ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「人権がわからない政治家たち」を読む その2

f:id:battenjiiji:20220106213635j:plain

自民党は、衆院選憲法改正に前向きな日本維新の会や国民民主党議席を伸ばしたことを踏まえ、改憲論議を加速しようとしている。自民党は2018年に、〈1〉自衛隊の根拠規定の明記〈2〉緊急事態条項の創設〈3〉参院選の合区解消〈4〉教育充実――の4項目の改憲案をまとめているが、憲法学者の小林教授はそれらの内容について著書「人権がわからない政治家たち」の中で「無知と矛盾の自民党改憲論」と酷評している。

その一つである自民党の「緊急事態条項」について小林教授は次のように述べていた。

混乱に乗じて改憲を主張する不謹慎
新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえた対応策の延長線上で、自民党は、憲法を改正して「緊急事態条項」を新設する提案を政治的に先に進めようとしている。自民党は2012年に党議決定した憲法改正草案の99条で次のような構想を示している。つまり、首相が緊急事態を宣言したら、①内閣は、国会から立法権と財産権を奪い、②首相は地方自治体に対する指示権を得て、③国民は公の機関の指示に従う義務を負う。また、自民党が2018年に党議決定した改憲4項目の中でも緊急時には内閣が立法権を行使できるとしている。
一般に、「緊急事態法制」とは、戦争や天災で国家の存立そのものが危機に瀕した場合には、三権分立制度の下でゆっくりと政策を決定・執行している余裕がないため、首相に国家の全権を一時的に集中して迅速に危機に対応してまず国を救おうという考え方を実践するものである。このような制度は、自由と民主主義の確立した諸国にも例外法性として存在する。
だから、その点では、我が国現行憲法にも、緊急事態法制の根拠条文はすでに明記されている。つまり、13条は「国民の権利は、公共の福祉に反しない限り国政の上で最大の尊重を必要とする」と規定しており、それはすなわち、「公共の福祉(国民総体の重要な利益、例えば国家の存亡)が求める場合には国民の人権といえども制約できる」という意味である。そして、現に、その規定に基づいて災害対策基本法感染症予防・医療法等の緊急事態法制が整備されている。今回の新型コロナウイルスに対しては、政府による決定が遅れた政治責任の問題は残ったが、それはそれとして、危機対応の法制、ましては憲法条文に不備はない。にもかかわらず、コロナ禍で国民の危機意識を煽り、しかも政治を統制する最高峰である憲法の改悪を進めようとする自民党の姿勢は不謹慎である。緊急事態条項の最も重要な政治的「条件」は「信頼できる」政府に大権を託すことである。その点で現政権は失格であろう。』と述べている。

 

同じく憲法学者の木村草太氏は、自民党の「緊急事態条項」の各条文を吟味した結果を以下のようにまとめている。

自民党案による緊急事態宣言の効果は強大である。緊急事態宣言中は内閣によって法律が作られ、裁判所の権限を奪うことができる。内閣だけで財政上の支出が自由にできる。地方自治を内閣の意思で制限できる。意に沿わない地方自治の長を罷免することもできる。緊急事態宣言中は人権侵害が許されることで、報道の自由や財産権の侵害に歯止めが効かなくなるなどが起こることが想像できる。まず、内閣は、曖昧かつ緩やかな条件・手続きの下で、緊急事態を宣言できる。そして、緊急事態宣言中、三権分立地方自治基本的人権の保障は制限され、というより、ほぼ停止され、内閣独裁という体制が出来上がる。これは、「緊急事態条項」というより、「内閣独裁権条項」と呼んだ方が正しい』と述べ、緊急事態条項の各条文は相当危険であると警告している。
また、安倍元首相が、「こうした緊急事態条項は、国際的に多数の国が採用している憲法の条文であり、導入の必要が高く、また濫用の心配はない」と述べていることについて、確かに、憲法上の緊急事態条項は多数の国が採用しているが、自民党草案のような内閣独裁条項は比較法的に異常と言わざるを得ないと述べている。

お二人の憲法学者の意見を見聞きして、自民党政権憲法改悪のやり方に怒りを感じる。
緊急事態条項は先進国の多くの国が採用している例外法制であり、現行の日本国憲法にも不備なく存在しているにもかかわらず、発動要件が曖昧な上に、政府の権限を不用意に拡大し他国と比較しても異常と思えるほどの「内閣独裁条項」をコロナ禍という危機に乗じて改憲しようとする現在の内閣は何一つ信頼できないとあらためて思った。信頼できない人たちから政治を取り戻さない限り、日本に明るい未来はない。