ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

映画「あなた、その川を渡らないで」を見た

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映画「あなた、その川を渡らないで」はドキュメンタリー映画である。この映画の主人公は韓国の田舎に住む結婚76年目になる仲良しご夫婦である。夫98歳、妻89歳のこのご夫婦は月に一度開かれる市場に、いつもお揃いの民族衣装を着て、いつも仲良く手をつないで市場にやって来る。それを地元の新聞が楽しい話題として小さな記事にした。それを目にした韓国の映画監督が興味を持ち、このご夫婦を撮りたいと思って泊まり込み、日常生活をとり続け、ご主人が亡くなるまでの一年半の記録からできた作品である。ご夫婦の会話や日常の生活ぶりを追っただけの内容であるが、多くの韓国の人に感動を与え、本当の幸せとは何かを考えさせられる映画であった。

映画の冒頭、季節は秋、庭先に枯れ葉が舞い落ちている。おばあさんが枯れ葉で散らかった庭を見て、枯れ葉を掃いてきれいにしようと掃き掃除を始める。それを見ていたおじいさんがおばあさんに、「僕がするから休んでいて」と言って掃き掃除を始める。枯れ葉を1箇所に集めて随分きれいになったところで、おじいさんがその枯れ葉を手で掬って、おばあさんにふざけて枯れ葉をかけ始める。「何をするの!せっかくきれいになったのに」と怒るおばあさん。それでもまた、枯れ葉を掬っておばあさんにかける。今度はおばあさんも負けじと枯れ葉を掬っておじいさんにかける。お互い枯葉の掛け合いでまた庭が散らかる。やめてやめて、もうやめてとおばあさんが言って枯れ葉のかけあいは中止になり、おじいさんは庭から消えいていく。しばらくすると、おじいさんがひなげしの花を摘んで戻ってきた。そしておばあさんにこの花をあげると言って差し出す。おばあさんはありがとうと言って受け取る。おじいさんはその花をおばあさんの髪に飾り、可愛いと言う。おばあさんも花をおじいさんの髪にさしてあげる。あなたこそ男前になったと褒める。

ある冬の夜、おばあさんがトイレ(田舎のトイレは戸外にある)に行きたいから付いてきてという。おばあさんは、私が寂しくないように歌を歌いながら待っていてと言ってトイレに入る。トイレの外で、おじいさんは歌を歌いながらおばあさんを待つ。おじいさんは日本の民謡みたいな節の歌を歌い続ける。歌がなかなかうまい。韓国の冬は寒い。零下何度の世界かもしれない。おばあさんが「ありがとう。寒かったでしょう。ごめんね」と言うと、おじいさんは「君のために待っていると、寒くないよ」と言う。おじいさんの言葉は自然である。 

冬のある日、雪で一面覆われた日、庭に出て二人で雪だるまを作る。おじいさんはおばあさんに似た雪だるまを、おばあさんはおじいさんに似た雪だるまを作る。雪だるまの後、二人で雪合戦を始める。二人は子供のように笑い声を上げながら、雪の日のひと時を楽しんだ。家に戻る時、おじいさんがおばあさんの手を取って、寒くないかと聞く。おじいさんはおばあさんの手を自分の顔に近づけて息を吹きかけて懸命に温める。

おばあさんが結婚生活を回想する。おじいさんは私が作った料理を食べたら必ず「ありがとう」と言います。韓国は日本以上に男尊女卑が強い国なので、「ありがとう」と言われること自体がおばあちゃんの時代では珍しいことだったらしい。ご飯を作ってくれるたびにありがとうを忘れない人は韓国でも日本でも思いやりのある人であるのは間違いない。

二人が結婚したのはおばあさんが14歳の時であった。二人とも初めて会って、そのまま結婚したからおばあさんはとても不安であったらしい。おばあさんの話が続く「当時、私は14歳の少女で、最初は顔も見れなかった。恥ずかしさもあり、とても夫婦になんかなれない。結婚しても、私が傷つくと思ったからおじいさんは何もしてこなかった。そして、おじいさんが私に言いました。「君が大人になるまで待つよ。君が僕のことを好きになるまで何もしなくていいからね。」と言っていつも一緒に寝て、ずっと撫でてくれました。何年も。その時は本当に嬉しかった。結婚して私が15歳、16歳、17歳となったあと、私からおじいちゃんに抱きついた。それから私たちは本当の夫婦になった。初めて結ばれたのは私が17の時でした』と語っていた。

月一度の買い物に出かける。今日の買い物は子供用の寝間着である。3歳用を三つと6歳用を三つを買った。二人は子供を十二人産んだが、そのうち男の子一人と女の子五人の六人を幼くして亡くしてしまった。夫婦のどちらか先に逝った方が、幼くして亡くなった子供たちに寝間着を届ける約束を夫婦でしている。当時貧しくて子供たちに買ってあげれなかった寝間着を今日は買う予定で市場にやってきた。

二人の仲睦まじい日常がいつまでも続くように思われたのも束の間、おじいさんの容態が悪化して入院した。そしてそのままおじいさんは逝ってしまった。「あなた、その川を渡らないで」というその川は彼岸に渡る川である。入院中、おばあさんはおじいさんに「あなたが逝く時は一人で逝かないで私も一緒に連れていって。一緒に手を繋いで逝こう」とお願いした。おじいさんは「いいよ。一緒に逝こう」と言ってくれていたのに、自分だけ逝ってしまった。今は、早く迎えに来てと頼んでいる。迎えに来たらしっかりと手を握って今度は絶対離さないと言って泣く。

おじいさんのお墓の前でおじいさんの衣服と子供用の寝間着を焼く。墓の前で祈りを込めて衣服を焼くとその衣服は亡き人の元に届くと言う言い伝えがある。春になったらこれを着てくださいと言いながら焼く。また、この寝間着は〇〇ちゃんに、この寝間着は〇〇ちゃんにと一人一人子供の名前を言いながらおじいさんに届けてくださいとお願いして焼いていく。おばあさんの涙はいつまでも止まらない。

映画のエンディングで録音されたおじいさんの歌う歌が流れる。その歌が終わったところで、おばあさんが私も歌っていいとおじいさんに聞いている。おじいさんは、「いいよいいよ。歌って歌って」と勧める。おばあさんが歌い出す。「愛しているわ。愛しているわ。あなただけを愛しているわ」おばあさんの切々たる歌声が聞く人の心に響く。このように歳を取れたらいいなぁと思える映画であった。おすすめの一作である。