を読んだ。小出さんは元京都大学原子炉研究所助教の工学博士で原子力の専門家である。

 

この著書の冒頭には、第125回国際オリンピック委員会における安倍晋三首相によるプレゼンテーションでの発言(2013年9月7日)が掲げられていた。

「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはありません。」

Some may concerns about Fukushima. Let me assure you,the situation is under control.

It has never done and will never do any damage to Tokyo.

 

 

そしてその次のページには

「真実から目を逸らすことは犯罪である」It is a crime to take your eyes off the truth

と書かれていた。何が真実かを見極めたいと思い紐解いた。

 

 

 

著書の中で小出さんは語っている

「2011年3月11日、東京電力福島第一原子力発電所は巨大な地震津波に襲われ、全所停電となった。

全所停電は、「原発破局的事故を引き起こす一番可能性の高い原因」と専門家は一致して考えていた。その予測通り、福島第一原子力発電所の原子炉は溶け落ちて、大量の放射性物質を周辺環境にばらまいた。

 

日本国政府国際原子力機関に提出した報告によると、その事故で広島原爆168発分のセシウム137が大気中に放出された。

広島原爆1発分の放射能でさえも猛烈に恐ろしいものだが、なんとその168倍もの放射能が大気中ににばらまかれたと日本政府が言っているのである。この事故で1、2、3号機の原子炉が溶け落ちたのだが、その炉心の中には、合計で7×10の17乗ベクレル、広島原爆に換算すれば約8000発分のセシウム137が存在していた。そのうち大気中に放出されたものが168発分であり、海に放出されたものを合わせると、現在までに環境に放出されたもの(セシウム137)は、広島原爆約1000発分程度であろう。

 

セシウム137はウランが核分裂して生成される核分裂生成物の一種であり、フクシマ事故で人間に最大の脅威を与える放射性物質である。つまり、炉心にあった放射性物質の多くの部分が、いまだに福島第一原子力発電所の壊れた原子炉建屋などに存在している。これ以上炉心を溶かせば、セシウム137を含む放射性物質が再度環境に放出されてしまうことになる。それを防ごうとして、事故から9年以上経った今でも、どこかにあるであろう溶け落ちた炉心向けてひたすら水を注入している。そのため、毎日数百トンの放射能汚染水が溜まり続けている。東京電力は敷地内に1000基近いタンクを作って汚染水を貯めてきたが、その総量はすでに100万トンを超えた。

敷地には限りがあり、タンクの増設にも限度がある。近い将来、東京電力放射能汚染水を海に流さざるを得なくなる。

 

もちろん一番大切なのは、溶け落ちてしまった炉心を少しでも安全な状態に持っていくことだが、9年以上の歳月が経った今でも、溶け落ちた炉心がどこに、どんな状態であるかすら分かっていない。なぜなら現場に行かれないからである。

事故を起こした発電所が火力発電所であれば簡単である。当初、何日間か火災が続くかもしれないが、それが収まれば現場に行くことができる。事故の様子を調べ、復旧し、再稼働することだってできる。

 

しかし、事故を起こしたのが原子力発電所の場合、事故現場に人間が行けば、死んでしまう。国と東京電力は代わりにロボットを行かせようとしてきたが、ロボットは被曝に弱い。なぜなら命令が書き込まれているICチップに放射能が当たれば、命令自体が書き変わってしまうからである。そのため、これまでに送り込まれたロボットはほぼすべてが帰還できなかった。

中略

今日生きている人間の誰一人としてチェルノブイリ事故の収束を見ることはできない。ましてや、フクシマ事故の収束など今生きている人間のすべてが死んでも終わりはしない。もし仮に溶け落ちた炉心を容器に封入することができたとしても、それによって放射能が消える訳ではない。その後数十万年から100万年、その容器を安全に保管し続けなければならない。

 

事故が起きた当日に発令された「原子力緊急事態宣言」は事故から9年経った今も解除できないままである。フクシマ事故により、極度の汚染のために強制避難させられた地域がある。それだけでなくその外側にも本来であれば「放射線管理区域」にしなければいけない汚染地帯が広大に生じた。「放射線管理区域」とは法律によって放射線業務従事者だけが立ち入りを許される場である。ところが

国は、今は緊急事態だとして、従来の法令を反故にして、その汚染地帯に数百万人の人を棄て、そこで生活するように強いた。棄てられた人々は、赤ん坊を含め被曝による危険を背負わせられている。被曝を避けるために、仕事を捨て、家族全員で避難した人もいる。子供だけは被曝から守りたいと、男親は汚染地に残って仕事をし、子どもと母親だけ避難した人もいる。でも、そうすれば、生活が崩壊したり、家庭が崩壊したりする。汚染地に残れば身体が傷つき、避難すれば心が潰れる。

 

棄てられた人々は、事故から9年以上、毎日毎日苦悩を抱えて生きている。

それなのに国は、2017年3月になって、一度は避難させた、あるいは自主的に避難していた人たちに対して、1年間に20ミリシーベルトを超えないような汚染地であれば帰還するよう指示し、それまでは曲がりなりにも支給してきた住宅補償を打ち切った。そうなれば汚染地に戻らざるを得ない人も出てくる。

 

今もっとも大切なことは「原子力緊急事態宣言」を一刻も早く解除できるよう、国の総力を挙げて働くことである。フクシマ事故の下で苦しみ続けている人たちの救済こそ、最優先の課題である。少なくとも罪のない子どもたちを被曝から守らなければならない。

(フクシマ事故と東京オリンピックから引用)

 

 

この国ではコロナウイルスが発生する前は、毎日毎日、2020オリンピックの話題で塗りつぶされていた。オリンピックに反対する輩は非国民と言われそうな日々であった。(今でもそうかもしれない)

 

今もこの国は「原子力緊急事態宣言」が発令されたままである。しかし安倍総理はオリンピックを招致したいばかりに、原子力緊急事態が発令されているにも関わらず安全宣言を行った。放射線管理区域の汚染や健康不安を口にすることはオリンピックの邪魔だと非難された。

小出さんは多くの人たちを被曝の危険のある放射線管理区域に棄民したまま「オリンピックが大切」という国なら私は喜んで非国民になろうと思う。と結びの言葉を残している。

 

著者である小出さんはエピローグに書いている。

「フクシマ事故で筆舌に尽くしがたい被害と被害者が生まれた。一方、原発破局事故は決して起こらないと嘘をついてきた国や東京電力は誰一人責任を取ろうとしないし、処罰もされていない。絶大な権力を持つ彼らは、教育とマスコミを使ってフクシマ事故を忘れさせる作戦に出た。そして、東京オリンピックのお祭り騒ぎに国民の目を集めることでフクシマ事故をなきものにし、一度は止まった原発を再稼働させようとしている。」

この本はそのような状況の中、イタリア在住の方が小出さんの文章を翻訳して世界各国のオリンピック委員会に送ります。小出さんの止むに止まれぬ思いを書いてくださいと勧められて誕生した本であるとあった。

 

2020年3月14日の新聞には、大手電力会社で構成する業界団体、電気事業連合会の新会長が記者会見で「地球温暖化防止の観点から原子力は非常に重要だ」と述べ停滞する原発再稼働の推進に意欲を示したという記事を目にした。相変わらず大手電力会社は厚顔無恥原発を推進する。

 

 

この本を読んで小出さんの止むに止まれぬ思いを感じることができた。それは小出さんの学者としての良心に根付くもので、小出さんの生き方そのものを感じることができた。小出さんと思いを一つにして私も非国民になろうと思う。