ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「教育漫才で子どもたちが変わる」を読む

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図書館で面白い本を見つけた。「笑う学校には福来る」と副題に書かれている。なんとなく面白そうと思い読むことにした。この本を書かれた田畑栄一さんは小学校の校長先生である。この本は田畑先生が先頭になって、全校あげて国語授業の活性化と不登校改善をめざして取り組んだ教育漫才についての教育実践記録である。田畑先生の言葉を以下に抜粋する

 

不登校問題

平成30年度に文部科学省が公表した全国の小中学校の不登校数は小学校3万1151人、中学校10万3247人で合計13万4398人に上っています。不登校の小学生は千人あたり4.8人、中学生は30.1人である。私も教師になって以来、「自殺、不登校、いじめ」の三つなしの学校づくりに奮闘してきました。不登校の子どもを担任したこともありました。思うように進まず悩むこともありました。そのような自殺、不登校、いじめ問題に直面しているとき、昼休みに校内を巡回していると、空き教室でクラスの行事のために漫才を練習している5年生の子どもたちに遭遇しました。その様子が実に楽しそうにしているので話を聞くと、グループで漫才ネタを考え、練習していると言います。「やって見せてよ」と言うと堂々と披露してくれ、思わず微笑んでしまいました。

 

これをヒントにして、温かい漫才をコミュニケーション能力の育成の基盤として国語科授業の一環として導入しようとひらめきました。これは自殺、不登校、いじめの予防策としてのコミュニケーション能力とりわけ相談する力の育成につながるのではと考え「笑うという行為」を学校の再生に繋げていこうと思いました。

 

笑う門には福来る

「笑う門には福来る」という格言がありますが、学校教育の現場ではこの笑いを嫌う傾向があります。例えば、クラスの中で一人が手を上げて発表します。しかし、その答えが間違っていた時、クラスの多くが笑うという現象が起きます。本能的な思わず笑ってしまう類の笑いです。しかし、これがいわゆる嘲笑、つまりあざ笑うことにつながる可能性があります。心ある先生は「笑ってはいけません」「〇〇さんの気持ちを考えなさい」と注意をします。まずい、と思った子どもたちは反省して次から笑わなくなります。

 

「教室はまちがうところだ」  まきたしんじ作

教室はまちがうところだ

みんながどしどし手をあげて

まちがった意見を 言おうじゃないか

まちがった答えを  言おうじゃないか

まちがうことを  おそれちゃいけない

まちがったものを  笑っちゃいけない

まちがった意見を  まちがった答えを

あじゃないか  こうじゃないかと

みんなで出し合い  言い合う中で

ほんとうのものを  見つけていくのだ

そんな教室を 作ろうや  みんなで  しゃべって

作ろうや

そして  みんなで  のびていくのだ

 

小学校では、まきたしんじさんの「教室はまちがうところだ」をみんなで読んで学校全体に正しい世論づくりをしているところも多くあります。

 

そのような指導を受けてきた子どもたちの中には、笑うことがいけないことと真面目な子ほど錯覚してしまう子どもが出てきます。人を傷つけるネガティブな笑いがいけないのであって「笑い」そのものを否定しているのではないのですが、子どもたちはどこで笑っていいのか戸惑い、ポジティブな朗らかな笑いまでも否定してしまう危険を孕むこともあります。その結果、真面目であるが、笑いの少ない学級、学校になってしまうのです。

 

同じ場面で、心ない先生は、子どもたちのあざけり笑いに対して注意するどころか、一緒に笑い、挙げ句の果て「あなたの答えは、面白い!」などと教育的配慮を欠いて無意識にいじめに加担するような先生も存在するかもしれません。

笑われた子どもは、手をあげて発言しようという意欲をなくします。道徳心の未成熟な学級では、その後からかわれたり、いじめられたりする原因につながる可能性も出てきます。最悪のケースでは不登校や自殺に繋がっていきます。嘲笑やからかいで苦しんでいる子どもは全国にたくさんいます。様々な自殺の背景にはこのような類のことが多いのです。

 

規律のしっかりした学校の教室の子どもたちは何事にも一生懸命ですが、温かい笑いが少ないしあまり笑いません。規律が緩い学校の教室の子どもには笑いが見られますが、行動が緩慢でその笑いはあざ笑いが多く含まれ、人間関係の力関係が顕在化する傾向があります。

 

