ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「黒板に描けなかった夢」を読む

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12歳、小学校6年生の時に出版した作品集

先日、テレビの電源をいれたら、「レベチな人 見つけた 」をやっていた。今日の主人公は、絵が上手な高校生と思って見ていたら、単に絵が上手いというだけでなく、絵本作家みたいに物語のある絵を描いている。その絵に出てくる登場者がユニークで楽しい。その作品は見ていて心が和む。彼の作品の世界は愛が満ちている。そればかりか、誰にも描けないような、素晴らしいとしか言いようがない緻密な絵も描いている。子供向けの絵本の温かい作品も緻密な絵で描かれた作品も、また社会の矛盾を鋭く指摘する作品も作者の思想がはっきりと感じられる。これらの作品からは普通ではない極めて高い知性が感じられる。このような絵を描ける高校生はどうして生まれたのだろうか。高校生であるこの画家はこれからどういう発展成長をしていくのだろうと興味を惹かれ、その番組に見入った。そのレベチな人が濱口瑛士さんであった。彼はすでに何冊も作品集を兼ねた本を出版している。彼が書いた「黒板に描けなかった夢」と「書くことと描くこと」の二冊の本を読んだ。

「レベチな人見つけた」に登場するくらいだから、彼の才能は並外れて高い。絵に興味を持って取り組んだのは3歳からということであった。彼のこれまでの人生は豊かな才能で順風満帆の人生だっただろうと想像していたが、真逆の人生であったことを知って驚いた。

それは彼が「ディスレクシア」であったからである。ディスレクシアとは学習障害の一つで、知的には全く問題なく会話も普通にできるが、文字の読み書きが困難な症状を持つ学習障害である。日本では人口の5〜8%、欧米では10〜15%いるらしい。この「ディスレクシア」は本人も周りの人も気付きにくい障害で、いくら努力しても読み書きの能力が上がらないため、やる気がないと見なされ、バカにされたりいじめを受けたり、学習に支障をきたし不登校になる子供も多いと言われている。

 

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文字の読み書きが困難というのは、どういうことなのか疑問に思いネットで調べると一つの例として上の写真があった。上のきれいに並んだ文字列をディスクレシアの人は下のように乱れて見えるらしい。「文字が上空から見た摩天楼のように目に刺さってくる。近づいた文字が遠くの文字を隠し、行も違う行に移行してしまう。文字が躍る、動く、ねじれることでどこにどの文字があるかわからない。書き写そうとすると、どの文字のどこを写していたかわからなくなってしまう。」という説明書きがあった。

 

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視力が悪いわけではなく、文字だけが普通に見えない。にじむ、ゆらぐ、左右逆さま、かすむなどいろんなゆがみが生じるらしい。画数の多い漢字を書く宿題などは作業が進まず、まじめにやろうとすると徹夜仕事になる。徹夜までしてやった結果は字が踊っていてみんなから笑われる。


知的レベルは高いが、読み書きのレベルが小学1、2年生程度から伸びず、友達もできず、いじめがますますひどくなるにつれて、とうとう小学6年生では不登校になり家で絵を描いて過ごすようになった。その6年生の時に「異才発掘プロジェクト、ロケット」に応募して全国600人の応募の中から15人の第一期生に選ばれた。

その「異才発掘プロジェクト」に選出されたことが濱口君に大きな転機をもたらした。
異才発掘プロジェクトに応募した時のメールに担当の先生から返信が来た「君のような少年が悩まなければならない世の中が私は嫌いです。一緒に社会を変えていきましょう。」とあった。そして「堂々と突き抜けろ」という言葉もあった。この言葉から「今まで、学校で嫌われて、見下されていた私、普通に読み書きができるようになりたいと思ってできなかった私に、この言葉は自分らしくていいのだという気づきをもたらし、もっと自分らしく生きていいという勇気をもらった。」

俳優のトム・クルーズにはディスクレシアがあった。読み書きができないことでからかわれ、いじめられた。そんな彼を、特別支援専門の教師が文字をすらすら読むことはできないが、声に出して読んでもらえば素早く暗記する才能を見い出し、演劇部で才能を開花させ、世界を魅了するトップスターに上りつめた。

天才・偉人と呼ばれる人物には、幼少期にこういった「他の子と違う」苦労や困難を抱えた人が多い。発明王エジソンモーツアルトピカソアインシュタインジョン・F・ケネディスティーブン・スピルバーグスティーブ・ジョブズなど枚挙にいとまがない。

現代では、発達障害とカテゴライズされてしまう「普通の子」と違う子は、普通と違うことが長所であり、驚くべき可能性を秘めていることがある。

日本では、そういった突出した才能を開花させる土壌があまりなかった。何ごともバランスよくでき協調性のある子を良しとする風潮がある。しかし、自分の興味のあることしかやらなかったり、教科書に満足できなかったりする子が飛び抜けて高いIQを持っていたりする。

そういった突き抜けた才能を潰さず、伸ばしていこうという取組が「異才発掘プロジェクト ROCKET」である。東京大学先端科学技術センターと日本財団の共同プロジェクトで、ユニークな才能を持つ子供たちに個性を伸ばせる教育を提供し、将来の日本に革新をもたらす人材に育て上げていくプロジェクトである。このプロジェクトは5年間に亘り東大で各界のトップランナーによるユニークな授業が行われ、また、必要に応じて、世界各地への視察旅行などが組み込まれている。

 

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中学3年生の時、ニ冊目の本「書くことと描くこと」を出版した。その本の中で、彼はこう語っている「現在、私はほとんど学校に通っていない。言うなれば、立派な中学3年生の不登校児である。学校に行けていないという状況だけ見れば、私と不登校に悩む多くの子どもたちとは、全く同じである。しかし、多くの不登校児と私とは一つだけ違う点がある。私は、今の状況にワクワクしている。多くの不登校の子どもたちは苦しみに煮詰まって下を向いている人が多いと思う。私は、日々「ハッピーに不登校」しているのだ。このような考えに至ったのはここ数年で出会った多くの魅力的な大人たちの影響であると語っていた。

 

そして、現在は高校生であり、画家としての道を歩んでいる。今、何をしたいかと尋ねられて、「現在、自宅で親と同居している。高校を卒業したら、自宅を出て独立したい」と言っていた。小学校時代、クラスメイトから「お前みたいな簡単な漢字も書けないバカはホームレスになるんだ」と言われたらしい。今、彼は一つづつ自分の力で自分の道を開拓している。今後ますます画家としての活躍を期待したい。自分の好きな道で大きく羽ばたいて欲しいと思う。