ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「出る杭の世直し白書」を読む

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この本は鳩山由紀夫氏、孫崎亨氏、前川喜平氏、植草一秀氏の対談集である。発刊は2021年10月である
この本の冒頭、孫崎氏は語っている。「四人が集まり、対談したのは、現在の日本が異常な状態にあるからです。後世において、「日本が没落の一途をたどっているのに、当時の人は何をしていたのか?日本の経済力がどんどん競争力を喪失していく中で、当時の人は何をしていたのか?中国が米国を追い抜くという歴史の大転換期に、日本は力をつけてくる中国との協調を模索すべきであるのに、なぜ反中国の方向に行ったのか?」などが問われるだろう。これらの問題は「今日、日本社会のすべての分野で、あるべきことを述べられない空気が蔓延していることが最大の要因であろうと思います。安倍・菅政権は誕生して以来、自分達の利益に反する発言をする者の社会基盤を奪う行動をとり、それを公然と正当化しています。そして、政界、官界、報道界、学界における反対者の活動の基盤を奪う行動を繰り返してきました。私たち四人が対談し、この本の中で展開される議論は日本の表社会にはほとんど出てきていないことを認識していただきたい。あるべきことを述べられない社会には衰退があるのみです」と語っていた。

この本の中で、新型コロナ対策、日本外交、原発政策、経済政策、教育、政治と行政の再建など対談は多岐にわたっているが、私はまず、日本外交の項を読んでみた。

日本外交の項では、「米中対立の中で日本にどんな役割が求められるか」というテーマで話が進められた。「米中対立が激化すれば日本も含めてアジアの国々はどこも得をしない。だから、どのアジア諸国も米中対立がうまく収まってほしいと願っている。日本はアメリカに対しても、中国に対しても言うべきことを言う国にならなければならない。アメリカは価値観の違う国とは敵対的になりがちである。世界は民主主義国家ばかりではない。世界には権威主義、独裁的な国があってその数は90カ国を超える。世界人口の54%を占めている。アメリカが価値観の違う国を敵として攻撃ばかりしていたら、世界の政治はどんどん不安定になる。外交の役割は、価値観の違う国同士でもうまくつきあっていけるようにすることです。「トウキディデスの罠」という言葉は、新興国の力が覇権国を脅かすほど大きくなってくると、両国の間で戦争が起こるということを指している。現在、世界で経済力一位は中国です。5G技術においてもアメリカがこれから追い越せないほど先行している。脱炭素技術においても、ほとんどの分野で中国がI位アメリカ2位です。学術研究においても、アメリカが物理学、臨床医学、基礎生命学でトップなのに対し、中国は化学、材料科学、計算機・数学、工学、環境・地球科学の5つでトップを占めている。学術研究において中国がアメリカを凌駕しつつあるとすれば、産業力でもアメリカを逆転するのは時間の問題と見られている。日本は対米依存を脱して、アメリカを含む西側諸国と並立してアジア諸国も重視した外交を進めなければならないということです。しかし、日本外交の基軸は今もアメリカに固定され、アメリカにすべて従うという方針を取り、それは日本の国益にすらなっていないという状況です。
日本のアメリカへの従属体制が米中対立に拍車をかける恐れもある象徴的な例が、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で中国の対抗軸となろうとするクワッド(日米豪印戦略対話)です。これには、ASEAN諸国は入っていない。ASEAN諸国こそ中国の脅威を感じているので、クワッドに入って良さそうだが、「クワッドに入るには遠慮します。それよりも米中は仲良くして、喧嘩しないようにしてください」と訴える立場である。韓国もクワッドに入らずアジア諸国と同じ態度である。

中国の周辺諸国のほとんどが「米中対立を煽らずに平和的関係を維持してくだいという意向なのに、日本だけが突出して反中を言っていることになる。そうなるのは日本の政治構造が非常に歪んでいるからであって、そのために日本の経済と安全保障の両方ともにマイナスとなる政策を選択してしまうのだと思います」と語っていた。
私はここまで読んで、本当に国益に反する政策が行われているということを知って唖然とした。

さらに、昨年10月発刊のこの本に、ロシアとウクライナの対立について、「アメリカはウクライナを煽ってロシアとの対立を作り、それでもしロシアが軍隊をウクライナに出してくれれば、ロシアは軍事力を使う野蛮な国であると国際社会に訴えてロシアを悪者に仕立て上げることができる。しかし、アメリカはウクライナがロシアに攻められたとしても、最後までウクライナを守るという気は全くない。ウクライナを焚き付けてロシアと激しく対立させるところまでがアメリカにとって利益になるが、ウクライナとロシアの武力衝突には関わらない。アジアでも同じである」と書かれていた。

クワッドに参加しないアジア諸国は、アメリカの政策をしっかり見抜いているからクワッドに参加しないのだと思った。日本の現政権がいかに思考停止状態であるかがよくわかる事例であった。

敵基地攻撃能力とか核共有など勇ましい言葉が与党から発せられているが、すべてもとは、米中対立に伴うものである。アジア諸国がアジアの平和維持に苦心している中、日本だけ反中に徹することは米中対立に巻き込まれて日本を戦場にする危険を増すだけの愚策であると思う。

この本を読んで、安倍政権以来、与党は自分達の利益に反する発言をする者の社会基盤を奪う行動を繰り返してきたと書いてあったが、確かに、この本に書かれていることはテレビで聞いたことはない。あるべきことを述べられない社会には衰退があるのみですとも書かれていたが、日本の現状は由々しき事態と言わざるをえない