ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

トップ・アーティスト 長坂真護

ニュースを見ようと思ってテレビのスイッチを入れたら、アーティストの紹介みたいな番組をやっていた。ちょうど一枚の作品を紹介している場面で、私はそのアーティストの作品を見て、釘つけになった。そして、そのままその番組を最後まで見てしまった

話題のアーティストは長坂真護氏(38歳)である。彼の作品は1500万円で売れるなど、世界のトップ・アーティストとして評価されているが、彼は単なるアーティストではなく社会変革者であるという番組の紹介に興味を惹かれた。
番組で彼の経歴を紹介していたが、その経歴も異色で興味を引くものであった。番組で紹介された彼のこれまでの経歴は、簡単に述べると、元No.1ホストで、アーティストで、社会変革者で金の亡者ということであった。

長坂氏は1984年、福井県生まれである。工業高校を卒業後、歌手を目指して上京。その後、文化服装学院に入学、卒業後デザイナーを志し、ロンドン留学を目指す。留学費用を稼ぐためにホストになり、歌舞伎町のナンバーワンホストになる。留学を断念し、アパレル会社を設立。事業に失敗して倒産。路上画家に転身。路上画家として10年間で15カ国以上を放浪する。どの画廊にも相手にされず、年収は100万円前後がやっとの路上の絵描きだった長坂氏がたまたま経済誌『Forbes』に掲載されていた記事に目を奪われたことから人生が大転換していくことになった。

長坂氏の自叙伝ともいうべき「NAGASAKA MAGO ALL SELECTION」の説明によると、その経済誌に一枚の写真が掲載されていた。「それは1人の子供がゴミの山に佇んでいる報道写真でした。それを機に、世界のゴミ問題に興味を持ったのですが、調べているうちにガーナに〝世界最大級の電子ゴミの墓場〟と呼ばれるアグボグブロシーというスラム街があることを知りました。そこには毎年、先進国から年間25万tもの電子ゴミが搬送され、東京ドーム32個分にも及ぶ広大な土地を覆い尽くしているというのです。しかも、スラムの住人は電子ゴミを燃やすことで得られる金属を売り、1日500円程度の賃金を得てはいるものの、廃棄物に含まれる有害物質に蝕まれ、若くして命を落とす人が多い事実を知りました」「自分たちが使った電子機器が、回り回って彼らの命を縮めているのかもしれない……と思ったら平常心でいられませんでした。ただ〝事実を知りたい〟それだけの思いで、ガーナへと向かいました」

 「アグボグブロシーは、ガーナ人でも行くことをためらう危険地域。その地で、目にしたのは、紛れもない資本主義の真実だった。日本はきれいな国だといわれていますが、日本を含む先進国が出したゴミの後始末を貧困国に押し付けているだけ。この負のサイクルのおかげで、僕たちの豊かな生活は成り立っていたのです。見てはいけないものを見てしまった……と、正直思いました」
 「初めてガーナを訪れた最終日、スラムで出会った人たちに別れを告げて歩き出した瞬間、肩をグッとつかまれたのです。スラムは犯罪者の巣窟。何をされるのかと思って身構えると、『MAGO、また来てくれるんだよね? 次に来る時はガスマスクを持ってきてほしい。僕はまだ死にたくないんだ』と言われたのです。それを聞いてハッとしました。自分のことばかり考えていたと……。資産家であれば寄付をすればいいのでしょうが、当時の全財産は20万円ほど。彼らにガスマスクを届けるために僕ができるのは、この惨状をアートで伝えることだけだったのです」

 帰国すると、長坂氏はすぐにガーナで拾ってきた電子ゴミを使った作品を描き始めた。当時は、まだ〝サステナブル〟という言葉は浸透していない頃。ゴミを貼り付けたアートが「汚い」と言われたらどうしよう……と迷いつつも、筆を動かし続けたという。そんなアート活動を続ける中、スラムの少年を描いた「Ghana’s son」という作品が1500万円もの高値で売れたという。

「いきなりトップアーティストみたいな価値がついたことに驚いたのですが、うれしさよりも、なぜ? という思いのほうが強かったですね。今まで僕の絵がそんな金額で売れたことはなかったのですから。そこで思い至ったのは、この絵が売れたのは自分の技術ではない、〝スラムで暮らす彼らが、深い闇から放つ希望〟が価値を与えたんだ……という答えでした。だったら、その恩を返すために全額、彼らのために使おう! と思ったんです」

 それを機に長坂氏は〝スラム撲滅〟のために動き出す。スラムには教育を受けていない子供が多い。そんな彼らのために、完全無料の小さな私立学校を設立したのだ。その翌年にミュージアムをつくり、さらに現地の若者が描いたアートを長坂氏が販売することで彼らにギャランティーを生み出す仕組みを構築するなど、様々な支援策を講じた。その根本にあるのは、現在の資本主義をアップデートした〝サステナブルキャピタリズム(持続可能な資本主義)〟を確立したいという思いからだ、と長坂氏は語る。

「2030年までに100億円以上集める」ことを公言し、様々なアーチスト活動を展開している。金の亡者と言われるのは100億円目標のためである。それは、世界最悪といわれるガーナのスラム街に最先端のリサイクル工場を建設し、公害ゼロのサステイナブルタウンへと変貌させることを目標として掲げているからだ。

長坂氏は、世界のゴミ捨て場となっているガーナのアグボグブロシーというスラム街を、最も近代的な持続可能な街に変えようと取り組んでいる人である。社会を変革しようとする人である。彼はアーティストとしての才能を持っているだけでなく、世界中のゴミを引き受けざるを得ない貧しい国の貧しい町を何とかしたいという気持ちを持って実際に行動している人である。才能を持つ人は多くいるが、彼のように他人の苦しみを自分のこととして考え、動く人は多くはいない。すぐに自己責任論を持ち出す日本の政治家は長坂氏を見習って欲しいと思う。長坂氏にはぜひ、成功してもらいたいと思う。日本の若者にこのような人がいることを知って嬉しくなった。