ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「おっさんの掟」を読む

著者は大阪芸術大学准教授の谷口真由美さんである。谷口さんは国際人権法を専門とする法学者でテレビやラジオのコメンテーターとして活躍されている方である。

この本のカバーの裏に紹介文が次のように書いてあった。
「2022年に開幕した日本ラグビー新リーグ。その発足に向け中心的な役割を果たしていたのが、前年まで法人準備室長などを務めた谷口真由美氏だ。谷口氏はなぜ突如としてラグビー界を追われたのか、秘された理由を明らかにする。彼女が目にしたラグビー界は、男性中心主義、時代遅れな序列主義など、ダメな日本社会の縮図だった」

谷口さんは次のように語っている
「私は新リーグの成功を心の底から願っています。ただ、失敗や教訓も含め自分の経験をきちんと本にして残すことで、どうしても閉鎖的な部分があるスポーツ界に一石を投じられたらと思いました。私がラグビー協会の経験を語ることで、封建的価値観によって日本の組織や社会全体で同時多発的に起きている問題を浮き彫りにすることができるのではないかと考えたのが本書を執筆した最大の動機です。この問題は今後の若い世代のためにも絶対に避けてはならないことだと思いました」と述べている

日本は1985年に女性差別撤廃条約を批准し、男女雇用機会均等法も成立した。それから30年以上が経過したが、男性中心の社会のあり方は基本的に変わっていない。数字の上でもその停滞ぶりは明らかである。日本政府は20年前から「202030」という政策を進めていた。これは2020年までに全ての公職における女性リーダーを30%にするというものだが、この目標は達成できていない。

そのような中、2019年、日本ラグビー協会は、ラグビーワールドカップ2019の成功を好機として、ラグビーのプロリーグ化を目指した。合わせて、スポーツ庁が呼びかける女性理事登用拡大を受けて2019年6月、谷口さんら女性5名が請われて女性理事に就任した。

しかし、谷口さんは本の中で、「日本ラグビー協会に関わった2年間、私は常に違和感を持っていました。組織を変えるために呼ばれたはずなのに、そのためにいくら意見を言っても、新たな施策を提示しても、『変化を拒むおっさんたち』にことごとく邪魔されてしまうのです。積極的に改革を推し進めることよりも、これまでの慣習に従い、協会の実力者や強豪チーム・大企業の意向に逆らわず、ひたすら従順であることが良しとされる、古い体質にことごとく跳ね返されてしまいました」と述べている。

そして2021年2月、東京オリンピック組織委員会会長であり、日本ラグビー協会の最重鎮の森喜朗名誉会長が、会議でこう発言した。
「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。ラグビー協会は今までの倍、時間がかかる。女性の優れているところですが、競争意識が強い。『誰かひとりが手を挙げると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。女性を増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないと、なかなか終わらないので困る』と言っておられた」「私どもの組織委員会にも女性は何人いますか。7人くらいおられるが、みんなわきまえておられる。お話もきちんと的を得ており、欠員があればすぐ女性を選ぼうとなる」
この発言が女性蔑視と大きく批判され、結果として森喜朗さんは会長の職を辞することになった。同時に「わきまえない女」という言葉が拡散され、日本ラグビー協会の女性理事の「わきまえない女」の代表格と目された私の所にもメディアから取材の依頼がありました

森喜朗さんの発言は偏見に満ちており、公の場での発言としては許されるものではありません。確かに19人いる男性理事よりも、私たち5人の女性理事の方が発言してる時間は長かったでしょう。それはなぜかと言うと、質問をするからです。「それはどういう意味ですか?」「あの件は結局どうなったのですか?」理事会で十分に説明されないこと、一般的な団体や企業の常識では考えられないこと、そういったことがあるたび、私たちはどんどん質問していきました。それが、外部から招聘された理事としての役目だと考えていたからです。
ラグビー協会では、いわゆる“シャンシャン総会”が当たり前とされ、意見や質問は“スムーズな進行に水を差すもの”という雰囲気で、時にはあからさまに邪険に扱われました。ラグビー協会において必殺技は「時間切れ」という言葉です。大切なことは考えさせないし、その余地を与えない。しかし私達女性理事はその流れに抵抗しました。森喜朗さんの発言は、きっとその事を指しているのだと思います。

権力を持った男性が中心となってルールを作り、招き入れた女性たちに、「俺たちのルールに従え」と強要するだけでは、未来は拓けません。女性活躍を推進する組織という体裁を整えるために、女性理事たちを単なる数合わせと考えていないことを祈るばかりです。アリバイ的に女性を多く登用しても、男性中心、年功序列など「従来のルール」に手をつけなければ結果的に何も変わらない。組織の意思決定者が考えるべきは、これまで当たり前のように固定化されてきた「おっさんの掟」を意識的に改革していくことなのです。

因みに、私が定義した「おっさん」は、年齢や見た目は関係ありません。「独善的で上から目線、とにかく偉そうで、間違っても謝ることもせず、人の話を聞かない男性」を指します。言い換えれば、「『ありがとう』『ごめんなさい』『おめでとう』が言えない人たち」ですと述べていた。

公の場で平気で女性蔑視発言をする森喜朗氏を名誉会長として担ぐ日本ラグビー協会のことだから然もありなんと思う。これがラグビー協会だけの話であれば、笑い話で済ませることができるが、時代が変わっているにもかかわらず、今なお「おっさんの掟」があらゆる組織に蔓延しているのであれば日本の未来にとって由々しき問題と言わざるを得ない。ユーモラスなタイトルだが、日本の未来に有益な提言の書であった。