日野行介氏の原発についての講演を聞いた。日野行介氏は元毎日新聞記者で長く原子力行政について取材を続けてきた方である。だから、その取材で知り得た情報をもとに今は原発反対のための活動をされている方なのかなと思っていたら、「私は、これまで原発反対という立場で仕事をしてきたのではありません」という話をされた。
私は新聞記者として調査報道の仕事をしてきました。その仕事の中身は例えば、法律がどのような意図で作られたのか、その法律は行政において正しく運用されているか、法律に沿って仕事をする行政において嘘やまやかしや不合理がないかを調査してきました。その仕事を通して、原子力行政においてもさまざまな行政の嘘や不合理やまやかしがあることを見つけました。私の仕事は嘘やまやかしを見つけるという真実を見抜くのが仕事です。誰かのためになる仕事をしようとする感情を込めてはいけない仕事(感情を込めると真実を見る目が濁る)なので、むしろ原発反対や賛成などの立場に立たず真実を追求してきましたと語っていた。
そのような立場で仕事をしてきた日野氏は原子力行政の問題を次のように語っていた。
「原子力行政を調べていく中で、国民が考えていることと国が法律に基づいて行なっていることに大きな隔たりがあることが多いと思います。その一つが、原子力規制委員会の仕事に対する認識です。国民は、原子力規制委員会は危険な原発を厳格に審査して不許可にすることもできる。原発稼働を止めることができる機関と認識しているようですが、原子力規制委員会のそもそもの仕事は原子力の稼働を進めることです。福島原発事故が2011年に起きて、原発が全面停止しました。原発を推進する人たちは、これではいけないということで翌年の2012年に新基準を設けて原発再稼働のために設置したのが原子力規制委員会です。新しい基準はいくつか項目を加えましたが、その新基準は従来とほぼ同じようなものでした。いわば再稼働の試験問題を作って、これに合格したら稼働できますという制度を作ったということでした。いわば原子力規制委員会は稼働するための安全の口実作りの機関です。原発再稼働は厳しく認めないという姿勢ではなく、原発を進めますという姿勢を持つ機関です。そのような法律の作りになっています。名前そのものにまやかしがあります。
また、原子力行政において一番問題があると思えるのは原子力避難計画です。原発は一旦事故が起きると、住民の生命財産に深刻な被害を生じることが福島原発事故でわかりました。福島原発事故以前は、原発は絶対に事故は起きないという前提で全ての作業が進められていましたが、福島事故以後、万一の時の避難計画がなければならないという問題が起きて原子力避難計画が設けられました。その結果、従来5キロ圏内での避難計画が30キロ圏内に拡大されました。原発を稼働して利益を得るのは電力会社です。当然、避難計画も原発稼働で利益を得る電力会社が責任を持って避難計画を作るべきものですが、避難計画の作成主体は立地自治体とするということにされ、30キロ圏内にある自治体が避難計画の作成に取り組むことになりました。また、福島事故で私たちが学んだことの一つが、稼働中の原発の危険でした。福島原発は1号機から6号機まであり、事故を起こした1号機、2号機、3号機はいずれも稼働中でした。4、5、6号機は停止中で事故は起こりませんでした。だから、避難計画は稼働中の原発だけを対象にすればいいものを、わざわざ役目を終えた停止中の原発にも避難計画の作成を義務つけました。稼働中だけに限定するとこれからの稼働がますますできにくくなるという判断でこのような処置がされました。
福島原発事故を経験した私たちは、避難計画がないと安心できないと考えますが、この避難計画は、国が原発の30キロ圏内にある自治体に作成しましょうと呼びかけたもので法律ではありません。だから、原子力避難計画は事故対策なのに規制基準や安全審査の対象外となっています。つまり、避難計画は原発稼働の前提になっていません。従って、住民がこれでは不安で納得できないと裁判に訴えても、そもそも、法律そのものがないので受け付けてももらえない状況です。つまり、意図的に避難計画を法律化しない処置がなされているということです。その結果、中身の伴わない避難計画が作られ、いかにも万全を期しているという形だけ作られています。避難計画はまさに「いんちき」です。
日野さんが明らかにしてくれた原子力行政の法律の話は大変参考になった。行政に携わる人たちも喜んで原子力行政をしているわけではない。しかし、行政マンとして指示されたことを黙々とやっているという話であった。このような嘘やまやかしや不合理を一つ一つ明らかにしていくことが、遠回りのようだが、確実に原発を止めることにつながっていくと思った。