ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

伊藤詩織氏の著書「Black box」を読む

ネット上に伊藤詩織氏の著書「Black box」の抜粋が掲載されていた。私は、伊藤詩織さんの事件について英国のBBC放送が作成した「Japan's Secret Shame (日本の秘められた恥)」というタイトルのドキュメント番組を見て知っていた。このドキュメント番組で英国BBC放送は「この事件は単なるレイプ事件ではなく、恐るべき権力犯罪の事件である。犯罪者は山口敬之だけではない。もみ消しを指示した警察官僚中村格も犯罪者だ、現在、安倍首相の伝記作家である山口敬之との関係性を否定している安倍首相も犯罪者である。女性の人権と国家権力の犯罪が重なった歴史的な事件」と番組は語っていた。

2015年4月3日、伊藤さん(当時25歳)は東京都内で当時TBSの政治部記者でワシントン支局長であった山口敬之と会食。同日夜から4日早朝にかけて、ホテルで乱暴されたとして準強姦容疑で高輪署に被害届を提出した。届出を受理した高輪署の係官は証拠や証言を集め、裁判所から逮捕状の許可を取った。合わせて「6月8日山口氏の帰国に合わせて成田空港で逮捕するということになったので、逮捕後の取り調べに備えて東京に滞在するように」と6月4日高輪署から伊藤氏に連絡が入った。逮捕予定日の6月8日、高輪署係官Aさんから電話があり、「伊藤さん、実は、逮捕できませんでした。逮捕の準備はできておりました。しかし、その寸前で待ったがかかりました。私の力不足で、本当にごめんなさい。また私はこの担当から外されることになりました。後任が決まるまでは私の上司の〇〇に連絡して下さい」と連絡が入った。驚きと落胆、質問が次から次へと沸き上がった。なぜ今さら? 何かがおかしい。
「検察が逮捕状の請求を認め、裁判所が許可したんですよね? 一度決めた事を何故そんな簡単に覆せるのですか?」すると、驚くべき答えが返ってきた。「ストップを掛けたのは警視庁のトップです」なぜ、事件の司令塔である検察の決めた動きを、捜査機関の警察が止めることができるのだろうか?「そんなことってあるんですか? 警察が止めるなんて?」するとA氏は、「稀にあるケースですね。本当に稀です」「全然納得がいきません」と私が繰り返すと、A氏は「私もです」と言った。何をしても無駄なのだという無力感と、もう当局で信頼できる人はいないだろうという孤独感と恐怖。自分の小ささが悔しかった。涙が次から次へと流れ落ちた、と著書には書かれている。

このレイプ事件の加害者であるTBS記者山口敬之は、安倍総理の伝記である「総理」を出版した作家である。安倍総理と深い面識や繋がりがないと切り込んだ内容を書くことができないことから、官邸に最も近いジャーナリストとして知られていた人物である。
 
官邸御用達記者である山口敬之は、伊藤さんレイプ事件の犯人として訴えられ、事件を受理した高輪署は捜査を進め、証拠も固まり逮捕状を取り逮捕を執行しようとする矢先に、警察の上部から「逮捕するな!」と指示があり逮捕が見送られた。この「逮捕するな!」という逮捕もみ消しの指示したのは当時警視庁刑事部長の中村格氏で安倍政権を支える菅官房長官の元秘書であったことが判明している。そしてその中村格氏は現在の警察庁長官である。逮捕もみ消しを指示した人物が警察のトップに昇り詰めている。

この事件について伊藤詩織さんは実名で顔を公表して告発している。そして、その理由を著書の中で語っている
「性暴力は、誰にも経験して欲しくない恐怖と痛みを人にもたらす。そしてそれは長い間、その人を苦しめる。なぜ、私がレイプされたのか? 私は何度も自分を責めた。ただ、これは起こったことなのだ。残念ながら、起こったことは誰にも変えることができない。しかし、その経験は無駄ではなかったと思いたい。私も、自分の身に起きて初めて、この苦しみを知ったのだ。この想像もしていなかった出来事に対し、どう対処すればいいのか、最初はまったくわからなかった。病院も、ホットラインも警察も、私を救ってくれる場所にはならなかった。

 しかし、今なら何が必要なのかわかる。そしてこれを実現するには、性暴力に関する社会的、法的システムを、同時に変えなければいけない。そのためにはまず第一に、被害についてオープンに話せる社会にしたい。それは、私自身のため、大好きな妹や友人、将来の子ども、そのほか顔も名前も知らない大勢の人たちのために。

 私自身が恥や怒りを持っていたら、何も変えることはできないだろう。この事件に関し、私は当初、顔も名前もない「被害女性」だった。私は「被害者」というこの避けようのない言葉がまとわりついてくるのが好きではない。このことを世の中の人たちに話そうと思った時、私はこの先の一生を「被害者」という名前で生きていかなければならないのか、と絶望的な気持ちになっていた。

 近年、被害者の遺族が実名、写真を公開して事件を語るニュースが報じられた。2015年、過労自殺に追い込まれた電通社員の高橋まつりさん、2016年、いじめにより自殺に追い込まれた中学生の葛西りまさん。最愛の人を失い、このようなことが二度と起こらないようにメディアの前で話をすると決めた遺族の気持ちは計り知れない。そこに「被害者のAさん」ではなく、実際に名前と顔がある人間として登場したことが世の中に与えた影響は大きかったであろう。そして、このご遺族の行動を見て、私も「被害者A」でいてはいけないと、はっきり思った」と述べている。

伊藤詩織さんの生き方に共感する。苦しいけど信じる道を進んでほしい。心から応援したい。