癌の治療をしている姉の自宅を訪ねた。姉は癌が骨に転移しているのが見つかり放射線治療を受けるため9月は大学病院に入院していた。今は、その放射線治療を終えて退院して自宅で過ごしている。
病状についてお医者さんから説明があるから一緒に行って欲しいと姉から連絡があって、私が姉とともにお医者さんの説明を受けたのは8月だった。
「2019年6月に大腸ガンを発症した。幸い初期段階であったので外科手術を行い完全に切除した。順調に回復しているように見えたが、2020年1月、体調不良を訴えたため検査したところ肺癌を発症していた。小さい癌巣が広く見られたため、外科手術はできず投薬治療を行った。投薬治療の結果、癌巣は幾分小さくなってきたが、反面、後遺症のため食欲不振、吐き気、倦怠感、痛みが見られた。途中、後遺症のため投薬治療を中断したり気分が良くなったらまた投薬治療を再開したりしながらこれまで治療を行ってきた。
しかし、2020年8月の検査で、今度は癌が腰骨に転移していることが発見された。この治療のため放射線照射による治療を10回行う」という説明をその時先生から聞いていた。
その後、姉が放射線治療を受けて退院したので、連れ合いと一緒に自宅を訪れて激励した。そして治療についての話を聞いた。
放射線治療は、当初は通院しながら治療を行っていたが、6回実施したところで倦怠感や痛みがひどく通院できなくなり、途中から入院して、そのまま最後まで放射線治療続けた。放射線治療後は体調がすぐれず、また腰部の痛みが酷いため、そのまま入院して痛みの緩和治療を含め治療を行った。治療を続けた結果、痛みは収まり9月末に退院した。退院後は、自宅で週2回ヘルパーさんに手伝ってもらいながら一人で生活していた。痛みは前より軽くなったけど、動きによってはズキンと来るときがあるので無理せずスローテンポで行動することを心がけていた。ただ、薬の後遺症なのか食欲はなく、食べても美味しいと感じないと姉は話していた。前からすると姉はずいぶん痩せたと私は思った。
10月に診察予定日が決まっているので、その時にまた先生から説明があるでしょうと言っていた。
診察予定日が過ぎたので経過を聞くため姉の自宅を再度訪れた。そして姉から先生の話を聞いた。
「今後の治療についてですが、今後は癌治療を中止します。投薬も放射線治療も今後は行いません。今まで、抗がん剤や放射線を使って治療をしてきましたが、その結果、後遺症でそれ以上に苦しむ状況が見られました。治療をすればするほど体力が衰え命を縮めることになりかねない状況まで来てしまいました。今後は癌治療を中止します。今後は痛みの緩和治療だけをしていきます。
今後は在宅介護ということで対応していきます。
今は、自宅で自分の力で日常生活を送ることができています。それができる日までは、自宅で自分の好きなように過ごして下さい。いよいよ力がなくなり、手助けが必要になったらそのケアーをしてもらえるように、その手配もしておきましょう。また体調が悪い時は近くの病院ですぐ見てもらえるようにまた訪問医療をしてもらえるように病院も決めましょう。そして近くの病院で見ることができなくなったら入院することになりますが、入院する病院も決めておきましょう。それらの手配を係がしますので係に良く相談してください。」という大学病院の先生のお話であった。
「先生、これまでお世話になりました。先生がこれ以上治療はもうできないとおっしゃたことはよくわかりました。そこで、お聞きしたいのですが、残りの余命はいかほどでしょうか?」と姉がお聞きしたら「そうですね。聞きたいですよね。・・・・・あと半年くらいです。」と言う先生の話をしてくれた。
「あと半年?」姉の話を聞きながら、姉が意外と落ち着いているのに驚いた。私は狼狽しているのに、当人は平静である。もし私が寿命が半年と言われたらこんなに平静でいられるだろうかと考えた。私は動揺して、おそらく人知れず泣くだろうと思う。
ここ数日間、姉もきっと泣いたことだろう。人前では変わらず笑顔で応対しているのを見て、周囲に余計な心配をかけまいとする姉の気持ちを理解したいと思った。