ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「安倍政権を笑い倒す」を読む

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新型コロナウイルスの感染拡大防止のため外出を控えようというニュースが毎日毎日流れている。私もこのところ毎日自宅で過ごしている。今日は先日買った「安倍政権を笑い倒す」という本を読む。

この本は佐高信さんと松元ヒロさんの対談本である。佐高信さんは1945年山形生まれのノンフィクション作家で経済評論家である。松元ヒロさんは1952年鹿児島生まれで、政治について風刺の効いた笑いで多くのファンを持つお笑い芸人である。

 

佐高信さんは知名度もあるので知っている方も多いと思うが、松元ヒロさんはテレビにほとんど出ないのでそんなに知られていないようだ。

「テレビ関係者が評判を聞きつけて松元ヒロさんのライブを見に来て、終演後「いやあ、ヒロさん。面白かった。しかし、絶対テレビには出せない」と異口同音に感想を述べるとか。松元ヒロさんの笑いは権力への毒を含んでいる。そして、その毒をこの国の現在のテレビは忌避している」と佐高さんがプロローグに書いている。

 

この本の中でまず、松元ヒロさんが安倍総理に初めて会ったときのことが書かれていた。時期は第一次安倍内閣が政権を放り出した後の民主党政権の頃で、「前内閣総理大臣安倍晋三衆議院議員と行く国会見学ツアー」に参加したときのことである。見学が終わって質問タイムになったら小学校高学年か中学生くらいの子がパッと手を挙げて「安倍さんはどうして国会議員という職業に就いたんですか?」と質問した。そうしたら、安倍さんは「それはですね。私の父もこの仕事をやりました。私のおじいさんもこの仕事をやりました。だから、この職に就きました。」と言ったんです。かりそめにも一国の首相を経験した人なんだから、せめてもう少しまともなことを言うかと思っていたんですけど、ほんとがっかりしました。お金儲けの家業か稼業かしらないけど、相手は未来を担っていく子供たちですよ。「暮らしやすい国にするために」とか「世の中をよくしたい」とか政治家の志みたいなものを片鱗でもいいから見せて欲しかった、とそのときのことを述べている。

 

この本を読むと安倍総理人間性までよくわかる。コロナウイルス対策もコロナを政治に利用するなとか、対策が後手後手に回っているとか様々な批判を浴びているようだが、やってる振りの対策でなく真剣に取り組んで欲しいと思う。

 

この本は「安倍政権を笑い倒す」というタイトルだから安倍政権を笑いでめった斬りしている。そして、その最後には二人で「また、つまらないものを斬ってしまった」と笑いあって笑いに事欠かない。しかし、この本読んで感動したことは安倍政権のめった斬りのチンケなことでなく、ヒロさんの笑いを追求していく過程での人との出会いの話と佐高さんの笑いについての考えが聞けたことであった。

 

松元ヒロさんはお笑い芸人として独立して細々とやっているとき、立川談志さんとの出会いがあり、談志さんが一度ライブを見にきてくれた。演目が終わって客席に向かってヒロさんが最後の挨拶をしていたら、トコトコとステージに向かって歩いてくる人がある。よく見たら談志師匠でビックリした。ステージにあげて談志師匠にマイクを渡すと、「オレはね、他人の芸を褒めたことがない。だいたい最近の芸人はなんだ。」というから怒られると思い硬くしていたら、「こいつ、ヒロ松元の芸を、今日は最初から見せてもらった。久々に笑った。」「今まで、彼のことを見損なっていました。見損なってというのは、きちんと見てこなかった、見損ねてきたということです。そのことをいま、あなたに詫びます。」と言って私に向かって深々と頭を下げたんですよ。そして、「いま、ヒロには詫びました。だけど、今日ここでヒロの芸を見ることができたのは、ここまでヒロを育ててくれたみなさんのおかげです。おかげで、私は彼の芸を見ることができた。私からみなさんに礼を言います。」「テレビに出ているやつを、オレはサラリーマン芸人と呼んでいる。テレビをクビにならないように、ということばかり考えている。お前みたいに、庶民が言いたいことを、代わりに、言ってやるのが本当の芸人という。昔はそんなやつばっかだったよ。」と言って、こんどは客席に深々と頭を下げたんですよ。立川談志師匠は口が悪くて、気難しい、わがまま、横柄というイメージで見られるが実際はそうではなかったようだ。実力者とか権力者には実にそっけない対応をするが弱い人、底辺の人にはとても優しい人だったらしい。

 

松元ヒロさんの話の中で、長野県上伊那郡中川村の村長、曽我逸郎さんの話も面白かった。曽我さんは会社員を辞めて中川村に移住して農業を始めた頃、市町村合併の話があり、合併反対を唱えたところみんなから担がれて村長選に出馬して当選、現在3期目の村長である。TPP参加に反対して自らデモの先頭に立ったり「憲法9条を守る首長の会」に参加したりもする。ヒロさんが曽我村長に一番心を動かされたのは、日の丸敬礼問題のときの対応である。それは、曽我村長が村長として村の小中学校の入学式に出席したときに、国旗に敬礼しなかったことを村議会で問われ、「国旗や国歌に対する一定の態度を声高に要求し、人々をそれに従わせようとする空気に、私は抵抗したい。」と言って拒否した。要するに「人々に同じ空気を強制して、国旗や国歌に対する態度を型にはめようとするよりも前に、みんなが誇りにできる国、世界から尊敬され、愛され、信頼される国にしていくことのほうがまず先にあるべきではないか」という考え方である。ヒロさんはこの話を聞いて「国は日の丸を掲揚しろ、「君が代」を歌えとやたら「形」ばかりを強要するけど、曽我村長の言うように、本当に素晴らしい国になれば、みんなが自然と国を愛するようになります。こんなリーダーが出てくるんだから、日本もまだ捨てたものではない。諦めちゃいけないな」と思ったと書いている。

 

この本の締めは詩人、長田弘の「ねむりのもりのはなし」という詩の中の「あべこべのくに」という一節を紹介して終わっていた。

 

いまはむかし あるところに

あべこべの    くにがあったんだ

中略

ただしいは   まちがっていて

まちがいが   ただしかった

 

うそが   ほんとのことで

ほんとのことが   うそだった

あべこべの    くにがあったんだ

いまはむかし  あるところに