ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「地動説 謎を追い続け近代科学を生んだ人々の物語」を見た

NHK BSTVより

 

 新進気鋭の24歳の漫画家、魚豊(うおと)さんが「チ。地球の運動について」という漫画で2022年4月手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞を受賞した。この漫画が描いているのは15世紀のヨーロッパで地動説を信じ世に知らしめようとする人たちの生き様である。今回の番組はその漫画「チ。地球の運動について」を特別にアニメ化したものであった。

地動説が唱えられた16世紀のヨーロッパでは、地球が動くという考え方は奇想天外なものですぐには受容できるものではなかった。なぜなら、それより2000年前のギリシャ時代に、天が動くいわゆる「天動説」が唱えられ全ての人が納得していたからである。その当時に造られた天球儀の中心には、必ず地球が置かれていた。

 漫画作品「チ。」では、15世紀のヨーロッパの学校で、地球と宇宙の関係性を議論する場から物語が展開していく。「さあ、みんな、宇宙の中心には何があるでしょう」という先生の質問を受けて、生徒が答える「宇宙の中心はもちろん地球です。根拠は、アリストテレス曰く、重い物体は下に落ちる。地上で物が常に落下するのは地球が宇宙の中心で最も低い地点「中心」にあるからです」と答えると先生が「その通り」と答えて授業が進んでいく。当時の天文学は宇宙に何があるかではなく、宇宙をどう見るかに関する学問であった。従って、神によって創られた宇宙観と相まって、地球を中心とする考え方は当たり前であった。

 場面は変わって、科学者が宇宙について議論している。1人の科学者が問う。「君は宇宙がどういう形をしているか知っているか」「もちろんです。地球が中心で、全ての天体は複雑に地球の周りを回っています。1000年以上前にプトレマイオスが真理を見つけています」
 クラウディオス・プトレマイオス(紀元後2世紀)は天文学を確固たる学問にした人物である。プトレマイオスが偉大なのは、惑星と恒星の運動に関する数学的かつ幾何学的モデルを作ったことである。そのモデルによって、地上から肉眼で観測できるすべての現象を説明できた。「惑星の逆行」という理論がある。惑星の一つである火星を長期にわたって観測すると、ある時期からスピードを落として進行方向を逆に変える現象が観測される。そしてしばらく逆行した後再び速度を落として向きを変え元の進行方向に戻る現象が見られる。これが「惑星の逆行」である。古代天文学は、惑星は、地球から見て一つの大きな円運動だけでなく、さらに周転円という、もう一つの小さな円運動も行うものと結論づけた。その完成された理論を超える天文学者はその後1人も現れなかった。そして、1000年以上プトレマイオスの天動説が真理として受け継がれてきた。

 科学者は言った。「この天体運動を真理と考えた場合、この真理は美しいか」他の科学者が答える「確かに少し煩雑すぎる。この宇宙像ではそれぞれの惑星が個別に計算され、一定の秩序を持っていない。ばらばらで混沌とした個別の動きは合理的には見えない。その観点から見るとあまり美しくない。美しくないのは残念だが、この広大な宇宙を一つの秩序で表すことはできないと考えるしかない。だから、そんなこと問題にしてもしょうがない。」科学者は言う。「いや、大問題だ。私は美しくない宇宙に生きたくない」他の科学者が答える「そんなこと言ったって、美しさで、理屈を蔑ろにしたら本末転倒だ。複雑でもあの理屈の精度は高い。星が動き、太陽が昇る限りこれは真理です」と答える。科学者が再度問う「ではもし、星も太陽も動かなかったらどうだ。今まさに星が動いているのではなく、地球が動いているとしたらどうだ。太陽が昇るのではなく我々が降るのだ。毎日朝が来るのは地球が自らの軸を中心に自転をしているからだ。さらに季節が変わるのは地球が太陽を軸としてまわる公転をしているからだ。これが私の研究だ。地動説だ。」「そんな考えは普通に間違っている。矛盾が多すぎる。地球が動いているのなら、ジャンプしてもなぜ同じ位置に着地するのか?さらに、地動説が仮に正解だとしても誰が支持するのか。宇宙の中心に地球があるのは神の特別な思し召しである。そんな直感に命をかけるのは愚かだ」他の科学者もにわかに信じがたいと言う拒否反応さえ起こす。
 自由とは何か。「自由の定義は、そう問えること」「第三者による反論が許されないのなら、それは信仰だ」天動説は信仰に近いものであったかもしれない。

 多くの科学者が真理を求めて様々な取り組みをしている中、コペルニクスは1543年に地動説である「天球回転論」を出版した。火星の1年間の軌道を追跡すると、火星は逆行をするという現象が記録される。火星は前に進みながら後戻りするという現象が見られる。それが逆行だ。逆行するというのは不可能なことだ。しかし、地球が静止している限り不可能だが、地球が動いていたら不可能ではない。地球も火星も巡行している時、巡行速度の違いで地球が火星を追い越した時、火星は地球から見ると逆行しているように見えるが、実は逆行していないのだ。地球が動けば逆行の矛盾が解決できる。地動説によって逆行の矛盾が証明できる。しかし、コペルニクスが地動説を主張しても、すぐに認められることはなかった。コペルニクスの地動説が受け入れられたのは1759年で、論文発表後200年以上を経ることとなった。

この番組はたいへん面白かった。火星の逆行現象の解明が地動説の証明に使われたことを知って観測の重要性を改めて感じた。何が人々を駆り立てたのだろうかと言う質問に、「生きていく限り知を求め続けるのが人間です。解きたいという気持ちが科学の進歩に必要な原動力です」と語っていた。確かにそうだと思う。子供のなぜ?なぜ?なぜ?という質問が科学の進歩、人類の進歩の源なんだと思った。私も生きている限り、なぜ?を忘れないように生き続けたいと思った。