ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「認知心理学」について話を聞く

 私は、今も仕事をしている。言わば現役である。しかし、仕事は毎日ではない。忙しい時期に会社から手伝って欲しいという連絡があったときに仕事をする。実際に仕事をするのは一年のうち2ヶ月ほどである。
 仕事をするには資格がいる。その資格を維持するには毎年2日間の研修を受講しなければならない。今年も研修受講の通知が届きその研修を受講した。研修の内容は仕事に関することの再確認が主なものであるが、中には外部講師による講話が毎回組み込まれている。外部講師による講話は、教養講座的な内容で、新しいことを知る楽しみがあり、私はいつもその時間を楽しみに研修を受講している。今回も外部講師の講話を楽しみにして研修を受講した。
 今回の外部講師は心理学を研究されている大学の先生で、「認知心理学について」というタイトルで最近の認知心理学研究の成果についての話を聞いた。
 講話の冒頭、先生から「皆さんは心理学というものにどういうイメージを持っていますか?」と聞かれた。私は心理学というのは人間の心や感情を扱う学問だろうと思った。しかし先生の話を聞いていくと心理学の分野は私が考える以上に範囲が広いと思った。「知情意」という言葉がある。私は心理学が扱うのは「知情意」の中の「情」だけが心理学の範囲と思っていたが、そうではなかった。「知情意」という言葉は「知性」と「感情」と「意志」で人間の持つ三つの心の働きであり、「知情意」に関連する全てのものが心理学という学問の対象となるようだ。さらに認知とは認識と知識であり、認知心理学とは人間が世界をいかに認識し、世界についての知識を獲得し使用できるかを研究する学問であると話された。認知心理学の学問の範囲は人間が関連する全ての範囲に及ぶようである。
 まず、人間の「目」に関する認知心理学研究の現状について話を伺った。
私たちは色を識別して外界を認識しているがその色の見え方は個人差があることがわかっているということであった。例えば、葛飾北斎の赤富士という絵を見て、その赤の色が鮮明な赤に見える人と、赤が暗い茶色に見える人がいるということであった。
ヒトの色覚は2色型、3色型に大別でき、2色型は「青と赤」、「青と緑」といった2種類の錐体細胞で色を見分ける。3色型は「青、赤、緑」の3種類で、色を見分けるというように、色の識別には多様性があるということであった。この色の見え方の多様性こそ、人類の目の進化であり、この目の進化によって人類は地球上で生き延びることができたという話であった。
地球が誕生し、地球上に生物が誕生したとき、多くの生物は水中で生活していた。明るさが不規則な水中では紫外線を含む4色型色覚が有利だったと考えられている。その後、陸上に生物が進出し、夜間では2色型が暗闇を見抜く力があった。当時の名残でほとんどの哺乳類は2色型が今も多い。ヒトのような祖先は2色型だと暗闇で見る力は優れているが、葉とリンゴなどの色が見分けにくくなる。二足歩行になった頃、人類は3色型と2色型が出現していった。2色型は暗闇でも見抜く力があり、サバンナに潜んだ危険な動物を発見しやすいなどで有利であるが、色の区分けがわかりにくい。そこで、夜の視力は劣るが、葉とりんごの区別が明確で食物採取に有利となる3色型が見られるようになってきた。人類は、目の進化と多様性により、それぞれの優位性を発揮しながらお互いに補いながら助け合いながら、人類として生き延びてきたという話であった。見え方の違いは個性であって、それは人類が生き延びる知恵であった。

目の形の研究においては「強膜(白目)が最も露出していたのはヒトで、さらに強膜(白目)が白いのはヒトだけ」ということであった。ヒト以外の霊長類の場合、白目にあたる強膜は黒い。もし、強膜が白く、視線がはっきりしてしまうと、敵に行動を予測され、襲われやすいことから白目が黒いままになったようだ。しかし、ヒトはコミュニケーションの手段として目を使うことから強膜(白目)が明確に白くなったようだ。「強膜(白目)が白いのはヒトだけで、白目がヒトとヒトを繋ぐ」という事実は驚きであった。
また、アジア人は欧米人に比べて目に注目していて、日本人は目元から感情を読み取れるよう習慣づけられているという。国際共同研究で赤ちゃんが表情を識別する際、日本の赤ちゃんは目、イギリスの赤ちゃんは口を見ていたという研究結果があるようだ。

 次に、嗅覚についての認知心理学の研究の話があった。我が国の認知症患者数は現在600万人で将来は1000万人になると予想されている。その認知症の予防や治療のための研究が認知心理学でも行われて、すでに治療に役立っているという話であった。アロマセラピーという芳香剤を使ってストレスの解消や精神の安定に役立てる芳香治療法がある。これはヨーロッパで生まれた長い歴史のある治療法である。認知症治療の研究はこの匂いを使ったアロマセラピーの延長にあるようだ。
 認知症を発症すると嗅神経を破壊されることが研究でわかっている。同時に嗅神経は再生能力が高いこともわかってきた。また、アロマオイルは記憶をつかさどる海馬を刺激するということがわかり、そして、何よりも嗅神経は海馬に直接つながっているので、嗅神経を鍛えることで海馬の記憶力の向上が期待できるということがわかってきたということであった。アロマオイルの匂いを嗅ぐことを続けると明らかに記憶力が改善するという効果が出ているという話であった。認知症の発症は主に60歳代から始まるので、予防のため50歳代から使用している人もいるという話であった。私の場合は、予防ではなく即治療になるかもしれないが、試してみたいと思った。研修を受けるといろんな新しい情報を入手できるから楽しい。