ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

日本経済の衰退と経済再生

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「日本のオルタナティブ(代案)」壊れた社会を再生させる18の提言を読んだ。

 

第1章においては、立教大学金子勝教授が経済再生の道を示されていた。現状認識として書かれていた日本の産業の実態を知って、その衰退ぶりに驚いた。

 

「日本経済の衰退が止まらない。そして、安倍政権時代、政府は、公文書や政府統計を改ざんして、ごまかしてきた。そもそもアベノミクスによる異常な金融緩和はある種の粉飾であった。それは株高や大都市の不動産価格の上昇などのバブルを生み出すだけで、経済の繁栄では決してなく経済の衰退を進行させた。

アベノミクスがもたらした六つの大罪は以下の通りである。

1 実質賃金の継続的低下

2 産業の著しい衰退

3 貿易赤字の定着

4 人口減少の加速と地域経済の疲弊

5 金融機関とくに地方銀行の経営困難

6 財政赤字の累積増加と中央銀行の機能麻痺

 

日本経済の基底的な問題は1997年の金融バブル崩壊以降、ずっと実質賃金が下落し続けていることである。それにより中位の所得が下がり続けたため、格差と貧困を拡大させてきた。団塊の世代が退職したためにバブル期並みに有効求人倍率が上昇したが、実質賃金は下がり続けている。どう見ても異常な状況が続いている。なぜ、異常なまでに賃金が継続的に下がり続けているか、それは日本の産業が衰退しているからである。

 

クラウドコンピューティング、第五世代通信(5G)、半導体、ディスプレイ、デジタル通信機器、太陽光電池、リチウム電池、バイオ医薬品、東芝や三菱に代表されるエネルギーや重電機など、かつて世界的に活躍していた分野においても、今はあらゆる分野で世界シェアを失っている。

とくに現在の先端技術分野での遅れは顕著である。今注目の分野において精彩を放っている日本企業はみられない。

 

2017年の世界研究開発支出の多い企業ランキングには1位アマゾン、2位グーグル、3位インテル、4位サムスン、5位フォルクスワーゲン、6位マイクロソフト、ファーウエイ、7位ロシェ、8位メルク、9位アップル、10位ノベルティスとなっており、かつて上位を占めていた日本企業は11位トヨタ、19位ホンダを除けば殆どが取り残されている。その自動車も電気自動車や自動運転の分野で遅れが指摘されている。

 

これは昨日今日、始まったことではないらしい。私が無知で知らなかっただけで、失われた10年とか20年とか言われてきたように、昔から始まっていたということであった。

日本が、国内総生産アメリカに次いで世界二位の座を中国に抜かれたのは、2010年だったと書いてある。そしてそれと同じ頃、日本が誇りとしていた電気・電子産業の大手9社(日立、東芝、三菱電気、パナソニックソニー、シャープ、日本電気富士通三洋電機)の2009年度の営業利益の合計は韓国のサムソン電子1社にかなわない状況になってしまっていたという記事もあった。

 

安倍政権は、福島第一原発事故後も原発再稼働・輸出路線を取ったために、東芝をはじめ重電機メーカーの経営危機を導き、世界一だった太陽光電池産業を完全に破壊した。官民ファンドの産業革新投資機構を通じて出資する半導体産業(ルネサス)やディスプレイ産業(JDJ)に失敗し、おまけに対韓国輸出規制によって半導体有機ELを提供する日本の科学産業に大打撃を与えた。さらにニューライフサイエンスにおいては不透明な加計学園に対する許認可問題、スーパーコンピュータはペジーコンピューティングによる補助金詐欺などが発生した。バイオ医薬品産業では、武田薬品はシャイヤーの買収で経営困難に陥り、リニア新幹線南アルプスの難工事で莫大なコスト増加となり採算が取れない状況のまま突き進んでいる。

これまで取り組んだ構造改革特区や国家戦略特区は「改革利権」を選ばれた人たちに分配するだけで、何一つ画期的な新産業を生み出していない。むしろ貴重な予算を無駄にして、先端産業分野においてどんどん世界から取り残される結果をもたらしている。

 

産業の衰退は貿易赤字となって現れている。かつての日本は競争力のある産業をたくさん抱えていたので貿易黒字が当たり前であった。しかし、いまや産業衰退が貿易赤字をもたらしている。2018年に1兆2246億円の貿易赤字、2019年に1兆6438億円の貿易赤字に拡大している。

いまや日本国内では、東芝オリンパスなどの不正会計だけでなく、三菱自動車神戸製鋼東洋ゴム旭化成建材、日産、スバル、三菱マテリアル東レ、日立化成、クボタ、KYB、IHIなど、相次いで有名大企業において無資格者による品質管理やデーター改ざんが露見している。高品質を誇ってきた日本のもの作りは危機的状況にあると言ってよい。このままでは2020年代に大幅な貿易赤字が定着していく危険がある」と結んでいた。

 

そのような状況の中、日本が取り組むべき課題は経済成長している他国に学ぶべきという提言であった。現在は、技術の転換が速くて激しい時代であり、産業の国家戦略とプラットフォームの形成が極めて重要である。技術転換が厳しいと初期投資の赤字や基盤技術への投資を民間企業にだけ担わせることに無理が生じる。実際、アメリカや中国みたいに情報通信やエネルギーなどで国家戦略を持って取り組んだ国が著しい経済成長をしている。北欧諸国も研究開発投資や教育投資を通じて先端産業を育成し雇用を創出している。

ところが日本の場合、経済産業省は既存の業界利益追求体質のため、バイオ医薬、エネルギー転換といった先端産業をことごとく潰してきた。業界利益追求体質を脱却して解体再編すべきと提言されていた。また、情報通信産業においては中国、韓国、台湾など東アジア各地の先端分野について謙虚に学びつつ競争し、アジア諸国と積極的に連携したり水平分業したりすることが必要と提言されていた。

 

「日本のオルタナティブ」を読む限り、日本の経済衰退の根本問題は政治問題であるようだ。アベノミクスを推進した安倍政権とそれをただただ引き継いでいる管政権を退陣させることしか日本の経済再生の未来はないように思う。