「時代の異端者たち」は青木理氏が各界のスペシャリスト9人との対談を編集して出版されたものである。この著書の紹介の中で青木氏は
「本書に登場いただいた方は、それぞれの分野で一流のスペシャリストであり、本来であればそれぞれの分野の中心的人物として中枢を歩み続けていく、あるいは歩み続けてもおかしくなかったような方々である。ところが、そうした方々が、ろくでもない現在に抗う形で、政治的発言を余儀なくされ、必死で警告を発する役回りを担わされている。つまり、元々は決して「抵抗者」などと呼ぶべき存在ではないのに、時代と社会の歪みが彼らをして「抵抗者」たらざるを得なくしてしまっている。ーーーそんな含意が「時代の異端者たち」というタイトルには込められている」と述べていた。
対談者のお一人である河野洋平氏の対談を読む。この対談は、2019年8月、安倍政権時代に行われたものである。
河野洋平氏の略歴は以下のとおりである
1937年生まれ、1967年自民党から衆議院初当選。76年に離党、新自由クラブ結成。85年科学技術庁長官。86年自民党に復党。93年宮沢内閣官房長官。94年自由民主党総裁。95年副総理・外務大臣。2003年から2009年まで衆議院議長を務める。2009年政界引退。
河野洋平氏は、一時期、自民党を飛び出したこともあったが、以前以後は一貫して自民党に所属し、自民党では総裁を務め、政府では官房長官や外相、副総理を歴任した方で自民党の主流を長く歩まれた方である。
また、河野洋平氏は、宮沢内閣の官房長官時代の1991年に、慰安婦問題に関して「心からのお詫びと反省」を込めた官房長官談話を表明した。このことから、自民党内外の、この談話に憎悪と敵意を燃やして台頭した歴史修正主義者らから様々な攻撃にさらされてきた方でもある。それでも、どんなに批判されても植民地支配をした過去はなくならないと言って筋を通した方である。
青木氏が日本の外交について河野氏に考えを尋ねる。
「最近の日本外交はひどい状況だと思います。外交ではまず、何よりも近隣諸国との関係が大切です。日韓、日中などいずれも問題が多くあります。安全保障の面においても経済や文化の面においても近隣の国と上手く付き合うのは最も重要なことです。
近隣外交で大切なのは、やはり歴史認識の問題です。今や自民党の中は「いつまで昔のことを引きずっているんだ」という雰囲気一色です。いくら過去の歴史を真摯に考えるべきだと言っても、「お前はまだそんなことを言っているのか」と一蹴する雰囲気に覆われてしまっています。しかし、いくら加害者が過去を忘れても、被害者は忘れません。植民地支配した過去は無くならない。韓国などでは常に火種となってくすぶっています。こちらがそれを慮っている限りは出てこなくても、そうじゃなくなるとすぐに炎が立ち上がる火種はやはりあるんです。
70年経とうが、おそらくは100年経っても、この火種自体はなくならないでしょう。植民地支配をし、言葉を奪い、名前も変えさせ、朝鮮民族だというだけで蔑んできたのは事実であって、それだけのことをしてしまったのです。だから、相互にどんな話をするにしても、仮に口で言わなかったとしても、我々は過去に植民地支配し、ひどいことをしてしまった歴史があるんだということが頭のどこかにあれば、物の言い方にしても、対応の仕方にしても、現在のようなこんな外交には決してならないはずです。
日本と中国の外交関係もかなり心配です。決して安心はできません。どんどん状況は悪くなっています。だからどこかで局面を変える乾坤一擲が必要かもしれないと私は考えています。非現実的と言われるかもしれませんが、例えば核の傘を放棄してみる、というはどうでしょうか。我々は核の傘を脱いで裸になりますと宣言する。核の傘を一度脱いで裸になりますと宣言し、その代わり核の脅威には徹底して外交で対処する。アメリカに対して核の傘を出ますと宣言し、自分たちの姿勢を鮮明にした上で、現在は不参加になっている核兵器禁止条約にももちろん参加し、国際世論と一緒になって核保有国には核軍縮、核廃絶を積極的に求めていく。
それが日米安保体制の見直しもつながります。日米安保体制は重要ですが、一度ゼロベースでそのあり方を考え直してはどうかと思います。
青木と河野洋平氏との対談を読んで、自民党の長老である河野洋平氏の発言を聞いて、とても驚いた。かつての保守政治がいかに幅広く、深い叡智を有していたかを思い知らされた。かつての自民党には政党としての懐の深さ、度量の広さがあった。それがあればこそ、多くの国民に支持されてきたのだと思う。国民政党として長年国政を担ってきた所以だと納得した。それに引き換え、同じ自民党と言いながら、現在の自民党が憲法を無視し、国会では嘘を連発し、国会審議を軽んじ、戦争法案を強行し、国民を分断し、格差を広げるための税制を実行するなど、これほどまで劣化したのは隔世の感がすると青木氏も語っていたが、私も全く同感である。
菅首相は国民のための政治を実行すると口では言いながら、その気もなく、無作為を続け、オリンピックが終わればオリンピック熱気で国民は何もかも忘れると目眩しのオリンピックを強行したが、予想に反して国民は怒ったままで支持率が急落した。自民党は慌てて、これでは来るべき国政選挙で勝てないと言って、選挙用看板を変えようと総裁選びに明け暮れているが、看板を変えたところで本質が変わらない限りとても支持できない。
安全保障問題にしても、日本は、アメリカの核の傘に守られ、そのため、アメリカと一緒になってアメリカ軍の二軍として戦争に参加していく道しか日本国の生きる道はないのかと思う。今まで、安倍政権が行なってきた憲法を無視した法改正の流れでは日本の進むべき道はアメリカ軍にべったりついていくしか日本の生きる道はないみたいな雰囲気である。本当にそれしか日本が国際社会で生きていく道はないのだろうか?
河野洋平氏が言うように、日本は日本国憲法によって、戦争を放棄した国である。戦争を放棄した国が核の傘によって戦争に巻き込まれるなら、核の傘を出て日本独自の道を歩むことも真剣に検討していくべきではないかと思う。核の傘を出ることはできないのか?できない理由は何か?どうしたらできるようになるのか?安全保障という日本の未来について、国会で真剣に国民にわかるように、議論ができる国会議員がいる政党を支持したいと思う。
昔の自民党には、見識を備えた人物が多く見られたが、今の自民党にはあまり期待できそうにない。日本の舵取りを任せたいという政党の出現を一日も早く望む。