ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「政治はケンカだ」を読む

 今話題になっている元明石市長の泉房穂氏の著書「政治はケンカだ!明石市長の12年」を読んだ。明石さんは毒舌、暴言で有名な方である。このような方がどうして市長を12年間も続けられたのだろうという疑問を抱きながら読み進んでいったが、読み進めるうちに、毒舌だろうが暴言だろうが、一本筋の通ったこの人だから市民の信頼を得ることができたのだと思った。毒舌暴言居士ではあるが信頼にたる人間性のある市長であると思った。そして、現代の日本の政界では珍しいと言ってもいいのではないかと思うが、何よりも政治家としての目標を持った方であった。この政治家として明確な目標こそ、泉さんが市民の支持を得た理由である。このような政治家が増えていけば間違いなく日本はよくなると思った。

この本は、ジャーナリストの鮫島弘さんが泉さんに質問を投げかけ、それに泉さんが答えるという構成で作られている。まずはじめに、「なぜ政治家になったのか、そのきっかけは何だったのか」を聞かれ、それに答える形で次のように泉さんは語っていた。
「私には4歳下の障害を持って生まれた弟がいる。私は明石の西部にある小さな漁村の貧しい家庭に生まれた。当時は『優生保護法』というのがあって、これは障害を持つ可能性が高いと分かったら産ませないようにする法律でした。うちの弟も障害を持って生まれてきたので、両親は、医者から『放置して死んでいくのを待て』とそのまま見殺しにするようにいわれた。両親はいったんは承諾したが、『やっぱりこの子を死なせることはできない』と思い直し弟を連れて帰ってきた。私は両親から『お前は将来、親が死んだら弟の世話をせえ。そのために二人分稼げ』と言われて育ちました。両親の言う通り二人分稼げないと弟は生きていけないし、だからこそ、自分が勉強頑張らないといけんと思った。弟が大きくなっていくなかで、いろんな行政の対応を見てきた。それは助けるどころか、障害を持って生まれてきた子供とその家族に鞭打つような施策を行政が公然と行うことがあった。こんなやり方は絶対間違っていると思うようなことがいろいろとあった。そのようなことを見てきた中で、くさい言い方ですが、「冷たい社会を優しい社会に変えたい」と本気で思い、小学校5年生の時に明石市長になりたいと考えるようになった。それが政治家への原点です。

「2011年4月の明石市長選挙にはどう言う経緯で出馬したのですか?」
「前任者が出馬しないことになり、兵庫県知事の知事室長だった県民局長が自民党民主党公明党に担がれ、かつ兵庫県知事が中心になって彼を応援した。彼は明石高校の卒業生で同窓会も応援していたし、大学も地元の大学で全てが揃って盤石の状態と思われていた。でも市民の応援だけを味方につけて市長になることを決めていた私にはむしろ好都合であった。全政党、業界団体もすべて対立候補に回ったので、自分としては願ってもないチャンスだと思った。出馬表明の記者会見で、記者の方が『泉さん、相手候補は盤石の支持基盤をもっています。あなたに支持基盤ありますか?』と聞かれて『市民です』と答えたら笑われた。『そんなんで勝てる見込みありますか?』とまで言われた。『いや、勝てますよ。市民の方が多いですから。明石の町のために、私が勝つ必要がある』といったら会場がしらけてしまって、新聞には『泡沫候補が息巻く』みたいに書かれた。

 私が当選したことを受けて、誰の目にも明らかな劣性をひっくり返して明石市長になったと言われるのですが、私は、決してひっくり返したわけではない。そこをみんな勘違いしている。市民のために頑張ると言っている人と、一部の人のために頑張ると言っている人。普通に街の人に聞いたら、自分たちのために頑張るほうを応援する人が多いに決まっている。だけど、新聞やテレビが、もう勝敗は確定しているかのような報道をするから、みんなが諦める。だから、その思い込みに基づいた結果が出てしまう。根本にあるのは単なる思い込みだし、勘違いなんです。私の場合は、出馬した瞬間に勝てると確信しました。」

 「永田町を見渡すと、世襲議員ばかりが目につくようになった。世襲議員じゃなくてもエリート官僚出身だったり、恵まれた家庭で育ち、良い大学を出た学歴エリートが多い。与党も野党も上級国民と言われる人が多い。泉さんみたいに世の中の理不尽を感じて政治家になっている人は少ないような感じがする。そのような政治家の姿勢についてどう思いますか?」
「政治家になって、多くの政治家と接して愕然としたことは、『せっかく当選したが、何かしたいわけではない』『やりたいことがない』と言う政治家がけっこう多いことです。政治家になることそのものが目的だと思われる人間があまりに多い。政治家たるもの、自分の手で実現したいことがある人間にやって欲しい」と述べていた

先日読んだ石橋湛山について書かれた本の中に、湛山が晩年82歳の時に書いた「政治家にのぞむ」という一文がある。「わたしが、今の政治家諸君を見ていちばん痛感するのは、『自分』が欠けていると言う点である。自分とは自らの信念だ。自分の信じるところに従って行動するという大事な点を忘れ、まるで他人の道具に成り下がってしまっている人が多い。政治の堕落といわれるものの大部分はこれに起因すると思う。政治家にはいろんなタイプの人もいるが、最もつまらないタイプは、自分の考えを持たない政治家だ。金を集めることが上手で、また大ぜいの子分を抱えているというだけで有力な政治家となっている人が多いが、これは本当の政治家とは言えない・・・・・」
石橋湛山の政治家像からすると、泉さんは政治家合格である。今後も泉さんみたいな政治家の出現を期待する。