同志社大学教授の浜矩子先生が若者と対話をしながら講義をする、18歳のためのレッスン「グローバル市民の声が聞こえる」という番組を見た。
この番組は、2016年夏の参議院選挙から選挙権年齢が18歳に引き下げられるのを期に、若い人たちと社会問題を学び議論する場をつくり、そこから、現在私たちはどんな時代に生きているのか、日本はどこに向かおうとしているのか、一人ひとりが 考えていく材料に使ってほしいという思いで作られた番組である。
今回の浜矩子先生の教室には20代はじめの男女6名が参加していた。
番組は6名の若者に対して浜矩子先生が講義をして、それをもとに質疑応答という形で対話学習を進め理解を深めていく形で行われていた。
浜先生の講義を始める前に参加者の自己紹介が行われた。
参加者の自己紹介
20代はじめ女性会社員
私が気になっていることは、私の周りには政治に興味ない、政治なんかどうでもいいと思っている人がたくさんいる。だから選挙も行かないし、行く人に対してどうしていくの?あなたは偉いね!とかいう人がいる。私は実際にそのように言われて不愉快になる。そのような人たちと当たり前に政治の話をするためにはどうしたらいいのかなということを今は悩んだり考えたりしている。
大学2年生の男性
私は大学での研究課題で沖縄問題を知ったが、自分の周りの友達でそのような政治問題など考えている人は誰もいないように思う。みんな何に関心を持っているかというと1番は就職のことである。私の周りの友達はほとんど奨学金を借りている。大学生は卒業と同時に500万円の借金を背負わされる人が多い。借金のことや自分のことだけで精一杯で、沖縄のことや社会問題など考えられないという人が多い。そういう中でどうしたらいいのかと思っている。
19歳予備校生男性
私の父は原発をつくる仕事をしている。私の叔父さんは反原発運動をしている。私の親戚は自衛隊に勤務している。原発一つを取っても私自身どうしていいのかわからない。原発はダメと言われているが、どうしてダメなのが今も存在しているのか、どうして原発をなくさないといけないのかもう一度考えたいと思っている。
女子大生
今の日本には、戦後70年経っているのに日本帝国主義が残っているような感じがする。しかも一部の権力者たちの中だけでなく、国民の中に浸透しているような感じがする。なんでそのようになるのか疑問に思う。今日の課題のグローバル市民主義は世界の人と共に生きる感覚と捉えている。帝国主義ではない生き方という感じがする。人と人の繋がりがお金や物で繋がるのではなく、どうしたら人間同士の温かい普遍的な価値観で繋がることができるのかということを勉強したいと思っている。
男子大学生
私は半年前は政治や社会問題に興味もなく関心がなく、選挙も行ければ行ってもいい程度の感覚だった。そういう時にシールズの活動を見てておもしろそうだと思ってシールズの活動に参加した。今は人権問題と民主主義について関心があり勉強している。
男子大学生
自分が今一番関心がある問題は、社会の再分配である。奨学金の問題が出ていたが、今の日本の学生は奨学金に苦しんでいるという問題がある。例えば国が授業料を負担する形で、国が若者に投資をすることは中長期的に成長につながるということは事実なのに、そのような流れになっていない。そのような意味で再分配に関心がある。格差問題についても同様である。格差問題は格差があることは問題ではない。格差はあってもいいけど、底辺と言われるところに文化的生活の保障、学習する保障、生きるための保障が必要と思う。そのような保障をする再分配が必要と考える。現在の日本では再分配について問題が多いと思う。そういう意味で再分配問題にはとても関心がある。
この教室に参加した若い男女6名はどのような形で選出されたのかわからないが、若いけど皆んな問題意識の高い人ばかりだという印象であった。
まず浜矩子先生から「グローバル市民主義」についてグローバル市民主義はグローバル資本主義の対義語である。それに関連して経済活動とは何かという説明があった。経済活動は人間のみが行う幸せになるための営みである。ブラック企業という言葉があるが、ブラック企業は人間を幸せにしないのであるから、それは経済活動ではない、それは人間への抑圧行動であり経済活動というものではないという話が印象的であった。
