ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

伊勢崎賢治氏の話を聞く

伊勢崎賢治氏は東京外国語大学名誉教授であるが、かつて、国際連合平和維持局などに勤務され、世界の紛争の解決に携わってきた方である。世界では今なお戦争が絶えない。絶えないどころか、拡大しつつある。世界の紛争の現場を見てきた伊勢崎氏は、戦争に巻き込まれないようにするにはどうすべきかを、豊富な事例をもとに話されていた。話の一部を下記に記す。


 「皆さんは、『安全保障化』という用語をご存じだろうか?分かりやすい例を挙げよう。新たな敵が現れた。もしくは、従来の敵が新たにこんな不穏な動きをしている。 このまま放っておけない。国家の存続の危機はすぐそこに迫っている。敵が攻めてくれば大事な家族が蹂躙される。女子どもにも容赦ない残忍な敵である。今すぐに守りを固めなければならない。


 予算がない?緊急事態に即応する戦力の出動や戒厳令を敷く法律がない?そんなこと言っている場合か!こんな言説が、権力者によってメディアを駆使して恣意的に流布され、敵への憎悪が搔き立てられる。こうした事態に対処するために、普段の慣例と法規を逸脱することを一般市民が受け入れる。あるいは、敵への対処に必要な法改正を急ぐ緊急性が社会に広く共有されていく。これが、『安全保障化』という事象である。
 日本の場合だと、福利厚生の予算を削ってまでも自衛隊を増強し、基地を増設し、最新兵器を買おう、日米同盟を強化しよう、戦力を認めない現状の憲法を改正しようとなる。そういう意図を持っている普段からの政治勢力が、まさに水を得た魚になれる状況である。今の日本は明らかにこのプロセスに入っていないだろうか。

 日本は、これから先も、他の国に比べて大国が仕掛ける『安全保障化』に囚われやすい国民であると言える。それは、今回のウクライナ戦争の戦場となったウクライナと同様、「緩衝国家( バッファーステート)」という用語が当てはまる国家が日本であるからだ。

 『緩衝国家』とは、地理的に敵対する大国や軍事同盟の狭間に位置し、大国のどちらにつくかによって、その『代理戦争』の戦場となる国のことである。つまり大国の本土を無傷にとどめ、敵対する相手国を弱体化する戦争の戦場になる国々である。いわば大国のための地雷原になることである。それは大国に強制されるのではなく、『祖国のため』に自ら進んで、自発的な愛国心に駆られて、大国のための犠牲になるのだ。その『自発性』を引き出すのが、敵の『恐怖』を効果的に集団ヒステリア化させる『安全保障化』なのである。

 大国のなかでもアメリカは、『安全保障化』に不可欠なメディア力を誇る、世界を席巻する突出したメディア力をもつ国だ。ウクライナと同様に典型的な『緩衝国家』である日本だが、そのウクライナにも存在しない国家の特質が、日本にはある。それは、アメリカとの異様な、たぶん世界で唯一の、関係性である」と語っていた。

 日本はアメリカと同盟関係にある。そのアメリカと世界の覇権を争っている国は中国であり、また敵対しているのは北朝鮮である。日本は、いつでも、台湾有事、朝鮮有事などで簡単に戦争に巻き込まれる危険がある。
 日本はアメリカと日米地位協定を結んでいる。この日米地位協定は問題が多い。「米軍基地を抱える親米国家は世界に多数あるが、米軍に完全自由を許す国は日本だけである。例えば、同盟関係の条約を結ぶとき、指揮権は、戦争時はアメリカに指揮権を認めても、平和時は自国が指揮権を持つのが一般的であるが、日本は戦争時も平和時も指揮権はアメリカにある。また条約は互恵性、対等性が常識であり、アメリカが許可しないことは、他国も許可しないことが常識であるが、日本との条約には互恵性、対等性はない。つまり、明らかに従属化した作りになっている」と述べていた

 「日本は緩衝国家であることは間違いない。そして沖縄を中心とした南西諸島、および北海道は、国の境界国境に位置するボーダーランドである。この敵国の境界にあるボーダーランドにミサイル基地を作るのは戦争の危険を高めるだけである。平和を維持するにはボーダーランドはむしろ非武装地帯であるべき」とも語っていた。
 日本はそこに敵基地攻撃能力を持つミサイル基地を建設し、その指揮権は米国に委ねている。米国がミサイル発射と命じたら日本は従うことしか選択はない。このような主権を放棄した国が平和を守れるだろうかと思う。伊勢崎氏は「日本は緩衝国家ではなく、意思のない緩衝材国家です」と語っていた。伊勢崎氏の指摘を受けて日本政府の取り組みには大きな問題があると思った。緩衝材国家を卒業して、すぐにでも主権を取り戻さないと、日本の意思に関係なく簡単に戦争に追いやられると思った。