笑いの種類を整理する

ポジティブな笑いとして、朗笑、爆笑、大笑い、微笑み、愛想笑い、照れ笑い、思い出し笑いなどがあります。ネガティブな笑いとしては嘲笑、冷笑、物笑い、鼻で笑う、薄ら笑い、含み笑いなどがあります。さらに、笑いの種類を三つの視点から分類すると、感情が満たされ楽しい時に出る「愉快な笑い」、習慣的な学習して身につけた「社交の笑い」、思わず出る「本能の笑い」に分類されます。そのうち、学校生活での笑うという行為は80%以上が「社交の笑い」で占められています。感情が満たされ楽しい時に出る「愉快な笑い」は10%程度しかありません。つまり子どもたちは学校生活において腹の底から思いっきり笑うことがあまりない状態です。子どもたちも意識するしないに関わらず相当なストレスを抱えているのです。今、子どもたちに必要なのは心から安心して笑うことができるという「笑いの力」です。教育漫才において目指す笑いは、ポジティブな笑いであり、腹の底から思いっきり笑う朗笑であり、爆笑です。                                                                                                                                    

 

温かい人間関係のつながり

規律の厳しい学校と規律の緩い学校には差があることが研究で確かめられています。教育には規律と寛容のバランスが必要です。規律と寛容のバランスとともに、さらにクラスの中で子供達が伸びやかに意見を繰り広げられるためには全て温かい人間関係のつながりが重要です。実は、温かい人間関係のつながりが、学校やその学級の空気を作ります。いじめや不登校、自殺を防ぐには、温かい人間関係のつながりがとても重要です。

温かい人間関係のつながりはポジティブな笑いを共有した関係によって生まれます。だからこそ、漫才学習が作り出す「愉快な笑い」をポジティブにとらえ、そこから生まれる「朗笑・爆笑」が創り出す「温かい空気・雰囲気」を基盤とする温かくほっこりした学校の創造につなげていくのです。

 

漫才学習が持つ特長

○ 2、3人で簡単にできる言葉の学習

○ 言葉の感覚が磨かれる学習

○ 感性が磨かれる学習

○ コミュニケーション力向上に貢献する学習

○ 柔らかい人間関係づくりに貢献する学習

○ 皆が楽しく笑顔になり情緒が安定する学習

○ 学校やクラスの空気が温かく変化する学習

○ 想像性と創造性につながる学習

○ 人権教育、道徳教育につながる学習

○ 論理的思考力が鍛えられ学力が向上する学習

などの特長を上げることができます。

 

漫才大会の実施

漫才教育においては「死ね」「消えろ」「むかつく」「うざい」「きもい」などのネガティブな言葉を使わない。どついたりする暴力もやってはいけないというのが唯一の絶対ルールです。

漫才教育では2、3人に分けて(ペアーは抽選)全員参加の漫才大会を行なっています。終了後のアンケートでは「漫才大会をやって良かったですか」という問いに「良かった」は541人中461人、「まあまあ良かった」と答えた69人と合わせると全体の97.9%が高い評価をしています。「良くなかった」と答えた11人のコメントを分析すると人前での表現活動に苦手意識を持っていた子がほとんどでした。漫才学習だけでなくコミュニケーション能力育成のため「子どものレベルに応じた表現指導」がさらに必要であると考えます。

 

田畑先生の教育漫才を読み、先生の自殺、不登校、いじめを1件もださないという教育方針に教育者としての強い熱意を感じました。管理教育が進んだ日本の教育界において、平均不登校数、平均いじめ件数など詳細に出るだろう。平均以上の成績であれば学校長として「まあ良い方だ」と安心するところですが、畑田先生は自殺したいと考える子、不登校になっている子、いじめで苦しんでいる子、教室に居心地の良さを感じていない子、授業中発言できず黙って座っている子、そのような子どもたちを一件でもなくしたい、そのような子どもを救いたいという一念が教育漫才に行き着いたということでした。素晴らしいと思いました。悩みを抱えた小さな子どもたちが温かい人間関係のつながりの中で救われていくことを祈りたい気持ちです。この本の中で畑田先生は日本で自殺、不登校、いじめの同じ悩みを持つ先生方に是非参考にしてもらいたいと思い、出版を決めたと書かれていました。全国の先生方に教育漫才の事例も参考にしていただいて悩んでいる小さな子どもたちを救っていただきたいと心から思います。