ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「あの戦争は何だったのか」を読む

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この本は2005年に大人のための歴史教科書として書かれたものである。保坂氏は冒頭、次のように語っていた。
『「太平洋戦争とは一体何だったのか」、戦後60年の月日が流れたわけだが、いまだに我々日本人はこの問いにきちんと答えを出していないように思える。
戦後60年の間、太平洋戦争は様々に語られ、捉えられてきた。しかし、戦争を語り継ぐ会などの個人的体験は語られても、太平洋戦争を本質的に総体として捉えた発言はなかった。「あの戦争とは何であったのか、どうして始まって、どうして負けたのか」ーーー圧倒的な力の差があるアメリカに戦争するなんて無謀だと、小学生だってわかる歴史的検証さえも十分なされていないのである。その結果、日本人全体が歴史としての「戦争」に対して、“あまりに無知”となるに至ったのである。知的退廃が取り返しのつかないほど進んでしまった、と私には思われる。

現在の日本の若者の多くが日本の近現代史を知らない。日本史は必修科目ではないので高校で日本史を学ばなかったものも多い。これではアジアの国々から、「日本は侵略をしたのだから謝罪しろ」と政治的プロパガンダを伴って言われれば、戦争のことをまるで知らないのだから、相手が言うなりのまま謝罪するしかない。日本の若者は、相手の言うことを理解した上できちんと反論する、あるいは共通の基盤をつくる、そうしたディスカッションさえできなくなっている。

本当に真面目に平和ということを考えるならば、戦争を知らなければ決して語れないだろう。だが、戦争の内実を知ろうとしなかった。日本という国は、あれだけの戦争を体験しながら、戦争を知ることに不勉強で、不熱心であった。日本社会全体が、戦争という歴史を忘却していくことが一つの進歩のように思い込んでいるような気さえする。国民的な性格の弱さ、狡さと言い換えてもいいかもしれない。日本人は戦争を知ることから逃げてきたのだ。ロンドンには「戦争博物館」というものがある。ここには第1次世界大戦以降の戦争の歴史が淡々と展示されている。ナチスドイツの制服や武器といったものまでもドキュメントとしてある。しかし、決して非難めいて陳列されているわけではない。また、館の入り口には館長の言葉として、こう書かれている。「展示をしっかりとご覧ください。全て現実にあった出来事です。そしてあとは自分で考えることです」と

あの戦争にはどういう意味があったのか、何のために310万人もの日本人が死んだのか、きちんと見据えなければならない。歴史を歴史に返せば、まず単純に「人はどう生きたか」を確認しようじゃないかということに至る。そしてそれらを普遍化し、より緻密に見て問題の本質を見出すこと。その上で「あの戦争は何を意味して、どうして負けたのか、どういう構造の中でどういうことが起こったのか」ーーー本書の目的は、それを明確にすることである。』

太平洋戦争は誰が起こしたのかと言う問題点を抱えてこの本を読み終えた。当時の日本の戦争指導者は、開戦直前の日米の総合力比は陸軍省戦備課の調査で1対10であるという事実を知っていて、それでも開戦に突き進んだことに驚いた。また、1945年12月8日、朝7時のラジオから流れてくる「米英への開戦」の臨時ニュースを聞いたほとんど多くの日本国民は歓喜に沸き、万歳、万歳の声さえ上ったと言うことを知って驚いた。無謀とわかっていながら、誰もノーと言わず始まってしまい、そしてそれを待ち望んでいたように歓喜する国民という日本の姿がそこにあった。

現代人として、冷静にみると不可解なことばかりであるが、開戦前の軍部の動向や国民の言動をあらためて見直しながら、伊丹万作氏が書かれた「戦争責任者の問題」という文章を思い出した。
伊丹万作氏は次のように言っている。
「多くの人が、今度の戦争で騙されていたという。みながみな口を揃えて騙されていたという。私の知ってる範囲では、おれが騙したのだと言った人間はまだ一人もいない。ここらあたりから、もうボツボツ分からなくなってくる。多くの人は騙したものと騙されたものとの区別ははっきりしてると思ってるようであるが、それは実は錯覚らしいのである。例えば、民間のものは軍や官に騙されたと思っているが、軍や官の中へ入れば皆、上の方をさして、上から騙されたと言うだろう。上の方へ行けば、さらにもっと上の方から騙されたと言うに決まっている。すると、最後にはたった一人か二人の人間が残る勘定になるが、いくら何でも、わずか一人や二人の智慧で1億の人間が騙されるわけのものではない・・・・・」

長い年月をかけて、騙され続けてきた国民だから無謀な戦争とわかっていても止められなかったのだと言うことだけは「あの戦争は何だったのか」を読んでわかった気がする。二度とこのようなことにならないようにするためには伊丹万作氏が言われている「騙されることそのものが悪である」と言う言葉をしっかり心に留めて生きていこうと思う。