鳥賀陽(うがや)氏は元朝日新聞記者で、現在はフリーランスジャーナリストとして活躍され、福島第一原発については、事故発生当初から今日まで取材を続けてこられた方である。その鳥賀陽氏が「ALPS水海洋投棄に関する10個の誤り」というビデオをネットにアップした。鳥賀陽氏はビデオを作成した理由について次のように語っていた。「ALPS処理水の海洋放出が始まると、岸田総理、自民党、外務省など様々なところから海洋投棄を正当化するためのプロパガンダが数多く流されている。私は長年にわたり福島原発を取材してきて、彼らが言っていることの嘘がわかります。政府や自民党、東京電力、福島県などが流している海洋投棄を正当化するプロパガンダの嘘、デマがあまりにもひどいので、その嘘をひとつひとつ記録し、そして皆さんにもお伝えしようと思いました」
まず一つ目の嘘は、福島第一原発から出たALPS処理水を海に捨てるということは問題ありませんという嘘です。これは大きな問題です。これは最悪の選択です。なぜかというと、海洋国際法によって、海は世界の国の共有財産となっています。世界の海はみんなのものです。この海に日本国から出た全く安全性が担保されていないALPS水を捨てるということは公共財産を汚染するということで、世界の国がこれに対して意見を言う権利を持っているということです。これまで、福島第一原発事故によって発生した汚染された水や土など全て日本国内にとどまっていました。汚染問題はどんなに深刻であっても国内問題でした。ところが海洋投棄することで日本政府は汚染問題を国際問題にしてしまいました。
二つ目の嘘は、福島第一原発の汚染水を処理する方法は海洋投棄のほかにはなかったという嘘です。海に捨てなくても、この汚染水を陸上で処理する方法は少なくとも2つありました。一つは1979年にアメリカで起きたスリーマイル島原発事故で行われた自然乾燥法です。原発事故で発生した大量の汚染水を自然乾燥させて乾燥させた後にできたヘドロを別のタンクに移し替えて、高レベル廃棄物として永久保存すると言う方法です。もう一つの方法は汚染水にセメントを入れて固体化処理して陸上保管すると言う方法です。このような方法だと海に流さないので国際問題化しません。原発事故の汚染は陸上で処理すると言うのが鉄則です。現在まで世界で原発事故は3回起きました。1回目はスリマイル島原発、2回目はチェルノブイリ原発、そして3回目は福島第一原発です。1回目も2回目も汚染水を海に流すようなことはしていません。汚染水を海に流すと言うのは福島第一原発が初めてです。人類初めての試みをやってのけたと言うことです。汚染水の固体化処理はすでに福島県の富岡町に固体化プラントが作られていて操業しています。その技術は確立しています。福島第一原発汚染水はALPS処理して海に流すこと以外には方法がないと言うのは明確な嘘です。
三つ目の嘘は、ALPS処理水にはトリチウム以外には放射性物質は残っていないという嘘です。ALPS処理水にはトリチウムが残留しているだけでなく、ストロンチウムやセシウムなども残留しています。世界の原発が放出しているトリチウムだけを問題にして、それ以外の他の放射性物質については触れていませんが、多くの放射性物質が残留しています。
四つ目の嘘は、世界中の原発が海に水を捨てているという嘘です。福島第一原発以外の世界中の原発が海に捨てている水は放射性物質である燃料棒に接していない水です。福島第一原発以外の世界の原発では、放射性物質である燃料棒に直接接した水は高濃度汚染水として絶対外部に排出されない作りになっています。事故を起こした福島第一原発から排出される水は直接燃料棒に接した高濃度に汚染された水です。ALPS処理されたとはいえ、このような直接燃料棒に触れ、放射能に汚染された高濃度の汚染水を海に流すのは日本だけであり、日本が初めてです。
五つ目の嘘は、トリチウムは中国の原発の方がたくさん捨てているという嘘です。中国の原発は福島第一原発のような事故原発ではありません。福島第一原発みたいに直接燃料棒に接した高濃度汚染水は排出していません。汚染がもたらす問題をトリチウムだけの数字で比較するのは問題の本質を隠蔽するものです。
六つ目の嘘は、日本政府の基準を守っているから大丈夫、海に捨てても安全という嘘です。日本政府が適用しているALPS水に関する基準は人間が飲んでも大丈夫という基準です。これは完全な誤りです。したがってこれは日本政府の基準そのものが間違っているということです。なぜかと言うと、人体が摂取して安全であるかどうかという安全基準と環境中に放出して安全かどうかという環境基準というものは全く別物です。わかりやすい例で言うとCO2です。二酸化炭素は人間が摂取しても安全です。しかし、二酸化炭素の増加によって地球環境が破壊されて、大規模気候変動をもたらしています。このままでは人類は地球上に住めなくなる危険があるということでCO2削減に全世界で取り組むべきという動きが起こっています。つまり、人間にとって安全という安全基準だけでなく、環境に害を及ぼさないかという環境基準で物事を判断する必要があります。
七つ目の嘘は、ALPS処理水は安全で大丈夫という嘘です。ALPS処理水の基準は環境に対する長期的な影響というものは全く考慮されていません。このALPS処理水を海洋投棄して、セシウムが付着した藻をプランクトンが食べて、そのプランクトンをクラゲやミジンコが食べる。そのクラゲをイワシやタコが食べる。そのような食物連鎖によって放射能の濃度が高くなる生物濃色が起こる。食物連鎖の頂点に立つ人間が生物濃色の被害を一番被ることは何も考慮されていません。
八つ目の嘘は、ALPS処理水を海に放出すれば敷地に並んだタンクはみんな消えてなくなるという嘘です。日本国政府が定めている基準では、海洋放出できるレベルのタンクは3分の1しかありません。ずらりと並んだタンクの3分の2はあまりにも汚染水の濃度が高すぎて海洋放出できないのです。
九つ目の嘘は、汚染水タンクを置く場所がなくなっていっぱいになったので海に捨てるしかないという嘘です。第一原発敷地内はいっぱいでもその周りは広大な空き地が広がっています。福島第一原発から半径20kmは強制避難地域です。そこには広大な空き地が広がっています。そこにタンクを設置することも可能です。置く場所がないというのは嘘です。
十個目の嘘は、岸田総理の発言の嘘です。岸田総理は「ALPS処理水の海洋放出は、福島第一原発の廃炉作業に不可欠です」と述べましたが、これは全て嘘です。ALPS処理水を海洋投棄すると第一原発の中のタンクが減るでしょう。原発内のタンクが減っても廃炉作業の根本であるデブリの取り出しには何も関係はありません。全く別の作業で関係はありません。
福島第一原発のALPS処理水の海洋投棄を説明するためにあらゆる言葉を並べて正当化を図ろうとしていますが、言葉が踊るだけで中身は何もありません。中身が何もないどころか国際的信頼を失墜する戦後最大のミスをやってしまいました。それでも国民を騙し続けるために新聞、テレビ、SNSあらゆる手段を使ってさらにプロパガンダを強化するでしょう。鳥賀陽氏のビデオを見てプロパガンダリテラシーを高めなければと思いました。