宮台真司さんと川崎雅樹さんとの対談を聞いた。タイトルには「日本国家は沈む船」と書かれていた
冒頭、川崎さんの説明があった。これから宮台さんの話を聞いていただく上で、参考になる一人の思想家をご紹介します。それはドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマスという方です。彼は20世紀から21世紀にかけて、活躍した思想家の1人で、経済や官僚制度(システム世界)が生活世界に入り込みすぎると、人々の自由や共感が失われると警告した社会学者です。
彼の思想を簡単に言うと、人間世界には、「システム世界」と「生活世界」が存在する。「システム世界」には、国家・官僚・行政によって支えられる権力と、経済・市場・企業を支配する貨幣というパワーがある。その権力と貨幣によって作られているのが「システム世界」です。これは、国民からすると外の世界と言うことができます。片や、権力や貨幣に縛られていない内の世界を「生活世界」と呼びます。国民は、内の世界である「生活世界」を基盤にして生活をしています。「生活世界」には家族があり仲間があり、また、地縁、血縁とともに市民社会というコミュニティーがあり世間様という公共性がそこには存在します。それを支えているのは共通の言葉、伝統、文化などです。
日本を守っていくというとき、この「生活世界」を守ることが重要になってくる。しかし、現在の日本は、「システム世界」が「生活世界」をどんどんと侵食していって、「生活世界」そのものが大変薄っぺらいものになってきている。それは日本人の感情の劣化となり、ヒラ目キョロ目の人間性の出現を生み出している。それをハーバーマスは「システム世界」による「生活世界」の植民地化と呼んでいる。このような現代において、私たちはどのように日本を立て直していくべきかを宮台先生に語ってもらいますという前振れで始まった。
「元々、日本には、国という概念に国民・国家はなかった。国という言葉が国民・国家を指すことになったのは、120年前の日露戦争以降に生まれた新しい概念です。それまでは日本人にとって、国は幕藩体制の約300の諸藩のことであった。それが日露戦争以降、国とは国家であると無理やり思わせられてきた。しかし、日露戦争当時の人間は次のように思っていた。『俺は会津の人間じゃ、お前は長州か?今この場でお前をぶった斬ってやりたいが、今それをやっていると列強にやられてしまうから、見逃してやる。列強を排除した暁には、ぶっ殺してやるから覚悟しとけよ』これが日露戦争前までの普通の日本人の考え方であった。そこには国家と言う概念が生まれていたが、国家よりも、まだ自分が所属する藩の方が重要であった。共有概念としての国家に貢献はするが、その貢献の役割が一段落したら、俺は元の位置に戻るというのが、当時の日本人の考え方であった。
良い悪いは別にして、今その概念が全くなくなった。今では国と言ったら、その意味することは国家だけである。床屋政談でも、安倍や岸田や石破が話題になるが、安倍や岸田や石破の面を見て皆さんを助けてくれそうな感じがしますか?真剣に日本の国全体のことを考え、自分がこの国の運命を背負っいるという顔をしていますか?
自分が、本当に信用できる人というのは、自分がよく知っている人しかいないのです。自分の周りにいる人しかいないのに、その人を差し置いて、国に頼れば、何とかなるといっても全然何ともならない。なぜ、そんな当たり前のことがわからないのということです。
日本人にとって、血縁関係が薄れ、開発によって地縁がなくなり、生活世界の範囲が狭く薄くなってきているが、日本人が育ってきた生活世界という領域を自分たちの手で取り戻すしかない。昔のように共住共生(living together)の核を作るしかない。この人と一緒にいたい、家族と一緒にいたい。家族同士近いところに住みたい。考え方が同じ人たちと近くに住みたい。ある種の価値を共有した人間たちが集まって、意識的にも家族的な共同体ようなものを作り、船が沈んでも、1つのボートに乗ったみんなで助け合って生きるようにしたい。そこでは、あなたのことを命をかけて守ってくれる人がいる。また、あなたは命をかけて周りの人を守ることができる。そのような関係性で結ばれている生活世界を持つことができるかどうかがポイントであり出発点です。
それなのに、一挙に飛び越して(システム社会である)日本は素晴らしいと声高に叫ぶものがいる。それを言う者がいたら気をつけろと言いたい。そんなものは怪しい。
そういうことを強く主張しているのが吉本隆明であり、アメリカの映画俳優であり、監督であるクリント・イーストウッドです。イーストウッドに一人の男が言いました。『私は国のために死にます』イーストウッドは答えます。『クルクルパーは早く死ねば。国に吹き込まれたそういう虚構を信じているなら、勝手に死んだら!』と
見ず知らずの集団のことを、我が共同体であると思い、『その共同体のために私は死にます』という人は必ず権力によって操縦されている人です。または操縦されていることを意識しない奴隷根性の人です。
もともとの人間の心の働きは、『あなたのために死にます』は『あなたも私のために死ねます』という同等性関係の中でしか成立しない」と宮台さんは語っていた。
話を聞いて、私たちが今、立っている日本という社会について、根本から考えたいと思った。日本には「システム世界」と「生活世界」の二つがある。私たちが寄って立つ「生活世界」は「システム世界」により侵食され続けている。もう一度しっかり自分の足元を見つめ、根無草になっていないか、自分は誰のために何のために生きるのか考えたいと思った。油断していると、システム世界に吹き込まれて特攻隊員としてカルトの世界に連れて行かれるかもしれないと思った。