孫崎享著「アメリカに潰された政治家たち」を読んだ。孫崎氏は元外交官で、その外交官としての体験から、著書の中で「日本に対するアメリカ合衆国からの要求は、日本の国益に合致していない場合もありうるため、日本の国益にかなう部分のみ協調すればよい。一日でも早く、一人でも多くの日本人が、アメリカに対する幻想を捨て、対米従属のくびきから逃れて欲しいと願っています」と語っていた。日本のマスコミでは日米同盟強化のニュースしか流れないし、日米同盟に不都合なニュースはなかなか目にしない。孫崎氏の著書を読んで日本の実情がよく理解できた。
冒頭、孫崎氏は以下のように語っていた。
「日本の戦後史を考えると、アメリカからの強大な圧力に対して盲目的に追随する「対米追随路線」と、アメリカとは距離を置いた独自路線を志向する「自主路線」のせめぎ合いできました。対米追随路線と自主路線は具体的にどこが違うのでしょうか。例えば、沖縄の普天間基地問題を例にとれば、「普天間基地は住宅の密集地にあって危険なので県外または国外へ移設してもらうようアメリカに要求していこう」というのが自主路線で、「アメリカは普天間基地を辺野古に移転するのが望ましいと考えている。アメリカの意向に反すればどんな報復をされるか分からない。言う通りにしよう」とするのが対米追随路線と言われる立場です。この二つの外交路線の相剋が、日本の戦後史の骨格となっているのです。
しかし、せめぎ合いといっても、現実には日本の外交史は、自主路線の敗北の歴史と言っても過言ではありません。自国の利益のために日本を意のままに操ろうとするアメリカは、表からさまざな圧力をかけるだけでなく、裏からも諜報機関が工作を仕掛け、自主路線の芽を摘んできたのです。戦後の政治家の中でも、重光葵、芦田均、鳩山一郎、石橋湛山、田中角栄、小沢一郎、鳩山由紀夫らの自主路線を貫こうとした政治家の多くは、アメリカの裏工作によってパージされてきました。同様に、外務省や大蔵省、通産省の中で自主路線を目指した官僚もアメリカの顔色を窺う首相官邸から放たれた矢によって倒れ、現在では対米追随路線が圧倒的な主流となっています。原発の再稼働を画策しアメリカに言われるままオスプレイを配備を認め、TPP にも参加しようとする政権は対米追随路線の完成形といえるのです」と書かれていた。
在日米軍は日米地位協定によって、アメリカは軍隊を日本国内に自由に配備する権利があるとして今もそれを行使している。軍事面でも経済面でも全てアメリカの利益が優先されている。それが対米追随であっても、在日米軍があるからこそ、中国や北朝鮮の軍事的脅威から日本の領土は守られているという人も多い。尖閣諸島で問題が起こるたびに、政府からも、マスコミからも、だから、沖縄に在日米軍が必要であるという意見が多く聞かれる。
それに対して、孫崎氏は著書の中で、アメリカは尖閣諸島を守る気がないということは明白ですと以下のように語っていた。
「アメリカは、『尖閣諸島は安保条約の対象になっている』と言います。日米安保条約第5条には『日本国領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する』とあり、尖閣が攻撃された場合、米軍が出動するのは自明なことのように思えます。しかし、『自国の憲法上の規定及び手続きに従って』という表現は、日本が攻撃されても、米国議会の承認が得られない限り、米軍は出動しないと言っていることを意味します。アメリカは北大西洋地域における軍事同盟としてNATOに加盟しています。このNATO条約では、同盟国が攻撃を受けたときは『軍事を含め、即行動する』と書かれています。しかし、日米安保条約においては、同盟国が攻撃を受けたときは『アメリカは憲法に従って、議会にはかってから行動する』と書かれています。この違いを理解しておく必要があります。これが日米安保条約の現実です。
さらにもう一つの問題は「領土問題については、日中どちらの立場にも与しない」と明言していることです。2005年の「日米同盟 未来のための変革と再編」において「尖閣諸島を含む島嶼防衛は日本の責任である」ことが日米間で明確にされています。アメリカの高官は「日本が自ら尖閣を守らなければ(日本の施政下でなくなれば)アメリカ軍も尖閣を守ることができなくなります」と語っている。つまり尖閣が中国に実効支配された場合、尖閣諸島は日本の施政下から外れるので、日米安保条約の対象外になり、米軍の出る幕はなくなるといっています。アメリカは尖閣は安保の対象と言いながら、実際に中国が攻めてきた場合にも、さらに実効支配された時も米軍が出動する義務を負わないように巧妙にルールを作りをしてきています。
多くの日本人は、『在日米軍は日本領土を守るために日本にいる』と信じていますが、元モンデール駐日大使は『米国は、尖閣諸島の領有問題についていずれの側にもつかない。米軍は日米安保条約によって介入を強制されるものではない』とニューヨークタイムズ紙で明言しているのです。」
孫崎氏の著書を読みながら諸々の情報を考え合わせると、アメリカは尖閣諸島を守る気がないと考えるのが妥当だろうと私も思った。
アメリカに潰された政治家たちは自主自立路線を歩んだためにアメリカの逆鱗に触れ追放された人たちである。その内容は「日米安保条約に係る基地問題」と「中国との関係改善」の2点に係ることが多いように思った。隣国である中国と友好関係を築くことさえもアメリカの利益にならないと考えられたら追放されてしまうというのは主権がないことを如実に表していると思った。敗戦国になって75年以上を過ぎても、今なお主権がない植民地国家でいいのだろうかと思う。75年前敗戦国であったドイツも日本と同じ状況で戦後をスタートした。それから、粘り強く連合国と交渉を重ね主権を取り戻していったとこの本に書かれていた。日本もドイツのようにこれから粘り強く主権の回復を目指して宗主国アメリカと交渉していくしか国家として生きる道はないと思った。