ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「外国人差別の現場」を読む

安田浩一さんと安田菜津紀さんの共著である「外国人差別の現場」を読んだ。テーマは日本における「入国管理行政」と「技能実習制度」である。著書を読みながら、現在の日本で行われている現実を知って暗澹たる気持ちになった。

 入国管理行政について書かれている一章の冒頭、難民や入管収容所などの問題に取り組む10名の弁護士たちがサインした「ハマースミスの誓い」という誓約書のことが書かれていた。

 「2014年3月のことだった。場所はイギリス・ロンドン西部のハマースミス地区のパブの中庭。英国の入国管理事情を視察に来た日本の弁護士グループは、寒さに身をすぼめながらグラスを突き合わせ、誓いを立てた。その時交わされた誓約書には、次のような文言が記されている。『私達は、◯人身の自由があらゆる人権の根源となる重要な基本的人権であること、◯それは国籍や在留資格の有無に関わらず全ての人に等しく保障されなくてはならないこと、◯このような重要な人権を剥奪する、日本の入国管理局による全件収容主義は誤りであるという共通の認識のもと、全件収容主義を打破するため、弁護士として、最大限の努力を行うことをここに誓います』凍てつく夜の熱い決意は「ハマースミスの誓い」と名付けられた。
 10名の弁護士たちは、日本と大きく違う英国の入管行政に衝撃を受けていた。視察したイギリスの収容施設では、被収容者が施設内を自由に動き回っていた。ジムや図書室、共用のキッチン、ビリヤード台が設置されたゲーム室、楽器が揃った音楽室が完備され、インターネットの利用も自由だ。被収容者には施設内で配膳や清掃などに関わる有償の仕事も提供されていた。権限と独立性を持つ収容施設視察委員会が、施設の運営状況に問題がないか、厳しいチェックを繰り返している。「そこには日本の入管収容施設では目にすることのできない人権が生きていた」使節団メンバーで、誓いの音頭をとった児玉晃一弁護士はそう振り返る。

 ガトウィック空港の近くにあるブルックハウス入管収容所では、収容業務で大事なことは何かと問われた所長が、「ポジティブなカルチャーを創り上げていくことです」と答えた。カルチャー(文化)を創り上げていくことによって、職員と被収容者の間に信頼関係も生まれ、安全も保たれるという。両者が一緒にゲームを楽しんだりする光景も珍しくない。視察したもう一か所の施設、ティンスリー入管収容所は、入り口に『ティンスリー・ハウスにようこそ!』との歓迎メッセージが各国語で記されていた。施設内には『インフォメーション・コリドー(情報提供回廊)』と呼ばれる一角があり、外国人支援団体等が作成した多数のポスターやチラシが掲示されていた。英国版『いのちの電話』として知られる『サマリタン』への無料直通電話、収容施設視察委員会宛の手紙を投函する投書箱も設置され、外部への連絡や情報の権利も保障されている。
 案内役の職員は『ここは被収容者にとっての生活の場です。できるだけ、組織や管理を感じさせないように過ごしてもらいたい』と強調していた。職員の多くは制服ではなく、スーツや私服姿で勤務していた。被収容者に名前を明かし、進んで挨拶をし、気軽に言葉を交わしている。『私たちは被収容者と人間関係を作ることを重視している』と担当者は繰り返した。英国の入管行政が全てにおいて優れているわけではない。だが、少なくとも、そこでは、被収容者の人権があった、人権が生きていた。人の営みがあった。

 では、日本はどうなのか?日本の収容施設では、人権は施設の中にはない。刑務所と見まがうばかりの閉鎖性、上限の定めがない無期限収容が特徴である。だからこそこれまで、国連の恣意的拘禁作業部会は日本の収容施設運営を『国際法違反』だと指摘するなど、他にも様々な国際機関が懸念を寄せてきた。日本の『全件収容主義』とは、在留資格を失った外国人を原則全員、収容施設に放り込む日本の『外国人政策』のことである。要するに、隔離と排斥が目的化している。しかもそこで待っているのは管理と監視、非人道的な処遇である。英国の職員が口にした『人間関係を重視する、人間関係をつくる』といった発想など生まれようがない。施設内の人権は死んでいる。いや、実際に人の命が奪われている。
 2021年3月には名古屋入管の収容施設に収容されていたスリランカ人女性ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさん(33歳)が亡くなった。体調を崩し、誰の目にも衰弱は明らかだったにもかかわらず、入管側は適切な処置をとることなく、彼女を死に至らしめた。そして、今なお入管施設は自らの責任を認めていない。収容施設の死亡事例は後を絶たない。過去15年間で、少なくとも17人の外国人の死亡が報告されている。長期収容が横行し、医療も精神的ケアも不十分である。問題の根源が収容者に対する入管の人権軽視政策にあることは明らかである」と書かれていた。

 様々な実態が書かれていた。イギリスとの対応にこれほど開きがあることに驚いた。国連から国際法違反と指摘されているのに改善されないのは、国家として非常に恥ずかしいことだと思う。人権を守る国として世界に認められたいと思う。