ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「大人処女」を読む

家田荘子さんの著書「大人処女」を読んだ。私は家田荘子さんのフアンである。家田さんはノンフィクション作家として様々な現場に入っていって本を書いておられるが、それは私の知らない世界であり、いつも興味深く拝見している。「大人処女」というタイトルを見て何か変な本だなという感じを持ったが、作者が家田荘子さんと知って、何か新しい発見があるかもしれないと思い読むことにした。

 本を開けると、前書きに次のことが書かれてあった。「池袋のバーで男性経験のない清楚な女性従業員梓さん(仮名28歳)に出会った。19歳年上のイラン人男性と結婚した彼女と、5年後に再会し話を聞くと結婚前も結婚後も夫と肉体関係はないという(夫以外ともない)。30歳を過ぎて性経験がない女性を大人処女と呼ぶ。彼女たちはなぜそれを選択したのか。著者は梓さんを含む 9人に寄り添うように取材を行った。少しずつ 聞き出していくそこには、9者9様のドラマがあった」

 梓さんは28歳の時に、19歳年上のイラン人と結婚した。結婚して5年経つがその間、二人の間に一度も肉体関係はない。婚約した時から同居しているが手をつないだこともハグしたこともない。古物商の資格を持つ夫は日本滞在も長く、ビジネスも順調である。ビザ目的の結婚でもない。夫は優しく、梓さんは言う。「今の夫で良かったと思います。こんな変わった生活を一緒にできる人って限られていますよね。夫に対して情か愛情かわからないけど、今のままの生活、このままの状態を続けていきたいと思います。」
家田さんが質問する「夫婦だから、肉体関係は必要ですか?」「絶対じゃないと思います。お互いに必要ないと思うんなら、それはなくても、それでいいんじゃなかと思います。私にとってというなら、私には必要ではないと思います」
 家田さんは梓さんを取材して次のように語っている。「梓さん夫婦はこのまま肉体関係を結ぶことなく、末永く結婚生活を続けていくだろう。夫に対して、異性としての感情はないと言いつつも、夫婦愛を抱いてる梓さんは、夫以外の男性と肉体関係を結ぶことはないだろうと感じた。つまり、梓さんは一生男性未経験ということになる。「みんなと一緒」、「みんなと同じように」と、日本では自分の個性よりも、周りと同じであることを安心と感じ、ときに窮屈さを感じながらも、違うことで攻撃されることを避けてきた。いじめや差別の原因の一つは「違う」ということを「個性」として尊重できないから起こる。そういう日本で、自分の心地いい生き方をぶれずに、自然体でしている梓さんのような女性が存在してくれることを私は「逞しい!」と嬉しくなったと記している。

 敦子さん(仮名31歳)は「アロマンティック」で「アセクシュアル」である。アロマンティックとは “romantic”に打ち消すの意味を持つ”A”を加えた言葉で,他者に恋愛感情を抱かない性的特質を持った人のこと言う。アセクシュアルとは”sexual”に打ち消しの意味を持つ”A”を加えた言葉で、人に対して恋愛感情は抱けるものの、性的欲求を抱くことが少ないか、性的欲求がまったくない性的特質を持った人のことを言う。現在、「アロマンティック」とか「アセクシュアル」の人は成人の1%弱存在すると言われている。
 敦子さんは大学時代に「みんな彼氏や彼女いるの?」という話題になって、敦子さんが「いないし、なんか興味ないんだよね。欲しくもないし」と言ったら、一人の女子大生に「じゃあ、セフレ(セックスフレンド)でいいんだ?」と言われた。その人の中では、恋愛を抜いたら性欲が残るという考えに至ったんだろうけど、それすら求めていなくて、どちらの欲も持っていない自分は何なんだろうと思った。セックスありきがその人にとっての普通だったのだろうが、私にとって彼氏がいないことが私の普通で、それに対して劣等感を感じたことは一度もない。実際に男性とつきあってみて、私には必要ない要素なんだということを実感した」「友人の結婚式に出席して結婚式のブーケプルズに強制的に参加させられた時はさすがに困惑した。独身だから結婚したい前提だろうというお節介や、恋愛に興味あって当たり前の前提でいろいろ言ってこられても私は興味がない。ツイッターで、「興味はなくても人生は楽しいんだよ」って返信するけど、「冷たい人」とか「人として欠けている」というようなことを言われたりすることもあった。
 私は「アロマンティック」とか「アセクシュアル」とかいう言葉そのものを知らなかった。私は、恋愛感情というものは誰もが持っていて、持たない人がいることは考えてもいなかった。最近は少なくなったというが、「なぜ結婚しないの?」「なんで彼氏いないの?」などと言われる女性は今も多い。アロマンティックとかアセクシュアルにとっては全く余計なお世話でしかない。アロマンティックとかアセクシュアルは性質であり、背が高いとか低いとか、目が一重とか二重とかの要素と一緒で特徴の一つである。日本社会には、結婚して子供を産むという生き方の選択肢はいろいろあるが、女性が一人で生きていくという選択肢は少ないということも書かれていた。

 いろんな個性持った人がいるのがこの社会であるということを「大人処女」を読んであらためて知った。梓さんや敦子さん以外にも「大人処女」を選択するそれぞれの理由があった。ひとりひとりの個性を大切にする社会を目指すべきだと思った。