
朝起きて、テレビのスイッチを入れると、たまたま、「NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」を放送していた。今回の放送は、世界で一番清潔な空港の称号を10年連続で得ている羽田空港の清掃スタッフの話であった。
今回の「NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」の主人公は、羽田空港の清掃スタッフ500人の中から、清掃技能日本一の新津春子さんの話であった。
新津春子さんは昭和45年に中国の瀋陽で生まれた日本人である。新津さんの父親は、第二次世界大戦終戦時に満州に取り残されたいわゆる日本人残留孤児である。その後、新津さんの父親は中国人の母と出会って結婚し二人の間に生まれたのが新津さんであった。新津さんは中国で育ち、小学生の頃から日本人ということで様々ないじめを受けた。「日本人は日本に帰れ」と言われたり、石を投げられたりした。「私、何も悪い事してないのになんでいじめられないといけないの?」と思っていたが言えなかった。
17歳の時、一家は日本に向かうことになった。ところが、期待していた日本でも心休まることはなかった。日本語がうまくできないこともあり、「中国人は中国に帰れ」と編入先の高校でいじめを受けた。中国では「日本人だ」と言われ、日本では「中国人だ」と言われて、「私は一体なに?」と思い悩んだ。そればかりでなく、両親もすぐには定職につけず、一家の生活は極めて厳しい状況に置かれ、高校生の新津さんは雇ってもらった掃除のアルバイトを早朝も夜もこなして生活費を稼がなければならなかった。
だがその仕事場でも向けられる視線の冷たさに言いようのない思いが込み上げた。中国では、清掃と言う仕事はとても社会的レベルが低い。そして、日本でもそれは全く同じであった。掃除をしている時、お客さんに「どうぞ」と言ってもお客さんから返事はこない。こっちを見てもくれない。これは全く目に入ってないのだとわかる。無視されているんだと感じた。国籍を認めてもらえず、仕事では無視されて、存在する居場所のない自分はなにをよすがに生きていけばいいのかと若い時からずっと悩んでいた。
23歳の時、羽田空港の清掃員として働き始めた。そこで新津さんの運命を変える鈴木優さんという1人の上司と出会った。鈴木優さんは掃除業界の第一人者であった。新津さんは、鈴木さんの掃除に対する熱血指導を受けながら、掃除という仕事に面白みを感じるようになっていった。新津さんはいつしか思うようになった。「自分にはこの仕事しかない。自分は清掃を極めてみようと思って仕事に打ち込んだ。
しかし、鈴木さんは新津さんの仕事ぶりを褒めることは1度もなかった。「もっと心を込めなさい」いつも同じ言葉が返っててくるばかりであった。「私は心こめてます。いや、それは見えないものなんですけど、もっと見えるもので言ってください」と新津さんは抗議することもあった
ある日、新津さんは鈴木さんから全国の清掃員が腕を競う全国ビルクリーニング技能競技会への出場を打診された。新津さんは優勝する自信があったので快諾した。ところが、絶対優勝すると思っていた予選会の成績は2位であった。その時、自分に足りないものは一体何だろうかと真剣に悩んだ。思い悩んでいた時、鈴木さんが「心に余裕がなければ良い掃除はできませんよ」とアドバイスをしてくれた。以前、余裕がないと相手に優しさが伝わらないでしょうと言われたことを思い出した。掃除した人が、自分がきれいに掃除したから、自分できれいですねって言うのは単なる自己満足です。依頼者のお客さんから納得してもらえる掃除とは何か、どうしたらそれができるのか考え抜いた。そして、競技会までの2ヶ月間、鈴木さんと猛特訓に励んだ。そして、全国技能競技大会に挑み見事優勝して日本一となった。すぐに鈴木さんに優勝の報告をすると、鈴木さんは「優勝するのはわかっていましたよ」と言った。初めて認めてもらえたと思って涙が出たと語っていた。
日本人としても、中国人としても、認められず、仕事をしても社会的に認められず、何を頼りに生きていけばいいのだろうかと悩み続けた人生であったが、本当に生まれて初めて人に認められとても嬉しかったと語っていた。それからまもなくして新津さんは一つの変化に気づいた。心を込めて、掃除をすると、利用者の方からご苦労様と言う声が返ってくるようになったと新津さんは語っていた。
「新津春子さんにとって掃除こそ私の居場所であった」という「NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」の放送を見て、考えさせられた。私たちは仕事を通して社会に貢献する。そして、多くの人はその仕事を極めたいと考え、人生をかけて取り組むが、なかなか極めることは難しい。簡単なことではない。新津さんが仕事を極めていく中で、自分の居場所を見つけることができたことは素晴らしいことだと思った。いろんな人がいろんなドラマを描きながら自分の人生を創っていく。さまざまな困難を乗り越えて、確固たる自分を見出した新津さんに共感して拍手を送りたい。