ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「ホセ・ムヒカ」を読む

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著者アンドレス・ダンサ/エルネスト・トウルボヴィツ 訳大橋美帆


ホセ・ムヒカ」を読む。副題に「世界でいちばん貧しい大統領」とある。ホセ・ムヒカは南米ウルグアイの元大統領である。この本は南米ウルグアイの二人のジャーナリストが19年にわたりホセ・ムヒカを追い続けた現地取材を基に著した歴史的ルポであり、「私が大統領を辞めたら本にしてもいいよ。」といわれてきたものを文庫化したものである。

 

ウルグアイという人口350万人の小さい国の大統領が全世界の人々から注目を浴びるようになったのは、2012年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議」でのスピーチであった。

 

ホセ・ムヒカ大統領は会議で以下のように述べた。

「午後からずっと話されていたことは持続可能な発展と世界の貧困をなくすことでした。私たちの本音は何なのでしょうか?現在の裕福な国々の発展と消費モデルを真似することでしょうか?質問をさせてください。ドイツ人が一世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てばこの惑星はどうなるのでしょうか。

息するための酸素がどれくらい残るのでしょうか。同じ質問を別の言い方ですると、西洋の富裕社会が持つ同じ傲慢な消費を世界の70億〜80億人の人ができるほどの原料がこの地球にあるのでしょうか?可能ですか?それとも別の議論をしなければならないのでしょうか?

 

なぜ私たちはこのような社会を作ってしまったのですか?

このような残酷な競争で成り立つ消費主義社会で「みんなの世界を良くしていこう」というような共存共栄の議論はできるのでしょうか?どこまでが仲間でどこからがライバルなのですか?

 

私たちは経済発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短いし、すぐ目の前を過ぎてしまいます。命よりも高価なものは存在しません。」

以下略(打村 明氏翻訳)

 

この会議でホセ・ムヒカ大統領は、環境危機を引き起こしている真の原因は消費至上主義であるということを指摘し、そして現在の経済発展は人類の幸福に結びついていない。むしろ経済格差が広がり続けている。世界が抱える諸問題の根源は我々の生き方そのもにあると説き、その現状を憂い、より良い未来へ向けて行動を起こせと呼びかけた。

 

ホセ・ムヒカ氏は1935年南米ウルグアイの貧しい家庭に生まれ、父親がなくなるなどの事情により幼い頃からパン屋、花屋で働き、10代からテロ活動を含む政治活動を始めた。1960年代初期から政治組織トウパマロスに加わり都市ゲリラに参加し、要人の誘拐、銀行強盗、ファシストとの闘いなどの武力闘争で身体に12箇所、足に13箇所の銃弾を受けた。獄中生活は13年に及ぶことをこの本を読んで知った。現在、好々爺のようなホセ・ムヒカ氏からは想像つかない修羅場をくぐってきたことがわかる。

 

給料の9割を貧しい人々のために寄付して10万円で生活する大統領は「世界で一番貧しい大統領」と呼ばれている。ホセ・ムヒカ大統領はそのことについて「大勢の国民にによって選ばれたなら、大勢の国民と同じように暮らすべきだ。政治の世界では大きな心と小さなポケットの人物が必要だ。」と述べている。

 

この本の中で、大統領に就任した時、先代の大統領からのアドバイスを受けたエピソードが載っていた。「大統領は大統領のように振舞わなければならない。だから、国民と一定の距離を置くこと」を勧められた。このことについてホセ・ムヒカは「わが国は共和国で君主国ではない。共和国は、大統領も同じ国民だ。政治家は自分に投票してくれた国民のように節度を持って生きなければならない。」と主張して自分のスタイルを通し続けてきた。儀式、形式にとらわれないやり方が多くの国民の支持を集めている。

 

この本読んで意外に思ったことは、2012年6月にブラジルのリオデジャネイロホセ・ムヒカ大統領が伝説のスピーチをした後の世界の報道機関と日本の報道機関との差異である。

このスピーチの後いち早く、「世界でいちばん貧しい大統領」へのインタビューとそれに基づく記事を掲載したのは世界的認知度のある以下の各紙であった。スペインの「エル・パイス」紙、フランスの「ル・モンド・ディプロマティーク」紙、イギリスの「ガーディアン」紙、「エコノミスト」紙、アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」紙、「ワシントン・ポスト」紙、ドイツの「デア・シュピーゲル」紙、イタリアの「コッリエーレ・デッラ」紙、「ラ・レプブリカ」紙などであった。まさに世界を代表する多くの報道機関がこのスピーチを大きく取り上げた。

 

また、イギリスのBBCは真っ先にメディアとして初めてムヒカの農園を訪れ、素顔のムヒカを報道した。それに続きドイツの放送局「ドイチェ・ヴェレ」、アメリカの「CNN」も続き、中国、韓国、アラブ諸国、ロシア、オーストラリアのメディアもウルグアイを取材に訪れたとこの本には書かれている。

しかし、日本の報道機関の名前は全く出てこない。アジアでは中国、韓国の名前はあるが日本の名前は出てこない。国際会議での日本の報道機関の報道姿勢や感性レベルが知れるような感じがした。

 

ホセ・ムヒカ氏は2016年に来日した。その時、日本各地を周り、そして、東京外国語大学で「日本人は本当に幸せですか」という題で講演をした。ホセ・ムヒカ氏の講演を再度じっくり聞こうと思う。