浜矩子先生の講義の後、質疑応答が行われた。
「グローバル市民主義と国家との関係はどのように考えたらいいか」と言う問い対して、「グローバル市民主義における国家の主たる役割は弱者救済であり公共サービスを提供する社会国家という位置付けが重要です。今までの旧体制の中では富国強兵の強い国家が求められていたが、強い国家は国民を犠牲にして成立する。グローバル市民主義では強い国家像は求められていない」
「グローバル資本主義が起こした問題点を具体的に教えてください」という問いに対して、「一番の問題は貧困問題です。貧困は資本主義が大暴走した形と考えてよい。特に日本のように豊かさの中の貧困はたちが悪いと言わざるを得ない。そのような貧困問題に現れる資本主義の暴走に対してグローバル市民主義が歯止めをかける役割を果たすことができる。」
「いろんな社会問題に対して中立でいることは楽である。考えることもいらないし、しかし、最終的に物事に対して消極的になっていくだけである。私達は小中学校のときから、どっちの意見も聞こうねと言われ続け中立でいなきゃいけないように育てられたような感じがする。今になってみると悔しい感じがする。」という若者の発言に対して浜先生から「その悔しいという気持ちはとても大事です。中立というのは思考停止状態です。頭が何も働かないお休み状態です。中立を良いこととして、主権者教育がなされているのは思考停止を教育しているのと同じだと思う」
「中立を勧められる教育の中で思考停止状態にならないためにはどうすべきですか?」と言う問いに対して浜先生は「ケンカすべきです。自分の意見を持って闘うべきです。ケンカするように自分の主張をはっきりと言う習慣をつけるべきです。」と答えていた。
「政治問題に限らず、社会問題にしても若者は自分の意見を言わないという批判を受けることがある。アメリカの子供と日本の子供は小さい頃は同じだが、20年すぎると全く違う。アメリカの若者ははっきりと自分の意見を述べるが日本の若者は意見を言わないと批判される。これは若者の責任なのかと思うことがある。このように教育した大人の責任ではないかと思う。学校では同調圧力というものを感じたこともあった。そのような社会を変える必要性を強く感じる」と言う若者の意見があった
最後に新しく選挙権を持つ18歳に以下のようにアドバイスを述べていた
「選挙を楽しんでください。いろんな人がいろんな思いで選挙に出る。泡沫候補と言われている人がいたら何を主張しているかしっかり聞いてほしい。そこからまた面白い発見が出てくると思います。」
「今日の教室に参加した実感で言うと真剣に議論すればお互いに必ず信頼が生まれる。選挙についてどうすべきかわからないことがあれば、自分の周りの人と話をしてどうすべきかを考えてみよう。信頼する周りの人と話すことから始まると思う。」
「未成熟なのに大人の判断を迫られる不安があると思う。大人であるかどうかは年齢ではない。その人が自分の頭で考えることができるかどうかです。自分で考えて行動してください。」
「社会の中に自分の姿を認識してほしい。弱者の中に自分の姿を見出してもらいたい。そして、みんなでこの国の未来をつくるという気持ちを持ちましょう。」
「これから、いろんなものを自分の目で見てください。興味のあるもの、ないものなんでも見てやろうと言う気持ちを持ち続けてください。いろんなものを見ること、それがあなたの力になります。」
最後に浜矩子先生から
「これからの若い人はどうか目覚めてください。どうか知的覚醒度を高めてください。知的覚醒度を高めていく努力をお願いしたい。ボーとしていると知らないうちにとんでもない状況に追い込まれてしまうことになることを忘れないでください。」
この番組を見て、若者の意見を知って頼もしく思った。日本にこのような若者が多く育って欲しいと思う。日本の若者が意見を言わないことは、大人の責任という意見があったが、同感である。気づかないまま旧態依然と放置してきたことに大人としての責任を感じる。グローバル市民主義を日本に根付かせるためには、意見を言う若者を育てることから始めなければならないと思う。