ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

映画「サンクチュアリ」を見る 

 以前、映画「サンクチュアリ」は相撲を描いた映画でとても面白いという話をきいたが、私は相撲について興味がなかったので見る気は起こらなかった。最近またサンクチュアリの話題が出て、まだ見ていないと言ったら、見ればいいのにと再度勧められたので見ることにした。相撲には興味もなく、相撲のことは何も知らなかったが、この映画を見て相撲は面白いと思えるようになった。この映画は事実なのかフィクションなのかよくわからない。フィクションであっても映画としてはよくできていると思った。

 この映画は相撲のことを描いていて、蔵前国技館みたいな会場が映画に出てくるので、日本相撲協会の全面的な協力を得て作られたのかなと思っていたら、相撲協会からは協力どころか、誤解を与える内容ということで抗議を受けているとネットでは書かれていた。この映画に出てくる稽古中のしごきや暴力場面(かわいがり)や八百長に関する話題が相撲に対する誤解を与えるおそれがあることで抗議を受けたらしい。だから蔵前国技館みたいな会場は、大きな体育館を借りてそこに本物そっくりの相撲会場を作りロケが行われたようだ。


 この映画の魅力の一つは迫力ある相撲のぶつかりなどの様子がそのまま再現されていることである。このような稽古は本物の力士でなければできないが、これを役者さんが演じている。そのためにこの映画の力士としての出演者は、元力士という方以外は、体重80キロ以のガタイのいい人という選考基準のオーディションで採用された方ばかりで、採用された後、2年間かけて力士としての所作、四股踏み、摺り足、など相撲取りとして所作を学び実際のぶつかり稽古をしながら、また栄養士の指導を受け100キロ超の力士の身体作りをして撮影に臨んだという話であった。まさに本物のような会場、本物のような力士で作られた映画であった。そのような本物のような迫力ある相撲の場面は文句なしに楽しめた。しかし、この映画の見どころは、「サンクチュアリ(聖域)」という題名が示す問題提示の面白さにあった。

 この映画の主人公は猿将部屋(えんしょう部屋)の猿桜(えんおう)という力士である。事業に失敗した親が交通事故で入院して治療費を稼がなければならない立場に追い込まれた荒くれ者の若者が、力士になればお金も名誉も女も手に入ると誘われて入門する。とにかくお金が欲しい。お金を得るためには、伝統と格式を重んじる角界のしきたりに従い、実力と共に愛される力士像を目指すよう指導を受けるが、猿桜は伝統とか格式など関係ないと無視して、強ければ文句はないだろうと自分流のやり方を通す。どんなしごきを受けても突っぱねる。土俵は神聖な場所だ。必ず稽古場に入る前に、一礼すること。稽古が終わり稽古場を出る時は一礼して出ること。何度言われても、それをしない。無視する。相撲の基本は四股である。力士として大成したいと思えば、まず四股を踏め。四股が力士の命だと言われても、そんなのは迷信だ。もっと科学的な練習をすると言って従わない。親方は猿桜の素質を知っているので破門せず、我慢して見守り指導して行く。その無頼漢の若者が様々な曲折を得て成長して行く姿を描いた作品である。「かわいがり」という暴力しごきはもちろん、八百長問題などの要素も絡まった展開で気を抜けない。

 「強ければ文句はあるまい」という傍若無人の振る舞いで、のし上がっていったが、強力なライバルの出現によって土俵に叩きつけられ意識をなくしてしまう。その後遺症で土俵に上がるたびに、あの時の恐怖心がフラッシュバックして、相撲が取れなくてなってしまう。そして、土俵を去るしか道はないとギリギリまで追い詰められたときに、いちからやり直しを決心して、礼から始め、四股を踏み地道に稽古に精進して、あらたに道を歩み始める。

相撲は伝統と格式であるということに徹底して反抗して嘲笑していた荒くれ者が、強くなるのに礼なんか関係ないと言っていた荒くれ者が、礼をしたくなるというのは何だろうと考えた。相撲の立ち合いまでの所作は時間の無駄、何回塩を撒けば気が済むんだといっていた荒くれ者が、相撲の所作を一つ一つ丁寧に行っていく。勝った時は、ダンスよろしく土俵上で飛び跳ねていた荒くれ者が、振る舞いが変わった。相撲のしきたりに従って所作をして勝ち名乗を受ける。力士は丁髷が伝統であるが、今までの荒くれ者の彼だったらツーブロックのかっこいい髪型を主張したかもしれないが、伝統の丁髷を結う。彼はここにサンクチュアリ(聖域)を見つけたのかもしれない。相撲はスポーツなのか神事なのかよくわからない。しかし相撲が持つ伝統と格式というものには惹かれるものがある。今まではあまり興味がなかったが、この映画を見て相撲をじっくり観たいと思うようになった。