ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「街場の成熟論」を読む (3)

パワークラシー(権力者支配)とは内田樹先生の造語である。日本の政治は、いまパワークラシーによって行われているという話であった。

「ふつうは、王政であれ、貴族政治であれ、寡頭政治であれ、民主政治であれ、主権者はその権利を正当化する根拠を示す。『神から授権された』とか『民意を付託された』とかである。『パワークラシー』は違う。権力者の正当性の根拠が『すでに権力を持っている』ということである。『パワークラシー』の国では、権力者批判が許されない。権力者を批判できるのは権力者だけだからである。市民にも政治について不満を述べる権利はない。不満を口にすると『だったら、お前が国会議員になればいい』と言われる。
 『パワークラシー』の国では、権力者が権力者であるのは、政治的に卓越しているからでも、知的に優れているからでも、倫理的に瑕疵がないからでもない。すでに権力を持っているからである。これが『パワークラシー』である。『パワー クラシー』の社会では『権力的に振る舞うことができる』という事実そのものが『権力者であること』の正当性の根拠になるのである 。
 先日、ある政治家が国会議員を引退するに際して息子を『跡目』に指名するということがあった。『跡目』を継ぐことになったその息子は、早速ホームページに自分の家系図を掲げて、近親者に3人の総理大臣を含む何人もの 国会議員がいるという『毛並みの良さ』を誇示して見せた。自分が国会議員として的確であることの根拠として『国会議員を輩出している家庭に属する』ことを掲げたのである。
 たぶん本人も、それを提案した周りの人間も、それが一番アピールすると信じたからそうしたのだろう。『すでに権力の側にいることが、今後とも権力の側にいるための最優先かつ必須の条件である』という『パワー クラシー』信仰をこれほど無邪気に表明した事例はさすがに珍しかった。
 わが国が、『パワークラシー』の国だと考えると、当今の権力者たちの異常な言動が理解できるはずである。権力者であるために必要なのは、卓越した政治的見識を持つことでも、雄弁の才に恵まれていることでも、人身掌握に長けているからでもなく、『現に権力的に振る舞っている』という既成事実だったのである。だから、彼らは自分たちが『法の下の平等』から除外されていること、『非常識』という評言が自分たちには適用されないこと、他人に無用の屈辱感を与える権利があることを繰り返しアピールすることになる。

『パワークラシー』の政治を行なっている自民党がなぜ選挙で勝ち続けるのかという調査研究についても書かれていた。その調査はいろんな政策を政党名を示さないで良否の判断をしてもらった場合と、政党名を示した場合を比較したものである。この調査では驚くべき結果が示された。自民党以外の政党の政策であっても、「自民党の政策」だというラベルを貼ると支持率が跳ね上がるのである。日米安保廃棄という共産党の外交安保政策は非常に支持率が低いが、これも『自民党の政策』として提示されると一気に肯定的に評価される。このことはつまり、有権者の投票はどの政党がどういう政策を掲げているかを投票の基準にしているのではなく、『どの政党が権力の座にあるのか』を基準に投票していることがわかった。

 これは『最も多くの得票を集めた政党の政策を正しいとみなす』というルールをすでに多くの有権者たちが正当化していることを示している。有権者たちは自分に利益をもたらす政策ではなく、『正しい政策』の支持者でありたいのである。だから、政策の適否とは関わりなく、『どこの政党が勝ちそうか?』が最優先の関心事になる。その政党に投票していれば、彼らは『正しい政治的選択をした』と自分を納得させられる。
 選挙における政党の得票の多寡と政党が掲げる公約の適否の間には相関がない。だが、今の日本の有権者の多くは得票数と政策の適否の間には相関があると信じている。選挙に勝った政党は『正しい政策』を掲げたから勝ったのであり、負けた政党は『間違った政策』を掲げたから負けたと思っている。
 しつこくもう一度繰り返すが、選挙に勝った政党は政策が正しいから勝ったのではない。『勝ちそうな政党』だから勝ったのである。選挙に負けた政党は政策が間違っていたから負けたのではない。『負けそう』だから負けたのである。
 有権者たちは『勝ち馬に乗る』ことを最優先して投票行動を行っている。その『馬』が一体どこに国民を連れて行くことになるのかには彼らはあまり興味がない。自分が投票した政党が勝って、政権の座を占めると、投票した人々はまるで自分がこの国の支配者であるような気分になれる。実際には支配され、管理され、収奪されている側にいるのだが、想像的には『支配し、管理し、収奪週している側』に身を置いている。その幻想的な多幸感と全能感を求めて 人々は『権力者にすり寄る』のである」と書かれていた。

 息をするように嘘を言い続けながら、「パワークラシー」という私物化の暴政をやりたい放題してきたにもかかわらず、選挙では6連勝を成し遂げ、最長の長期政権を誇ったのが安倍政権であった。それは、調査研究で明らかになったように、有権者はその政策に注目せず、ただ勝ち馬に投票したということであった。調査結果を見てなるほどと思った。

 森政権から今日まで、自民党は低い投票率になるように選挙戦略を磨いてきた。さらに小泉政権では自民党が獲得する主要有権者は、考えない有権者層をターゲットとして戦略を立て、テレビを使ってキャンペーンを行なった。そして、それらの戦略の上に、安倍政権ではパワークラシーを明確にした。パワークラシーでは実際に成果を上げる必要はなく、虚偽答弁をはじめ、公文書の改ざん隠蔽などあらゆる手段を行使して、成果をあげたように見せかけるだけで指示を拡大していった。その結果の6連勝である。自民党によって国民は見透かされていたようだ。自民党政権の悪化は国民が利用されたようであり、国民が協力したようでもある。

 自民党という犯罪者集団にこれ以上手を貸してはいけない。私たち日本人はいよいよ政治に目覚めるべきだと思った。