ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

映画「ナワリヌイ」を見た

 映画「ナワリヌイ」を見た。ナワリヌイ氏はロシアの弁護士で政治活動家である。この映画はナワリヌイ氏の政治活動の様子と2020年に起きた毒殺未遂事件についての詳細を記録したドキュメント映画である。ドキュメント映画であるから真実である。しかし、その内容は真実とは思えないくらい怖いものであった。
 ナワリヌイ氏は2009年以降、ロシアのプーチン大統領やメドヴェージェフ首相への政権批判活動を行い、ロシア国内はもとより、国際的にも注目を集めている方である。ロシア国内の政治活動中、ロシア国民から「あなたはウクライナ戦争についてどう思うか」と質問されて「君たちは戦争にお金を払いたいか?僕は嫌だ。僕は戦争を止める」とウクライナ戦争反対を主張されていた方である。政治活動の演説で「プーチンはよくしてくれたか。恐れずに繰り返すが、今の権力者は腐敗した泥棒だ。ウラジミールプーチンは泥棒だ。国家予算を食い物にしている」と資料を示して攻撃していた。プーチンの対抗馬である41歳のハンサムな弁護士、アレクセイナ・ナワリヌイ氏は、世界で一番危険な選挙戦に出馬し、クレムリン支配者に挑んでいた方である。

 2020年8月20日、そのナワリヌイ氏がシベリアで政治活動を終えて、モスクワに戻る飛行機の中で体調不良に陥った。飛行機は、急遽行き先を変更して近くの空港であるオムスクに緊急着陸して、ナワリヌイ氏はオムスク市の救急病院に収容された。ナワリヌイ氏の容態は意識不明で人工呼吸器を装着するほどの深刻な状況で、ロシアでの治療に不安を募らせたナワリヌイ氏の奥さんや支持者によりドイツに転院し治療を受けた。ドイツでの最先端の治療の結果、9月15日に自力での呼吸が可能なまで症状が回復し、その後は奇跡的に回復していった。
 合わせて、ドイツで治療している医師らは、ナワリヌイ氏が、神経剤ノビチョクを盛られたという証拠を発見したと発表した。また、それを受けて、ドイツ政府も同様の見解として、血液サンプルの検査から毒薬ノビチョクの使用を裏付ける疑いのない証拠が得られたと発表した。また、ドイツ政府はフランスとスウェーデンに検査結果の検証を依頼していたが、両国の研究所も検証の結果としてノビチョクの使用を確認した。このことを受けてドイツ首相は、「ナワリヌイ氏のへの毒殺未遂事件は、私たちが支持する価値感や人権への脅威である。重大な疑問について答えられるのはロシア政府だけであり、全世界がロシア政府の説明を待っている」という声明を出した。
 神経剤ノビチョクはロシアで開発された毒薬で、体内に摂取されると神経の信号伝達機能を破壊して死に至らしめる毒薬で、毒物の痕跡は数時間で消えるため心臓発作などの自然死を装おうことができる毒薬である。従って、人前で殺したい標的に使用することが多い毒薬である。

 ノビチョクを使った毒殺未遂事件は2018年3月に英南部ソールズベリーで発生した。ロシアの元スパイ親子が倒れているのが発見され、病院に収容され治療を受けた結果助かった。そして毒物の成分分析の結果ロシアが開発したノビチョクの使用が確認された。その事件と同じことがロシア国内で起こったことは、明確にロシア当局がノビチョクを使用してナワリヌイ氏を殺害しようとしたものと断言できるというものであった。

 ドイツで治療中のナワリヌイ氏に対して、ロシア当局は、2020年12月28日、帰国とモスクワにある当局への出頭を命令し、帰国しない場合は収監すると警告した
ナワリヌイ氏は2021年1月17日に帰国すると発表し、17日の夜にモスクワのシェレメーチエヴォ国際空港に到着するも当局に拘束された。映画はここで終わっていた。
そして、2024年2月16日、北極圏にある刑務所でナワリヌイ氏(47歳)が死去したことが報道された。

ナワリヌイ氏は、ドイツでの治療を終えて帰国するときにインタビューで次の質問を受けた。
「もし帰国し逮捕され、投獄されて殺されるとしたら、あなたはロシアの人々にどんなメッセージを残しますか?」
「もし僕が殺された場合のメッセージは、諦めるなということだ。ごく当たり前のことを君たちに言う。決して諦めるな。僕が命を狙われたのは、僕らが信じられないほど強いからだ。その力を活用しよう。忘れるな。僕らが持っている巨大な力は悪い連中に押しつぶされている。本当は強いのに、押しつぶされているのは、僕らが信じられないほど強いという自覚がないからだ。悪人が勝つのは、ひとえに善人が何もしないからだ。行動をやめるな。決して諦めるな」
 ナワリヌイ氏の最後の言葉は、ロシアの人々に残されたメッセージであるが、彼は権力の横暴に屈せず、起ち上がり闘ってきた人である。その意味では、腐敗した権力者に立ち向かう全世界の人々に向けた言葉でもある。権力は必ず腐敗する。その時何もしないと権力者はますます増長する。権力が腐敗した時は善人は起ち上がって鉄槌を下さねばならない。ナワリヌイ氏の最後のメッセージは、腐敗した権力者に忖度しかしない我々日本人にも通用する。全世界の善人とともにナワリヌイ氏のご冥福をお祈りしたい。