日本財団が行った中国やインド、アメリカなど世界9カ国で若者を対象に実施した18歳意識調査では、自分の国の将来について良くなると答えた日本の若者はわずか9.6%で最低であった。さらに自分で国や社会を変えられると思うかという問いに関して変えられると思うと答えたのは日本は18.3%でこれも9カ国中最下位となった。日本の若者が世界で1番、自分の国に希望を持てないと答えていることにショックを受けた。
解説には以下のことも書いてあった。この意識調査は若者の意識調査なので若者の問題という風に捉えられがちであるが、本当は若者の問題ではない。若者が希望を見出せないのは、希望をもって働けない社会が現にあるからであると書かれていた。
希望を持って働けない社会というのはどういうことだろうかと考えていたところ、今野春貴氏の著書「ブラック企業」を読んだ。
ブラック企業というのは暴力団のフロント企業という昔のイメージではなく、「違法な労働条件で若者を働かせる企業」のことである。この本を読み、その実態に触れて、若者が希望を持てない理由の一端がわかったような気がした。ブラック企業問題はそこに勤める個人の問題でなく、すでに社会問題に及んでいると思った。
若者を取り巻く労働環境
日本の若者が就職するときに直面するのが正規雇用と非正規雇用という労働環境である。
正規雇用と非正規雇用とでは生涯にわたって受け取る賃金に大きな格差が生じる。また、終身雇用、年功賃金、企業福祉などの恩恵についても大きな隔たりが生じる。どんなに努力しても将来を通じて、生活が安定化することがないのが非正規雇用であり、非正規雇用では結婚もできないし子供も持てない。
非正規雇用は将来にわたって貧困であると認識され、非正規雇用の問題は、若者に対し「先のない雇用」を押し付け将来を奪っていると考えられる点である。学校では非正規雇用と正規社員の生涯賃金の格差が表に示され、非正規雇用(フリーター)になるととても悲惨であると指導されている。
そうした非正規雇用の不安定という構図は、若者を正規社員を目指す熾烈な競争に駆り立てることになる。非正規雇用(フリーター)になるととても悲惨だと言われても、全員が正社員になれるわけではない。これまで財界や政界では「非正規雇用を増やす必要がある」と盛んに論じ「働き方改革」などという美名の下に、雇用に関する規制緩和を進め非正規雇用をどんどん増やしてきたからである。若者の努力だけではどうしようもない現実がある。すでに日本の労働環境は、雇用者の40%、5人に2人は非正規雇用である。
そのような中、現在、日本では若者の鬱病が多発しているという現実がある。若者の鬱病は、ブラック企業によってもたらされるものであるが、これはこの日本の労働環境がブラック企業の温床になっているという指摘がある。ブラック企業の実態の一つに「大量採用、大量離職」という実態があるということが書かれていた。
例えば、衣料品のX社は超大手の衣料品販売業で、グローバル企業を標榜している会社である。もちろん就職活動においても非常に人気の高い企業である。そのX社では、1年目の新卒者が大量に辞めていくというのである。新卒大卒者を大量に採用して、精神疾患に至るまで追い詰めて、大量の退職者が出ているというのである。
この会社では、入社したあと即戦力対応の徹底した研修が行なわれる。さらに半年で店長という目標に向けて自己学習を強要される。そのために、プライベートな時間も全て投入して取り組まなければ生き残れない状況が続く。実際に半年で店長になれるのは4分の1であるが、半年で店長になれて普通、それができなければ、徐々にX社にいられなくなる。店長にならないと残ることもできない。正規雇用されても「選抜」は終わらない。店長になって初めて本当の社員になる。店長になることができなかった者たちは精神を病んで自己都合扱いで辞めていく。
X社に限らず「ブラック企業」の特徴は入社してからも終わらない「選抜」があるということと、会社への極端な「従順さ」を強いられることである。これらのブラック企業は自社の成長のためなら、将来ある若い人材をいくらでも犠牲にしていくという姿勢が共通している。経営が厳しいから労務管理が劣悪になるのではなく、成長するための当然の条件として人材の使い潰しが行われる。いくら好景気になろうが、例え世界で最大の業績を上げようが、彼らの社員への待遇は変わることがない。結局のところ、これらのブラック企業に入社しても若者は働き続けることができない。ブラック企業にとって新卒・若者の価値は極端に低い。新卒・若者は「代わりはいくらでもいる」取り替えのきく「在庫」にしかすぎないと考えているようだ。正社員になることを唯一の解答として与えられてきた若者にとって正社員になったとしても、必ずしも安定が保証されないという事実は残酷としか言いようがない事態である。
しかし、ブラック企業問題は単に個人問題にとどまらず、すでに社会的問題である。日本には、このようなブラック企業が多くなっているという指摘がある。X社のように自社の成長のために若者を使い潰す企業が増えれば日本の未来はない。ブラック企業問題は日本の大きな労働問題として早急に解決に取り組む必要を感じる。