ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「長期腐敗体制」を読む

 白井聡氏の著書「長期腐敗体制」を読んだ。著書の中で白井氏がテーマにしている「長期腐敗体制」とは安倍晋三氏が政権を担った2012年から、安倍氏、菅氏、岸田氏と首相交代をしながら今日まで続く現在の自民党公明党による政権のことである。10年以上続くから長期体制であるが、白井氏はそれに腐敗という形容詞をつけて長期腐敗体制と呼んでいた。

 「なぜ、2012年以来、この体勢が数々の失策と腐敗にもかかわらず維持されてきたのか。それは野党が弱いからだとか、小選挙区制度が良くないからだとか言われたりするが、理由はどうであれ、国政選挙をやるたびに、自公政権が相対的に最多得票を取り続けてきたからである。つまり、なぜ維持され続けたのかという問いに対する答えは単純で、要するに『多くの国民によって支持されてきたから』にほかならない。この国民の選択の堅固さは、コロナ禍の下での、緊急事態宣言発令下での、医療崩壊の状況の下でのオリンピック開催が強行された直後の2021年の総選挙でも、証明された。このような選択をするする社会とはどういうものかを考える」ということで話は展開していった。その中で、日本の有権者の投票行動の分析について書かれていた内容に驚いた。

 「アメリカの大学で教鞭を執る堀内勇作氏のチームが『コンジョイント分析』という手法を用いて実施した実験的調査が話題になった。それは、日本の有権者が諸政党の提示する政策をどう評価しているかと、その評価と投票行動がどう関連しているのかを検証するものであった。この調査の実施方法の手順は次のようなものである。政策を『コロナ対策』『外交・安全保障』『経済政策』『原発・エネルギー』『多様性・共生社会』など五つの分野に分け、各分野に各政党が2021年総選挙で掲げた政策をランダムに割り振り、架空の政党の政策一覧表を作る。そのようにして出来上がった架空の党の政策一覧表を二つ並べ、『どちらの政党を支持しますか』と被験者に問うて選択してもらうというものである。これを繰り返すことによって、政党名を抜きにして、どんな政策が支持されているのか、指示されていないのかが明らかになる。この調査が明らかにしたのは自民党の政策は大して指示されていない、というよりもむしろ、現在国会に議席を持つ国政政党のうちでかなり不人気ですらある、ということであった。とりわけ、『原発・エネルギー政策』や『多様性・共生社会』などの政策分野では、最低の数字をマークした。逆に、2021年総選挙で議席を減らした共産党の経済政策は、極めて高い支持を受けていた。
 この結果は政治学者の常識を粉々に打ち砕くものであった。有権者はおおむね政策を基準として投票先を決めているはずであるとする、政治学者が想定する常識的な前提は、現実と大きく乖離していることが明らかになった。早い話が、日本の多くの有権者は各政党がどんな政策を掲げているのかロクに見ていない、ということをこの調査は明らかにした。
 では、自民党の政策は支持されていないのになぜ選挙で勝つのだろうか。堀内氏らのグループはもう一つの調査を実施した。それは、先に説明した方法で作られた、すなわちランダムに作られた(言い換えれば、全くデタラメにつくられた)政策パッケージの一歩を『自民党の政策』として提示し、先ほどと同じように、もう一つの架空の政党の政策一覧表と並べ、どちらを支持するか選ばせた。
 こちらの調査の結果もなかなかに衝撃的なものであった。それによると、どの分野のどんな政策でも『自民党の政策』として提示されると、大幅に支持が増えた。日米安保条約を廃止するという、極めて人気の低い共産党の外交・安全保障政策でさえも、『自民党の政策』として提示されると、過半数の被験者から肯定的な評価を得た。
 自民党の政策が支持を受けていないのに選挙をやれば勝つことの理由が、ここから見ることができる。自民党支持者には、政党の掲げる政策をほとんどロクに見ておらず、ただ何となく自民党入れている有権者がかなり多くいる、あるいはそうした有権者が標準的な日本の有権者ではないのか、ということがわかった。
 これほどの政治的無知が最近始まったのか、それとも昔から存在してるのかについては何とも言えない。ただ、はっきりしているのは、有権者の大半がこのように思考停止しているのであれば、そんなところで選挙をやっても無意味である、ということである。これはもう、野党の実力がどうだとか政策の打ち出し方がどうだとか言う以前の問題である。『いままでは自民党、これからも自民党』という観念に凝り固まった有権者が多数存在しており、そうした『政権担当能力自民党にしかない』という思い込み、コロナ禍によっても完全に根拠なしと証明されたはずのイメージは、ここ10年あまりの間にかえってますます強固になったと考えられる。」と書かれてあった。

堀内勇作氏が行った調査は驚くばかりである。日本は平和主義をやめて戦争への道を進んでいる現実がある。それを支持する多くの自民党支持者は好戦的であると思っていたが、多くの自民党支持者はロクに自民党の政策など見ていないし内容を理解しないまま支持しているのかもしれない。戦後、自民党が政権を担い戦後復興を牽引し、世界有数の先進国となった成功体験を元に、自民党に入れといたらまず間違いなかろうという思い込みがあるのかもしれない。今の自民党は昔の自民党と同じではないことを理解しない人も多いのだろう。このような現実を見せられると悲観的になるが、有権者として納得いかないことははっきりとNOを突きつけていくことが必要と私は思う。たとえ少数者になっても納得いかないことはNOを突きつけていこうと思う。