昨年、ヘルパーさんと話をしていた時に、ヘルパーさんが私に言った。「老人ホームの申し込みは既になさっていますか?」「はい、ケアマネージャーさんにお願いしています。」と答えると「このまま認知症が進んでいくと、だんだんと自宅での介護が難しくなるかもしれんません。老人ホームに入りたいと思っても、今は空きがなくて、すぐに入所できないこともありますので、申し込みをしていた方がいいと思ってお尋ねしました。既に申し込みされていたのであれば安心ですね」と話された。
ヘルパーさんの話では、自宅介護が可能なうちは、本人が希望すれば自宅介護をすべきだが、介護をしていく上で、自宅よりはホームの方が安心という状況になっていくという話であった。ヘルパーさんに来ていただいてお世話をしていただいているが、もちろん24時間ではない。家族も世話をしているが、どうしても行き届かない点が出てくる。そういう心配をなされているようだった。
ケアマネージャーさんに入所をお願いしている老人ホームは、家族が旅行などでしばらく留守にする時、母一人だけ自宅に残せないときに、ショートステイで利用している老人ホームである。その老人ホームは母がデイサービスでも利用しているし、馴染みがある施設で、母も入所するなら、ここの老人ホームに入りたいと希望している場所である。しかし、ホームは満室状態で、また申し込み者が多く入所待ちの状態が1年以上続いていた。
そういうなか、ケアマネージャーさんから老人ホームについて連絡があった。「入所を希望している老人ホームは順番待ちですぐに入所できる状態ではありませんが、近くの他の老人ホームに空きがあるという情報があったので連絡しました。希望する老人ホームではありませんが、一度ご本人を連れて見学に行かれたらどうでしょうか。希望する老人ホームがすぐに入所できる状態ではないので、ご検討をお願いします」という連絡であった。
ケアマネージャーさんの連絡を受け、母にそのことを話すと、母は希望するホームではなかったので乗り気でなかった。私は母に言った。「どこの老人ホームも満室で、入所待ちの人が多くある中、空きがある時に入らないと入れない状況ですよ。また、見学して気に入らなければ入所しなくて良いし、気に入れば入所すれば良い、少なくとも実際に見学しないとわからないから一度見学に行ってみよう」と誘って見学することにした。
その施設は自宅から車で15分程度のところにあって、小高い丘の上に建っていた。母と一緒に訪問して、係の方に施設の中を案内してもらった。なかなかきれいな施設で、女性の所長さんから施設の方針や考え方などをお聞きした。その老人ホームは女性の所長さんが立ち上げた施設で、所長さんはもともと幼稚園を経営していた方である。所長さんは、今も町立幼稚園の委託運営など数ヶ所の幼稚園の経営も行っていて、合わせて老人ホームの事業も展開しているという説明であった。幼稚園事業と老人ホーム事業の二つを同時に運営しているという所長さんの話を聞き、母もいろいろと質問していた。最後に、「入所を希望されるときは所定の用紙に記入してお申し込みください」と用紙を渡されて帰ってきた。
帰宅後、母に見学した老人ホームについて感想を聞いた。母は「施設として悪くはないが、やはり入所するなら今までの施設がいい。でも、希望する老人ホームに空きがないなら仕方ないね」ということだったので、母も了解したと判断して申し込みの手続きをした。
申し込み後、しばらくして老人ホームから結果の通知が届いた。結果は、「入所不許可」であった。理由の欄には以下のように書かれていた。「今回、入所申し込み有難うございました。今回、当所への入所希望者が複数あり、入所について検討してまいりましたが、今回は申込者の中から一番重篤な方を入所許可することに決定しました」とあった。
その結果通知を受けて、今後も自宅介護が続きますのでよろしくお願いしますとヘルパーさんにお伝えした。そして、ヘルパーさんに助けてもらいながら、今まで通りの自宅介護を続けてきた。それから1年ほど経って、念願の希望する老人ホームから入所手続きの案内が届いた。ヘルパーさんの献身的な介護で、自宅で問題なくここまでやってこれたことを本当に感謝する。
希望する老人ホームに入所した母は、毎日を穏やかに過ごしている。少しづつ童女に戻っていくようだが、今はまだ、私を認識できる。私が面会に行くと、私を見て「どうして来たの?何で来たの?」と驚いた様子を見せる。そして、「〇〇さんはどうしているかな?〇〇さんは亡くなったのかな?」などと亡くなった方の名前を出して私に聞く。私は「お友達の〇〇さんが亡くなって10年になるよ」などと教えてやる。いつまで会話が続けられるかわからないが、残りの日を大切にしたい。