ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

出水薫氏の講演を聴く その1

5月3日の憲法記念日に福岡で、「憲法平和主義の再生のために、私達はどのように近隣国際関係を理解すべきか」というテーマで九州大学大学院教授の出水薫氏の講演が行われた。その出水氏の講演をYouTubeで拝聴した。
出水氏の講演は、日本国憲法についての私の浅い理解を深める有意義なものであった。参考まで講演の一部を記す

 「日本国憲法が定義する平和とは、恐怖と欠乏のない世界です。すなわち、平和な世界とは、すべての人々で分かち合う状態です。しかし現状、安全保障という考え方が、日本国憲法の平和の定義を侵食しています。いわゆる、敵とみなす存在から身を守ることができる安全保障という観点のみが大手を振っていて、自分たちの安全の実現が平和だと錯覚しているのです。日本国憲法は、戦争の種、原因は恐怖と欠乏であるとしています。その恐怖と欠乏のない世界の実現という日本国憲法の平和の定義が、今見失われいます。それは結果として国民生活より軍拡という政策によって悲惨な状況を日本にもたらしています。
 しかし、実際に、北朝鮮核兵器を開発して保有しているではないか。ミサイルの発射実験を繰り返しているではないか。私達は現に脅かされていて、身を守るしかない。やはり、安全保障が重要だという主張が、現状日本では溢れかえっています。
 確かに、現在私たちの周囲にはロシア、中国、北朝鮮核兵器保有する国々があります。しかも、北朝鮮も韓国と同様に竹島の領有権を主張していますし、それらの国々の全てと領土紛争を抱えていることになります。
では、それらの国々はどのような経緯で核武装に至ったのでしょうか。まず意識すべきは、それらの国々よりも早く、核武装にしたのが米国であったということです。あわせて、その米国がそれらの国々の核武装以前から、日本や韓国に存在し続けているという事実にも注意を向けなければなりません。旧ソ連から続くロシアはともかくも、北朝鮮や中国は朝鮮戦争において米国と直接戦いました。中国は70年代に米国と和解した一方、北朝鮮と米国の戦争状態は今日まで続いています。それらの国々は、核兵器を一番最初に保有した米国と敵対しているがために自衛のための軍事力を増強し核武装せざるをえなかったといえます。
 ところが、米国に軍事基地を提供している私達日本は、それらの国々に脅かされていると感じ、安全保障を優先し、憲法の平和主義を形骸化させている状態に至ってます。自衛的な観点からの行動が相手への脅威として受け取られ、互いに緊張を高め合ってしまう典型的な安全保障のジレンマという状態にあります。
 さらに具体的に北朝鮮ついて見ていきますと、まず何よりも先に考慮すべきは、朝鮮戦争はまだ終わっていないということです。1953年に休戦して以来、公式な戦争の終結である平和条約の締結は今だに実現していません。北朝鮮にとって、とりわけ重大なことは米国との戦争が継続していることです。在韓米軍と、在日米軍の脅威に晒され続け、常に通常戦力においても韓国に遅れをとっている状態であるがゆえに、北朝鮮は文字通りの抑止力として核兵器とミサイルを開発しているのが現状です。
 次に、中国について考えますと、鄧小平以来中国は共産党一党統治体制を維持するため経済開発による豊かさの達成に力を注いできました。その結果経済は成長し、今や世界の工場となっています。生活水準が平均的に上がったため中国はすでに食料とエネルギーを自給できなくなっています。しかも世界の工場として海外との安定的交易環境の維持確保は絶対に欠かせません。だから、世界との交易ルートの確保は死活問題です。ご存知のように、中国は一帯一路政策を推進してきました。中国から西に向けて物流ルートを確保する政策です。それはユーラシア大陸を横断する陸路とインド洋、紅海を経て地中海へ至る海路です。中国にとって一帯一路の意味について考えてみましょう。
北京から海路で出ようとすると、すぐ前には米軍に基地を提供している韓国が存在しています。日本列島から琉球列島台湾を経てフリピンまで米国と軍事的に密接な関係を持ち基地を提供している国々が中国の海の出口を遮るように続いています。中国が軍事的緊張を高めているという南シナ海もこのように見るとインド洋に抜ける重要なルートを確保しようとしていると理解できるでしょう。端的に言うと、北朝鮮も中国も、両国の立場からすると体勢の存続のための防衛的行動をとっているという説明になります。しかもそれは嘘ではありません。つまり私達は、両国の自衛的行動を脅威と見做し、米国との軍事的関係を強化することをやむなしとする世論に圧倒されています。繰り返しますが、まさにこれこそ安全保障のジレンマであり、困難な悪循環に陥っています」と話されてた。

 講演の中で、エンパシーという言葉の説明があった。エンパシーは「他者の靴を履く」という言葉で説明されるように、相手の立場になって考える、相手を理解しようとする姿勢をエンパシーと言うらしい。私達は、北朝鮮や中国から脅かされているが、なぜ北朝鮮や中国は日本に対してそのようなことをするのだろうかということを考えるのがエンパシーの実践ということであった。国際関係を理解する上では、自国からの一方的な見方ばかりでなく他方に立って見る、エンパシーの実践が必要ということがよくわかる講演であった。争いの絶えない国際関係にはエンパシーの実践が必要であると思った。