ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「日の丸 寺山修司40年目の挑発」を見る

 1967年に放送され、放送直後から抗議が殺到、当時の閣議で厳しく問題視された“TBSドキュメンタリー作品「日の丸」を現代に蘇らせた「日の丸 寺山修司40年目の挑発」を見た。

 1967年に放送された「日の丸」というドキュメンタリー番組は寺山修司が手がけた番組である。日の丸について通行人に矢継ぎ早に質問し、その応答を記録したドキュメンタリー番組である。
① 日の丸と言ったらまず何を思い浮かべますか ?
② 日の丸の赤は何を意味していると思いますか 。
③ 日の丸はどこに掲げたら美しいと思いますか?
④ あなたは国と家族どちらが大切ですか?
⑤ あなたに外国人のお友達はいますか 
⑥ もし戦争になったら、あなたはその外国人のお友達と戦うことができますか ?
⑦ 日の丸を振ったことはありますか ?それはいつですか ?
⑧ 日の丸が日本の国旗であるということに誇りが持てますか?
君が代が日本の国家であることに誇りを持てますか?
⑩ 最後に、あなたが日の丸に対して思うことを一言言ってください。

 1967年は、1964年の東京オリンピックを終えて、3年後に1970年の大阪万博を控えた年であった。そして、1967年は初めて建国記念日祝日法改正により国民の祝日に加えられた年であった。寺山は建国記念日が制定されたことを機会に、日の丸と愛国心を考える企画として「日の丸」というテレビドキュメンタリー番組の作成に取り組んだ。群衆の中の一つ一つの顔にいきなりマイクを突きつけては 「日の丸と言ったらまず何を思い浮かべますか ?」と10の質問を繰り返し、記録していった。

 2022年は寺山修司が亡くなって40年目にあたる年であった。TBS所属の佐井大紀監督は、寺山修司が「日の丸」を作成した1967年は、1964年のオリンピックと1970年の万博の間の年だったが、2022年は、ちょうど2021年のオリンピックと2025年の万博の間である。同じ2つのイベントの狭間の年に同じような街頭インタビューから構成される作品を撮れば、当時と今の違いや今の日本の姿が浮かんでくるのではないかと思い、現代版の『日の丸』の企画を立ち上げた。それが「日の丸 寺山修司40年目の挑発」である。

 1967年版と2022年版の違いの一つは質問に対する回答者の反応であった。1967年版は、突然「日の丸」について意見を求められたとき、一生懸命答えたり、答えようとする人が多く見られたが、2022年版は、突然、「日の丸」について意見を求めたら、多くの人は無視したり、嘲笑して立ち去ることが多かった。400人近くの方に声をかけて最後まで質問に回答してくれた方は1割未満であった。

 1967年版では、「① 日の丸と言ったらまず何を思い浮かべますか ?」という質問に対して穏当な意見ばかりでなく、「おしめを思い浮かべます」などさまざまな回答があったために閣議で問題視された。1967年版では、日本人はおとなしく何も考えていないように見えるけど、マイクを向けられて、しゃべっていいよと言われたら普段考えていることを自由に言いたいことを言う実態がこの番組で明らかになったようだ。そして、この番組は日の丸を冒涜する偏向番組であると指弾を受けることとなった。

「日の丸」というドキュメント番組は、「日本人とは何なんだ。日本人は何を考えているのか」を明らかにすることを目指した番組で、1967年版はそれなりの結果を明らかにしたことになる。
2022年版の回答者の無視した態度からは、「まともに日の丸のこと聞かれたら困るよ」という本音があらわれている。「最後に日の丸についてあなたが思うことを、一言聞かせてください」と言われたら「急に言われても困るよ」と答える人が多い。このことは「本当のことを言うとみんなから嫌な目で見られるから言わない」と思っているようであった。また、自分たちの歴史や自分たちの文化について真っ当に考えさせてくれる授業もなかったし、そのようなことを教えられてこなかったから答えられないとも言える。特に天皇制については教育上はなるべく触れないようにしてきたような感じがある。天皇というのは強制されていないのに昔からずっと敬愛されてきた。「天皇陛下はお好きですか」と言う質問を受けると「はい好きです」と言わなければならない。日本の現状では天皇について率直に意見を言うとヤバいから、言うのはやめとくと答える人がいた。日本では、天皇の権威は誰にも踏みつけられない文化、聖域として存在する。精神的聖域になっている。当たり前のように日の丸があり、当たり前のように君が代を歌い、当たり前に象徴として天皇がいる。それを体制派か反体制派かだけで区分けし、論じるというのは貧しい発想、貧しい教育と言わざるを得ないと番組の中で解説されていた。

「日の丸 寺山修司40年目の挑発」は現在の日本人を考える上で大変面白い作品だと思った。現在の日本人にはもちろん私自身も含む。もし、突然マイクを向けられたら、私は何と答えるかを考える。
「あなたは外国人の友達がいますか?」「はい、います」「もし戦争になったらその国人と戦うことができますか?」「できません」「では、国に背きますか?」「はい、戦争しないことが背くことになるのなら、やむを得ませんが背きます」と番組で回答者が答えていた。私も外国人の友達がいる。私も外国人の友達と戦いたくない。国に背いても戦いたくない。非国民と言われても戦いたくない。そういう時が来たら、日本人であることが嫌になるのだろうと思う。