ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「関西電力 反原発町長暗殺指令」を読む

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1999年12月、関西電力の高浜原発の警備を担当していたダイニチは、獰猛だが命令に忠実な特殊犬を“警備犬”として使って高浜原発の警備を行なっていた。そのダイニチの担当者二人に対して、関西電力の高浜原発の統括責任者Kが、原発事業を巡って対立していた高浜町の今井理一町長(当時)を襲撃せよと二人に迫った。「町長を犬で殺れ! 絶対に誰がやったかわからん方法というのは犬のことや。原発の警備につこうとる殺傷能力ピカイチの犬や。やってしもうた犬を捕獲しても、犬は誰の命令か言えへん。犬が突然凶暴になってしもうたと言えばなんの証拠もあらへん。凶器は犬や。」ダイニチの担当者の一人はそのように支持されたと証言している。

その指示は実際に実行されることはなかったが、この本はそのように指示されたことを暴露している内容であった。

 

著者はダイニチの二人からの情報提供を受け、事実確認のさまざまな調査を行なっている。今井理一町長にも取材が行われた。その時の取材で今井町長は

「原電の町(原発がある町)はやっぱり、原電(を運営する企業)の言いなりというのが、どこでも現状や。議会はおろか、首長だって、みんななびいてしまう。いや、なびかなけれなやっていけないところがあるんや。そりゃそうだろう。原電があるだけで、莫大な補助金が下りてくる。町は潤う。原電に関わっている業者だって当然潤う。ワシを狙ったという原電警備に犬を使う警備会社だってそうやろ。原電の言いなりや。言いなりというか原電側の人間や。原電の町で生きていくちゅうのはそういうことや。豊かな生活や金を得るのは、こういう町ではさほど難しいことやあらへん。原電側に忠義を尽くせばまず安泰や。どんな業種もそうや。その忠実度が高ければ高いほど生活の安定は得られる。ただし、原電側の言うことに背くことはできん。なんでも言いなりや。豊かな生活はそれと引き換えや。これは原電がある町の宿命と言ってもええ。県だってそうや。関電の原電は全部福井県にある。だから、県自体が関電の言いなりにならざるを得んところがあるんや。それが現実なんや。ところが、原電に対して首を縦に振らん首長が出てきたらどうする。たとえ議会で決まっても、首長の権限でそれを覆すことができるんや。原電側の言いなりにならん男が出てきたらどうなるんか。ワシは原電側に屈しない。おかしいことはおかしいと言う。意見を曲げない。だから、ワシのことを消せということになるんちゃうか?わしは町長を11年やっている。関電に町長として反発したことはいくらでもある。いつもと言ってええくらいある。」

 

著者はこの本の出版にあたって、関西電力広報室に質問状を送り回答を得ている。

問、関西電力高浜原発の統括責任者Kによるダイニチへの今井理一町長殺害支持は事実か?

答、本人及び当時の上司、部下に確認したが、そのような事実はない

 

別の公判においてKは、この暗殺指令のことを質問されて「今井町長を襲うという話を冗談で1回話したことがある」と述べている。

 

2011年3月11日の東日本大震災後、高浜原発では4基中3基が定期検査に入った。また唯一稼働していた3号機も2012年に定期検査に入った。一方、地元高浜町では、町議会が「原発再稼働を求める意見書」を採択、町民の間からも同じ要請が出た。地元には、関電社員の町議もいれば、原発関連の下請け業者を兼ねる町議も存在する。高浜町では、高浜原発1号機が運転を始めた1974年から現在まで電源三法交付金など累計1320億円もの歳入があったという。福島原発の過酷事故があろうとも交付金依存体質から抜け出すのは難しい。

 

関西電力原発再稼働を急いでいる。再稼働したい理由は燃料費である。原発を1基動かすと、1日1~2億円儲かる。年間で400~900億円儲かる。関西電力のように原発が多い電力会社は何が何でもやりたい。結局は目の前の銭の問題である。「今だけカネだけ自分の会社だけ」という論理のみで原発が推進される。

 

2021年3月26日、関西電力は来年度から5年間の経営方針を示す中期経営計画を発表し、収益力の改善に向け、40年超運転の原発を含めた、原発7基体制の実現の重要性を強調した。関西電力の中期経営計画によると、収益性の改善のためコスト面の構造改革を行うほか、運転開始から40年を超え現在停止している、美浜原発3号機や高浜原発1・2号機を含む、原発7基体制を実現し、競争力を高めることが重要と位置付けている。

 

この本は2011年12月に発行されている。暗殺指令のターゲットになった今井理一町長は1996年から首長を3期務めた後、2008年に町政から退いた。暗殺指令はダイニチの二人が言うように真剣だったのか、あるいは関西電力の統括責任者が言うように冗談だったのか私はわからない。しかし、仮に冗談だったとしてもおぞましいことである。そして原発は今も利益誘導によって人の心を踏みにじっていく。