ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

鈴木宣弘教授の講演を聞く

 鈴木宣弘教授は農業経済学者である。国民の命を守ることへの危機についてお話をされていた。その要約を以下に記す。
「日本の食糧自給率は現在38%と言われているが、しかし、実質はもっと低い。なぜかというと、野菜の自給率で考えると明確である。日本の野菜の自給率は80%だが、その種の9割は海外の畑で種取りしてもらっている。だから種の輸入が止まれれば80%が8%しか作れないことになる。しかも、化学肥料はほとんどすべて輸入に頼っているという状況である。その化学肥料の輸入が止まれば、収穫は半減する。だから、自給率は種で言うと8%、化学肥料を考えると4%しかない。現在、ウクライナ戦争や国際関係の緊張などから国際物流は止まりつつある。日本も思うように物を買えない状況になってきている。ましや、戦争状態になれば物を売ってもらえない状況の中で、私たちが今すべきことは、農業、酪農、畜産に励んでおられる方とともに命を守るための食糧をどのようにして確保するかと言うことである。そのために、政府においても食糧自給率を高めるための議論が起こるべきだが、そのような施策はでてこない。政治の場では、サツマイモがあればいいという話が聞こえてくることがある。それは、いざとなれば日本中の学校や公園や道路に芋を植えて、3食芋を食べてしのげば何とかなるという話がある。これはまさしく前の戦時中の再来である。そうではなく、今、日本にある農業、酪農、畜産をしっかりと支えていくことが私たちの食糧を確保し命を守ることになる。しかし、現実は今ある農業や酪農、畜産に対して大きなネガティブな議論が行われている。それはSDGsがらみで、地球温暖化温室効果ガスを排出した主犯は農業と畜産で、水田のメタンガスと牛のゲップが地球を汚したという議論である。温室効果ガスの増加は工業化という社会構造によって生み出されたものだが、その主犯は農業と畜産だという議論を起こし、それで、農業や畜産は要らないという乱暴な議論につなげる話はとても容認できない。その議論の先には、だからコオロギ食やバイオ肉、人工肉、人工卵が必要という議論につながっている。まさに正気の沙汰と思えない。いま日本でやるべきことは、今日本で頑張っている日本の農業、酪農、畜産従事者をみんなで支えることである。農業消滅を進めるように放置したままでなく、国の政策として支えていくことである。今、日本で農業や酪農、畜産に頑張っている人たちは、肥料も2倍、餌代も2倍、燃料費は4割高でみんな赤字に苦しんでいる。でもなかなか、販売価格は上がらずどんどん借金がかさみ、そして倒産する農家、畜産家、酪農家も多い。
 政策的に農業支援は行われないが、有事になったら農業生産を強制的に命じることができるという法律を作る動きがある。例えば花卉栽培農家にさつまいも栽培を命じて食糧増産に従事させるなど有事には農業従事者の総動員体制作りが法律化されようとしている。今苦しんでいる農家さんに何ら対策はなされないまま、有事の場合は命令一下食糧増産に従わせるという異常な計画が進められている。

 日本では勇ましい話が進められている。中国はけしからん。そのために軍事費を2倍に増額して、敵基地攻撃能力をたかめて、攻めていくぞという話である。そのために5年で43兆円の軍事費を投入するという。でも有事の際に、食糧もエネルギーも自給できていないのは日本だけである。他の国は自国の自給率を高めて、経済制裁強化という政策に対応できる体制を整えている。日本はアメリカに金魚の糞よろしくついて行って、中国に経済制裁強化だと言った途端に、シーレーンを封鎖されて、戦う前に物が入らず餓死させられることが明白である。日本政府はそのような状況に置かれるという認識を無視したまま、国内では、食糧を確保することなしに、ただ、武器だけ揃えて攻めていけばいいという勇ましい議論が横行している。

 日本の農水予算は約2兆円である。防衛費は倍増で今後5年間で43兆円と言われているが、農水予算は頭打ちである。軍事、食糧、エネルギーが安全保障の3本柱と言われる。その3本柱の一つである命を支える食糧に関する予算は削られ、日本人はアメリカの余剰農産物で生きていくのだと言われて貿易自由化を徹底させられて、学校給食から日本人の食習慣まで無理やりアメリカのものを食べるように誘導されてきて、その流れの中で日本は食料自給率を上げられないという宿命を負ってここまできてしまった。平成18年、農水省が食生活を和食中心に変えると食料自給率を63%に改善できるというレポートを発表した。この案は好評を博して、その後、このレポートに基づいた計画を実行しようとしてもこのレポートにはどこからもアクセスできない。私たちはアメリカ追随の歴史的流れの中で、食料自給率をどんどん下げて、農産物の関税を撤廃し、貿易自由化を進め、アメリカの食糧に依存するようなレールの上に敷かれたこの流れを打破しなければならない。そして国際物流がいつ止まるかもわからないというリスクが高まっている中で、私たちは命を守るために、今頑張っている農家さんたちをしっかりと支える地域でのコミュニティーづくりと国による抜本的支援策が必要と考える。農業が潰れてもしょうがないなどと言っていたら自分たちの命は保てない。日本は地域で頑張っている農業があるからこそ、その地域の関連産業も関連の組織も成り立っている。農業が地域を支える基盤になっている。そいうものがすべて崩れてなくなっていったら、地域経済そのものが崩壊し、地域がなくなり、日本はごく一部の拠点都市以外はもはや誰も住めなくなる。命も守れない、大事な国土も国境も守れないような国では私たちは生きていくことはできない。今はぎりぎりのところに私たちはいる。今こそみんなの力を結集して命の源である農業をみんなの力で守っていきましょう。そして、私たちは必ず未来を変えていきましょう」と語っていた。

鈴木先生の話はとてもわかりやすい説明で納得できるものであった。しかし、日本政府が行なってきた農業政策というのはここまでアメリカファーストとは思わなかった。政治家の重要な役目に「国民を飢えさせないこと」という項目があったが、アメリカ第一主義自民党政治家にとってはこの項目は本気になれないどうでもいい項目らしい。農業問題解決も自民党を倒すことから始まるようだ。