経営コンサルタントの波頭亮さんと宮台真司さんが対談する番組を見た。今回は「他人を見捨てる日本社会、なぜ助け合わないのか?」がテーマであった。お二人の対談を要約する。
「日本は現在、国連加盟国が193カ国あるなかで、最も成長していないワースト5カ国の一つになっている。長い間、日本では法人税減税を実施し、その不足分を消費税で国民から巻き上げるというを経済政策を実施してきた。それは貧しいものはますます貧しくなる社会であった。
戦後の資本主義が行き詰まりを見せたあと、1980年からフリードマンの新自由主義というシステムが世界に広まっていった。新自由主義は人間をモノとして扱う効率重視の経済政策であった。しかし、当時のフランスのミッテラン大統領は新自由主義を採用しなかった。当時のフランスはユーロコミュニズムという体制でデモやストライキがいつも行われていた。それでもフランスはその体制を維持したまま、経済発展に取り組んできた。その結果フランスは、コミュニティを大事にしながら、新自由主義国家と変わらない経済成長率を達成してきた。コミュニティーを重要視する再分配型社会でも成長は可能ということをフランスは証明してみせた。その結果、生きていく不安のない社会づくりに成功している。
現在、日本の国が荒れてきていることも心配である。安倍元首相銃撃事件を含め、もともと日本国の良いところは安心・安全・清潔であった。そのことが日本社会の財産でもあった。東京オリンピックの賄賂や汚職が問題だとわかっても何も変わらない。統一教会問題が明るみに出ても何も変わらない。それらを国民が看過する国になっている。しかも、直近の選挙においても政権に対してほとんど批判が出てこない。
今回の統一地方選挙の低投票率は民主制を支える民意の劣化を意味している。昔、1980年頃前まで、井戸端会議的に政治を語る場があった。大学生でも誰でも自由に政治について語っていた。しかし、今の若い人は政治を仲間と語らない。なんでも話し合えるのが友達であったが、今は友達の概念が変わった。空気読めない奴と言われるのを恐れて、単なるキャラを演じるだけの友になり、今は友達とは政治の話、性愛の話、本当の趣味の話はしないようになった。共通のコミニティーがなくなると民意が劣化する
私たちは、日本を考えるときに民主主義を前提に考えるが、日本は民主主義の国だから良い国ですとは言えない。民主主義はあくまでも条件付きである。その条件は良い民度があるかどうかである。良い民度は、人々が普段からどのようなコミュニケーションしているかの生活形式の問題である。良いコミュニティからしか良い民度は生まれない。民主主義はそれを支える民度が一定のレベルがあれば素晴らしいものになるが、そうでなかったらひどいものにもなる。そのことを政治家は言わないし、子ども達は学校で教わらない。子供達にはしっかり教えていくことが必要である。
『自立できない人は見捨てても仕方がない』というアンケートに世界で1番高い回答率を出すのが日本である。日本はこの質問に対して『そうである』と答える人は40%、他国は先進国でも発展途上国でも約10%である。人間という群れの中で、自分一人で生きていけないときに助け合おうというのが世界では90%を占めるが、日本では助け合おうという人は60%で、見捨てるという人が40%もいるという話である。この問題は日本社会を考える上での基本的な問題が含まれている。
今後100年というスパーンで、私たちの子々孫々まで日本国のメンバーでいてもらいたいという前提で、日本はどのような国になるべきかということを考えた場合に、メンバーの仲間を守り、メンバーの仲間を守るためであれば、自分は多少犠牲になっても構わないというメンタリティーを規範として樹立していくことが必要である。メンバーの仲間というのは非正規労働者みたいにいつでも入れ替え可能なモノ扱いされるヒトではなく、生身の人間として尊重される仲間である。非正規労働者が4割の日本社会では、まず人間の尊厳を取り戻すことから始めなければならない。
国際青少年研究データーの『あなたは自分に価値があると思いますか』というアンケート調査に対して、日本の青少年の『価値がある』の回答はここ数年の平均は7%である。アメリカは60%、中国は50%が『価値がある』と答えている。日本の若者は他国の若者に比べて自分に『価値がある』と思っている人が極端に少ない。これは若者の問題ではなく、周りの大人の問題であり責任である。日本の社会はすでに構造的に壊れてしまっていて、子供達がのびのびと育ち、明るい未来を描くことができない社会になっている。今の日本社会では合理性と効率性が重要視され、経済的価値に結びつくものが1番正しいとされている。また、それに沿った生き方が求められる。そうではなく、人間としての価値や喜び、そして他人との関わりにおける自己肯定感を高められるような生き方こそが求められるべきである。
『なぜあなたの毎日はつまらいのか』という質問を投げかけられた時、毎日つまらないと思っている人は考えて欲しい。『私にとって、あなたはかけがえのない存在である。私はあなたのことが好きだ。なぜなら、あなたはあなただからだ』と言ってくれる仲間がいて、そういう仲間と繋がっていて、そいう人たちのために頑張っているときにはつまらないとは絶対感じない。私たちは、それぞれの自分の関係でそのような仲間を作っていくことで自分の人生を実りあるものにすることができる。苦しいことも多い社会だが、まず仲間づくりから始めてほしい」と結んでいた。
日本という生きづらい社会で人間としての尊厳を失わず、しかも楽しく生きていくにはお金も必要だろう。しかし、お金はもちろん万能ではない。最終的には、人間は人間の中でしか生きれない。その人間性を剥ぎ取っていくシステムに抵抗しながら、仲間とともに、仲間のために生きたいと対談を聞きながら思った。