ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「彼女は頭が悪いから」を読む

 読むのが辛い本を読んでしまった。「彼女は頭が悪いから」は小説である。しかし、この小説は実際に起きたある事件を下描きに書かれたものである。下描きになったのは次の事件である。「2016年5月10日の夜、女性2人と男性5名の大学サークルの飲み会が池袋で行われた。一次会ではゲームが行われ、負けると焼酎を一気飲みさせられた。被害女性は酒を飲みすぎ酔って寝ていた時に胸をつついて起こされたり、ブラジャーのホックを外されるなどをされた。それから行われる二次会には参加しないで帰ろうとしたが強く引き止められた。二次会は巣鴨のマンションで行われた。そこで、男性の1人が、突然被害女性のTシャツを剥いで背中から胸をもんだ。その次にズボンも下着も剥ぎ取られ背中を叩かれ、続いて他のメンバーも背中や尻を叩いた。割り箸で肛門をつついたり、陰部にドライヤーを当てるなどの恥辱を受けた。1人の女性は男性たちの乱暴に「何をするの、やめて」と制止して被害女性に早く帰ろうと促して先に飛び出した。残された被害女性もやめるように言ったものの男性たちはやめなかった。男性の1人が被害女性に馬乗りになってキスをしたり、裸のまま横たわる女性に股がりその上でカップ麺を食べ、その時に熱い汁をかけたり故意に麺を落としたりした。その時に被害者は激しく泣いたため他のメンバーは通報を恐れ二人を引き離した。このときに被害女性は周りの制止を振り切って部屋を飛び出し、公衆電話から警察に通報したことで事件は発覚した。
 そして、新聞誌上に「11日に警視庁が逮捕した1人を含む東大生5人は、このうちの1人の自宅マンションで、他大学の女子学生(21)と酒を飲んでいたが、服を脱がせた上、胸や尻を触るなどのわいせつ行為をした疑いで逮捕された」と報じられた。深夜のマンションで起こった東京大学生5人による強制わいせつ事件である。しかし、非難されたのはなぜか被害者の女子大生だった。

この報道がされると、SNS掲示板に数々の非難のコメントが投稿された。「この女、一緒に居酒屋行ったんでしょ。みんな酒入ってんでしょ。そいでホイホイついて行って。逮捕された男の学生が気の毒な気がする」「男のした事も良くないかもしれないけど、女性に全く問題がないとは言えないでしょう。もし自分の娘だったらビンタします」「男子に言いたい。こういう問題のある行動をする女の子に気をつけろ」「飲酒した上で男性の家に行った。それも深夜。女性には期待と言うか合意の気持ちがあったはず。それを訴えるとは。この女性の親、恥ずかしくないの?」「これ、女の陰謀じゃないの?怖いね」「部屋に自分で行っておいて被害者ヅラの女子大生の親より、せっかく東大まで行かせたのにこんなことで実名出された男5人の親の方がすごく怒っていると思う」「飲み会でふざけた程度のことで実名出されるの?東大男子らが可哀想すぎる」「女がしっぽ振ってついていってる。OK サインでしょ。なんで逮捕?」「酒飲んでついていって、そんなことされると思わなかった、というのは女性が訴える理由にならないと思う。この女性こそ反省するべき」「私は女性ですが東大生に非があるとは思えません。ネットニュースの記事読みました。おかしくないですか?この事件。通報した女、東大生の部屋に行ってるじゃないですか。どうせ東大生狙いの女だったんでしょ。何を被害者ヅラしてるんでしょうか。この女、被害者じゃなくて、尻軽の勘違い女です。東大生狙いで合コンに出て、部屋について行って胸触られたって警察に訴えるって、東大生が可哀想すぎます」「どうせ東大生狙いだったくせに。なに被害者ヅラしているんだ」「勘違い女、尻軽のクソビッチ」「前途ある東大生より、バカ大学のお前が逮捕された方が日本に有益」「あんたの娘の方が尻軽だ。どういう教育してるんだ」「死ねよ!」「◯◯大学のくせに東大生に本気で相手にしてもらえると思ってたの。あんた、何訴えてんのよ、バーカ」というような女子学生を非難するコメントが相次いだ。

 この著書の作家、姫野カオルコ氏は、東京大学生5人の強制わいせつ事件で、被害女性が多くの非難を浴びる状況に違和感を感じて、この事件を基に「彼女は頭が悪いから」と言う題名の小説を書いた。題名の「彼女は頭が悪いから」という言葉は取り調中に東大生の1人が言った言葉である。

事件後、加害者側からの示談の申込みを受けて、被害女性は唯一の示談の条件を出した。示談の条件は東京大学の自主退学であった。その示談条件を受けて2人の加害者は自主退学して不起訴となった。3人の加害者は、はめを外した悪ふざけではあったが、自主退学の示談条件は受け入れられないということで裁判となった。

 著者は小説の中で次のような状況を記している。東大生の1人の母親が、自主退学という条件だけはのめないが、それ以外で何とか示談にするための仲介を女子学生が通う大学の知り合いの女性教授にメールで頼んできた。その女性教授は母親に断りのメールを返信したところ、母親は直接電話をかけてきた。「なぜ、6回も面会を頼んでいるのに相手の女子学生は断るのか。他人の配慮を無視するような教育を貴大学ではしているのか。なぜ、示談に応じないのか。いったい何が望みなのか。いったい何なら、あなたの学校の女子学生は示談に応じるというの?訊いてくださらない」と母親は恐ろしく語気を荒げて教授に怒鳴った。
 女性教授は静かな声で言った「息子さんを含む、事件に関わった5人の男子学生の前で、あなたが全裸になって、肛門に割箸を刺して、ドライヤーで性器に熱風を当ててみせるから示談にして、とお申し出になってみてはいかがですか」
 聞いた母親は、金切り声を上げて、憤慨した。「こんな罵倒されて侮辱されたことないわ。学生も学生なら大学も大学ね。どうしようもないバカ大学だわ」母親は電話を切ったあと、荒い息をして顔を真っ赤にしてそしてぶるぶる震えて、ずいぶん長い間椅子に座ったまま、椅子のアームを硬く握りしめて動かなかった。 
 このような状態に母親をならしめた行為こそが、5人の東大生たちが女子学生にした行為なのである。東大生5人がしたかったことは、偏差値の低い大学に通う生き物を大嗤いすることだった。彼らにあったのは、ただ、「東大ではない人間を馬鹿にしたい欲」」だけだったと著者は書いている。

 人間の心を失った秀才はおぞましいというしかない。事件を起こした東大生、事件を起こした東大生の親、女子大生を非難した人達彼らに共通するのは偏見による差別意識である。このような差別意識は絶対許すわけにはいかない。示談に応じなかった3人は裁判で有罪が確定し、大学から退学処分を受けた。当然である。