
雑誌で、「非暴力による防衛は可能か、ジーン・シャープを現代に生かす」という記事を読んだ。
私は、ジーン・シャープという方を知らなかったが、彼は非暴力抵抗による市民的防衛の理論を確立した政治学者である。
ジーン・シャープ(1928年〜2018年没)は米国オハイオ州生まれの政治学者である。彼は、インドをイギリスから独立に導いたマハトマ・ガンディーの運動を始めとして、歴史上の非暴力、抵抗運動の事例を徹底的に研究分析して、その結果、どんなに残忍な独裁者や侵略者でも、民衆による戦略的かつ計画的な非暴力抵抗運動によって打ち倒せる可能性があるとの結論に至った。シャープの理論は明快だ。
「どんな政治権力も官僚、警察、軍隊、民衆などの協力と服従に依存して成立している。したがって彼らが協力と服従を止めれば必然的に権力は崩壊する」これが、シャープ理論の根幹である。考えてみれば当然である。
24年12月に起きた韓国大統領による「非常戒厳」の失敗でも示されたように、権力者が「反対者を逮捕しろ」「隣国を侵略しろ」と命じても、軍人や警察官が1人も命令に従わなければ、弾圧も戦争もできない。どんなに偉そうな権力者でも、1人では権力を振るえない。権力者が権力者たるには、人々の協力と服従が絶対必要なのである。
「つまり支配者は彼らが支配する人々と社会とに依存しており、人々と組織とによる侵略者・独裁者への協力の停止は、すべての支配者が依存している<権力の源泉>の入手可能性を縮小させ、かつ切断してしまうだろう。権力の源泉が入手不可能になれば、支配者の権力は弱体化し、ついには崩壊してしまう」とジーン・シャープの著書には書かれている。
ジーン・シャープは著書の中で、専制者や侵略者に対する協力や服従を停止し、権力の源泉を枯渇させ、権力構造を崩壊させるための方法について、第一「抗議と説得」、第二「非協力」、第三「非暴力介入」の3つの大きなカテゴリーに分けて198の具体的方法を提示している。
侵略に対して武力で応じると言う方法は、一般的には国や生活を守る唯一確かな方法だと考えられている。ウクライナ戦争はまさにそれが現実に行われていることである。ウクライナ政府はロシアの侵攻に対して、武力で対抗するという選択をした。それは国際法上認められた自衛権の行使である。
しかしその結果、市民の生活の場である街や村が戦場となり、破壊された。今年5月までに、ウクライナの一般市民約1万3千人が殺され、約3万3千人が負傷し、約560万人が難民として国を追われた。昨年9月の集計ではウクライナ兵の戦死者は約8万人、負傷者は40万人に上ると言われている。負傷者が多くて良かったとは言えない。戦争の負傷者はかすり傷ではない。生命に関わる重症者である。医療機関の総力を上げてもとても対応できない。今は、死んでくれた方が助かるという状態にあるとまで言われている。
他国が日本に侵略してきたときに、武力で応戦しなければ、日本の国土や政府機関、国家などは易々と占領されるだろう。国境線を守ることはできない。
しかしそのとき、日本の総理大臣が全日本国民に「市民的防衛」を呼びかけ政治家、官僚、軍隊、警察、企業、労働者も含めたすべての人々が一致団結して、侵略者に対して不服従と非協力を徹底したらどうなるだろうか?そしてシャープが非暴力の武器として掲げる198の方法を戦略的・計画的に実行したらどうなるだろうか?
総理大臣が積極的にこの方法を採用し、協力と団結を呼びかけるなら、日本政府はそのまま並行政府として機能するだろう。侵略者は効果的に日本を占領・統治するために、日本にある既存の立法機関や司法機関、警察、官僚組織などを利用するとするだろうが、その利用を集団的に拒むのだ。それは非常に効率的な戦略なのではないか?
もちろん、非暴力抵抗を行えば、占領者に投獄されたり処刑されたりする人も出るだろう。しかしシャープが指摘するように、暴力で対抗するよりも、はるかに犠牲を低く抑えられることは間違いない。
そして、重要なことは、一般的なイメージに反して、実は武力による抵抗よりも、非暴力抵抗の方が成功の確率が高いということが立証されている。1900年から2006年までに起きた323件の革命・抵抗運動の事例を分析した結果、非暴力抵抗の成功率が53%に及んだのに対して、暴力抵抗の成功率は26%に過ぎなかったと言う結果がある。非暴力抵抗運動の成功率は、暴力による抵抗運動の成功率よりも2倍高いと書かれていた。
ジーン・シャープの非暴力抵抗運動というものを初めて知った。今日本は、軍備拡張して戦いに備えているが、軍備拡張は他国との緊張関係を悪化させることにしかならない。二度と戦争をしないと宣言している平和主義日本は、もっと平和外交に力を注ぐべきである。平和外交に全力で取り組んだが、それでも敵の侵略を受けた時は、屈しないで断固非暴力抵抗運動で闘う。この戦略でいくしかないと思う。ジーン・シャープの理論をさらに学びたいと思う。