ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

ベアテ・シロタ・ゴードンさんと日本国憲法

平野貞夫さん・佐高信さん・早野透さんの三人が対談する三爺じ放談を聞いた。その中で、佐高さんがベアテ・シロタ・ゴードンさんについて話しているのを聞いた。彼女はウクライナ出身で日本国憲法の基礎を作った人であるという話をしていた。私はベアテ・シロタ・ゴードンさんのことは全く知らなかった。話を聞いて、日本のためにこれほど価値あることをやっていただいたことに感動さえ覚えた。

ベアテ・シロタ・ゴードンさん(1923年生〜2012年没 享年89歳)はウクライナ人の父母を持ち、少女時代(5歳〜15歳)を日本で過ごした方である。ベアテさんのお父さんは世界的に有名なピアニストで東京芸術大学の教授に招聘されて来日した。そのお父さんに同行して5歳の時に来日して以来15歳まで、大学進学で渡米するまで日本に住んだ。米国滞在中の大学時代に大平洋戦争が始まり、戦争中は米国に留まり、終戦後、22才の時に英語、ドイツ語、フランス語、日本語、ロシア語に堪能なことから連合国軍総司令部(GHQ)の民間人スタッフとして採用され再来日した。


GHQは日本民主化のため新憲法の作成を日本政府に命じて作らせたが、その試案は旧憲法の精神を引き継ぐもので到底容認できないものであった。GHQ日本国憲法草案を自ら作ることを決定して、25名のスタッフを選任して日本国憲法草案作成委員会が作られた。ベアテさんはそのスタッフに抜擢され、人権委員会の担当を命じられた。人権委員会のスタッフは男性2名と女性のベアテさんの合わせて3名で担当することになり、ベアテさんは女性の人権を担当することになった。

憲法の旧民法第14条においては、「妻が次に掲げる行為を為すには夫の許可を受けたることを要す 1相続の承認、放棄、2訴訟行為、3借財又は保証 以下略」とあった。
戦前の旧民法下では、女性は財産権を持つことも、離婚裁判をすることもできなかった。そればかりか、旧憲法183条においては、「有夫の婦 姦通したるときは2年以下の懲役に処す」と定められていた。妾を持つなど夫の浮気は公然と認められても、妻の浮気は犯罪として処罰された時代であった


ベアテさんは、日本に住んでいる時に、日本の女性は、自分が好きな人と自由に結婚できない、親の言う通りにしなければならないことを聞いて知っていた。日本のお嫁さんは子供ができないと実家に帰される。不作の時に日本では娘を売ることが行われるなど日本の女性は権利を持っていないことを知っていた。ベアテさんは日本国憲法草案に女性の権利を盛り込むことが重要だと考えた。戦前の日本には人権という意識がなかった。日本国民は天皇に使える民、臣民であった。ベアテさんにとって日本女性の人権の低さはとても問題であった。ベアテさんは法律の専門家ではなかったが、日本の女性の権利を出来るだけ憲法に盛り込むことに取り組んだ。


その結果、新しく誕生したのが下記の第14条と第24条である。〔平等原則、貴族制度の否認及び栄典の限界〕「第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。」

〔家族関係における個人の尊厳と両性の平等〕「第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」

憲法草案を日本政府に提示し、協議検討していく中で日本政府が強く反発した項目が女性の権利であったとベアテさんは語っている。旧憲法においても旧民法においても女性の権利は皆無であったため衝撃的だったようだ。その席上、GHQの責任者が、「その条項は、日本をよく知るベアテさんが確固たる信念でつくったので、これで可決しましょう」と言って決まったと語っていた。

ベアテさんは2008年に日本に来日した折、土井たか子さんが開催した日本国憲法についての勉強会に出席されている。その席上、土井たか子さんは、「ベアテさんは法律の専門家ではないが、ベアテさんはこの仕事を与えられて、日本の女性が幸せになってほしいという祈りに似た思いでこの仕事をされた。この思いが非常に秀でた仕事につながったと思います。ベアテさんは偉くなろうとかいう気持ちは微塵もなく、ただただ私たち日本人のために頑張って仕事をしてくれたということがよくわかる。それを思うとただただ感激と感動でいっぱいになります」と感謝の言葉を述べておられた。

今日、日本女性が参政権を持つのもこの憲法のお陰である。この日本国憲法を大事にしていかなければと改めて思う。