ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「沈みゆく大国 アメリカ」を読む

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この本は現在のアメリカの医療、介護の現状をありのままに描写したルポルタージュである。そして著者は日本の医療、介護がアメリカと同じ方向に進んでいることを危惧している。

 

 

第1章はアメリカの老人介護の実態が書かれていた。

アメリカの介護産業を一言で言うと「天国と地獄」という言葉で表すことができるそうだ。天国というのは超リッチな老人ホームであり、地獄は普通の老人ホームである。天国型も地獄型もそれらの介護施設(老人ホーム)は巨大企業による大型チェーン店によって経営されており、政府の莫大な老人福祉予算の2割を毎年吸い上げている。

アメリカではコングロマリット支配の「老人ホーム大帝国」が誕生し、政府からの交付金と利用者からの利用料を毎年伸ばし、高い収益と成長率を示している。老人医療と介護産業は恐ろしく儲かるビジネスと言われている。老人ホームプロジェクトは投資家にとって景気に左右されない最も有望な商品らしい。

 

天国に値するのは裕福な人々の介護施設(老人ホーム)である。そこは「私たちは入居者の尊厳を最大限大切にしながら、愛情と共感を込めたプロフェッショナルサービスを提供します」という方針で運営されている。その介護ケア付き老人ホームは入居金3800万円、月額使用料60万円で評判通り快適である。ゆったりとした個室と行き届いたサービスは定評がある。(平均滞在期間3〜5年)

認知症などが進んだら退去しなければならない。その時は、認知症ケアーがついた介護施設(月額90万円)を進められることが多い。(自宅で訪問介護を受ける場合は月額40万円〜65万円)

アメリカでは高齢者が数年間寝たきりになったら1億円かかると言われている。

 

 

低所得者の場合は

メディケイド(低所得者用公的医療保障)が適用された介護施設の場合は月額費用20万円である。

メディケイドが適用されなかったら、老人ホームの費用が高くなり、費用を払えず自宅介護するケースが非常に多い。その時の介護は娘か息子の嫁が仕事を犠牲にして引き受ける場合が多い。そして、その中で様々な悲劇も起こっている。

 

低所得用老人ホームの特徴は最少の介護スタッフとスタッフの低賃金とスタッフの莫大な業務量である。昼間は数人で50人を見る、夜間は1人で50人の高齢者を見るなど、物理的に目が行き届かずたびたび不幸な事故が起きている。食事を食べさせてもらえない、風呂に入れてもらえないなどはよくあることでそればかりか、虐待とか死亡、致死レベルの事件が老人ホームの三分の1で発生している。問題点は指摘されるが、老人の受け皿はそこしかないため、改善は進まないという状況であるらしい。

 

 

 

 アメリカの老人ホームの問題には驚くばかりである。問題点が分かっても改善できないのは寡占化で巨大化してしまった企業が政治まで支配しているかららしい。

アメリカの老人介護業界の現実は、営利企業が公的サービスを飲み込んでしまうとどうなるかを証明したと言えるでしょう。利益優先という“肥大した強欲”が一つの社会を破壊していくモデルケースです。」とアメリカの老人ホームの事件を担当した弁護士は語っている。                                                                                                           

 

世界最速で高齢化が進んでいる日本は、アメリカの資本家投資家にとって60兆円の市場規模となるドリームランドと期待されている。

 日本に対して、アメリカは医療においても介護においても市場開放を迫っているということである。

そのような日本にとってどのような選択肢が残されているかを考える前に自分の国の医療制度をよく知ってほしいと著者は言っている。

 

日本政府が負担する医療費は諸外国と比べると少ないし、さらに患者の自己負担率はとても高い。」というウソみたいな事実がある。これは1980年時点で、医療費の国庫負担は30%であったものが、1998年には24%に削減している。金額にして1兆5千億円の削減を行なった。それを補うため、医療や介護の現場への報酬を引き下げ、または患者の自己負担率の増加していった。

 

「高齢化が日本の医療を破綻させる」とよく言われるが、それはウソである。「高齢化で医療費が高騰するというのは事実ではない。日本医師会の調査では、高齢者とそれ以外の患者さんでは治療費は変わらない。医療費を押し上げているのは医療技術の進歩と新薬のためです」日本医師会の横倉会長は言う。

外資系製薬会社にとって、日本は10兆円の巨大市場を提供する素晴らしい国である。日本の人口は世界のわずか1.6%にもかかわらず、世界の薬の4割を消費する国である。日本で840万円のアメリカ製薬会社のC型肝炎薬が、イギリスでは500万円、エジプトでは10万円である。なぜそうなるかというと薬の値段は製薬会社によって決められるからである。ジェネリックについては安くなった分を日本が製薬会社に補填するシステムになっているから国内で薬代を抑えても医療費の支出は増えるばかりである。

 

さらに、日本の医療を支える医師が不足している。厚労省のデーターでは医師数は30万人だが、この数字は医師免許を持つ数で超高齢の人なども含まれている。現役医師で計算すると12万人不足すると言われている。日本の医師不足は深刻で、早急な増員と地域偏在の是正、労働条件の改善が必要と指摘されている。

 

安倍政権の時代に「医療を成長産業にする」ということが言われてきた。それは海外投資家たちの期待に沿った、国民皆保険制度を守る代わりに外国に安く売り飛ばすような間違った方向に進んでいる。日本の医療産業・介護産業を使い捨て市場にする形で進められているにすぎない。

そうではなく「医療を成長産業にする」ことは日本の国益になる形で行われることが重要であると著者は述べている。

 

日本には世界が嫉妬する「国民皆保険制度」や「医療費を下げ寿命を延ばす地域医療の実績」「献身的な医療従事者」「世界にひけをとらない高度な医学と技術」がある。

すでに、医療によって地域創生が進められている実績もある。アジア各国から質の良い日本医療を求めてやってきている。そのことが地域の雇用拡大につながり地域の活性化になっている。医療は国内雇用を生み出す成長産業である。

 

小国でありながら国民皆保険制度を持つキューバーは医療における先進モデルでもある。キューバは国の方針として「医療外交」を長く続けている。世界中の国々や被災地に送られるのは兵士ではなく医師である。現在5万人のキューバ人医師が世界66ヶ国に派遣されている。キューバはその見返りに他国から安く産物を輸入したり、年間8000億円の外貨を得ている。医療がビジネスになる。しかし、それはアメリカ式の利益優先主義ではなく、ビジネス化の方向と守るべきものさえ間違えなければ未来への選択になるだろう。日本の医療水準からして医師を育てることができれば世界に貢献できる分野である。

医療・介護産業は“いのち”をあつかう産業である。この産業を株式化すると間違いなく沈みゆく大国アメリカになる。医療・介護産業は人間にとって無縁でありえない、避けて通れない分野である。だから、国民全員が医療・介護に関心を持ち医療・介護のあらゆることを知っておく必要があるとこの本を読んで痛感した。無知だと政治家に騙されると思った。事実、ウソを本当と思っていた。

 

安部政権から菅政権に変わった。しかし、菅政権は医療・介護について安倍政権の政策をそのまま引き継ぐようだ。管政権も安倍政権と同じで、都合の悪いことは説明しないし信用できないように感じる。この本を読んで、日本の医療・介護を考える良い機会になった。世界一素晴らしい皆保険制度と憲法25条の精神を全力で守っていきたいと思う。