ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

ソ連崩壊から30年---資本主義の先に

長崎新聞の「News論点」の欄に共同通信の井手壮平氏が執筆した「ソ連崩壊から30年---資本主義の先に」というタイトルの記事が掲載され、それを読んだ。地球規模で私たち人類がどこへ行こうとしているのかを提示する内容であった。その中で井手氏は次のように述べている。

「1991年12月、ソ連邦は正式に消滅した。1960年代までは宇宙開発競争で米国を圧倒するなど、一定の成功を収めたが、人権は抑圧され、次第に経済発展でも後れを取り、連邦各国の離反を抑えられずに自壊した。資本主義陣営と社会主義陣営の間で繰り広げられた東西冷戦は資本主義の勝利に終わった、と多くの人が考えた。あれから30年。「戦勝国」米国の漂流が止まらない。豊かになりたいという人々の欲望を原動力とする資本主義は経済成長をもたらしたが、果実の分配は著しく偏る。米国では30年間で上位20%の富裕層の世帯収入は物価変動を除いた実質で1.8倍に増えた一方、中間層の収入は4割強しか増えていない。戦後一貫して伸びてきた平均寿命は、2014年をピークに下落に転じた。先進国では異例の事態である。米疾病対策センター (CDC )は、主な原因を麻薬の過剰摂取と自殺としている。繁栄から取り残された中間層以下の不満は、強権的手法をとるトランプを大統領に押し上げた。  


イギリス北部グラスゴーで2021年10月に開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議 (COP 26)では、年々深刻化する気候変動危機に対し、街頭では地球温暖化の「悪玉」として資本主義への反対を訴える人々の姿が目立った。デモに参加した環境問題研究者、ベンジャミン・ブラウン(29)は「我々の世代は不安定な職や住居に悩み、経済発展の恩恵をほとんど受けていない。資本主義に反対する立場の方が主流なくらいである」と話す。格差拡大と気候変動という二つの問題に直面し、米国では長らくタブー視されてきた社会主義の位置付けが変わってきた。2020年大統領選の民主党予備選でバイデン現大統領と激しく争った上院議員のサンダースや民主党若手のホープで下院議員のオカシオ・コルテスは民主社会主義者を自称している。


日本でも、岸田文雄首相は分配を重視する「新しい資本主義」を掲げている。大阪市立大准教授の斎藤幸平が書いた「人・新世の『資本論』」は40万部を越す人気となっている。斎藤は資本主義はやがて社会主義に移行すると説いたマルクスの研究を専門としている学者である。


その斎藤幸平氏はインタビューに答えて次のように語っている。
「気候変動による自然災害やコロナ禍のしわ寄せが貧しい人に集中してダメージを与えているのが目に見えるようになってきた。どちらも経済成長を無限に追求する資本主義が原因だが、ソ連邦崩壊以降、資本主義以外の社会を想像しようとする機運はなかった。しかし、ここに来て、抜本的なシステムチェンジが必要だという認識が世界的に広がってきている。脱成長型のポスト資本主義社会を構想しなくてはならないと考え始めている。

経済成長を通じて格差解消を図るべきという意見があるが、現実問題として成長の余地はほとんどない。成長のためといって金融緩和政策をやったが投資先がないので投機に回り、不動産価格や株価がバブル的に上がってしまっただけであった。また、成長がないと困るのは立場が弱い人々ではないかという意見もある。しかし、むしろやみくもに成長を続け、気候変動が悪化すれば割を食うのが社会的弱者である。今、多くの人が貧しいのは十分な富が生産されていないからではなく、富が一部の人に偏っているからである。すでに富は過剰にあり、それを市場以外の手段を使って、共有財(コモン)として平等に管理することができれば、多くの人の生活はむしろ安定するだろう。平等と持続可能性を同時に追求することが最も効率的だ」

 

30年前ソ連邦が崩壊して、アメリカを代表とする自由主義社会の勝利が確定したと思ったのも束の間、そのアメリカでは平均寿命が下落している。その原因が薬物中毒と自殺であると言われている。世界で一番豊かで幸せな国みたいに思われていたアメリカは病んでしまっているという。そのアメリカだけでなく、自由主義社会の各国が今まで経験しなかった社会の歪みを抱えて呻吟しているようだ。その中で抜本的なシステムチェンジが求められているという。世界でポスト自由主義を求める潮流が起こっているようだ。日本の中では想像できないことが世界で今起ころうとしている。東洋の端に位置する日本もグローバルな潮流と無関係ではいられない。国際社会の中で日本も繋がっていく。斉藤幸平氏の「人新世の『資本論』」をぜひ読んでみたいと思う。