ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「このままでは、飢える」を読む

「このままでは、飢える」を読んだ。著者は東京大学農学部教授の鈴木宣弘教授である。「このままでは、飢える」というタイトルを見て、怖いタイトルだなあと思ったが、さほど深刻には思っていなかった。しかし、読み進むと、これは想像以上に大変な問題であるということがよくわかった。日本の農業政策を根本から見直さないと大変なことになると思った。
 近年、食料品の値上がりが続いている。それは円安という為替要因で値上がりが起きているという説明をよく聞くが、鈴木教授は、「為替の要因だけでなく、食をめぐる日本の環境が根本的に変わり、今までのように食べ物が手軽に手に入らなくなる可能性が高まっている。なぜなら、長年にわたって日本の政府が続けてきたいい加減な農業政策のほころびが世界の環境変化によって覆い隠せない時代に入ってきたからだ」と書かれていた。

 さらに、現在起こっている食料品の高騰は一時的な現象ではなく、今後も続くことが予想されている。こうした構造的な変化をもたらした背景について、世界の食料は「クワトロ・ショック」と呼ぶ4つの危機に見舞われていることが原因と書かれていた。
「クワトロ・ショック」という4つの危機は次の通りである。
① コロナ禍による物流の停滞 あらゆるものを輸入に頼る日本にとって、物流の停滞は運賃の高騰を招いた。それは当然、食糧価格に反映される。
② 中国による食料の爆買い 大豆、トウモロコシ、小麦といった穀物はもちろん、肉や魚、さらに牧草や魚粉といった家畜や水産養殖のエサまであらゆるものを中国が爆買いしている。かつての国際市場では、日本が中心的バイヤーとして力をもっていたが、今や中国の方が大量にしかも高い価格で先に買い付けてしまう。もし中国が「もっと大豆を買いたい」と言い出したら、日本に大豆を売ってくれる国がなくなる可能性すらある。
③ 異常気象による世界的な不作 地球温暖化に伴う異常気象による世界的な不作が毎年発生してる。こうした不作によって食糧価格が高騰する。さらに、農業被害が広がれば、生産国であっても輸出どころではなくなり、輸入に頼る日本などの国が窮地に陥ることになる。
ウクライナ戦争の勃発 ウクライナ、ロシアともに穀物の輸出大国である。この両国が戦争状態で輸出がままならなくなった。需給が逼迫すれば相場が上がる。世界の穀物市場は一気に高騰した。さらに、ウクライナ戦争で日本は化学肥料を入手できなくなった。化学肥料のカリウムをロシアとベラルーシから日本は輸入していたが、日本を敵国と認定したロシアとベラルーシカリウムの日本への輸出を禁止した。

 日本の食料自給率は38%とされ、低すぎると言われているが、実質的にはもっと低い。こんな食料自給率で不測の事態に国民の命を守ることができるのか?答えはNoである。野菜で考えると分かりやすい。野菜の自給率は80%と言われているが、その野菜を栽培するために必要な種の9割が海外の畑で種採りしてもらっている。つまり 、種の輸入が止まってしまえば自給率は80%どころではなく、8%になってしまう。化学肥料原料はほとんど全てを輸入に頼っている。化学肥料がなければ収量は半減する。そう考えると、野菜の実質自給率は4%という事態が起こりうるのだ。
 日本の国民の命は、これまでもこれからもずっと輸入が安定して続くことが前提で作られている。まさに「砂上の楼閣」である。今こそ、国内生産基盤の増強が不可欠だが、増強どころか、弱体化が加速している。肥料、飼料代は2倍近くに、燃料代は5割高に値上がりし、生産資材価格が暴騰しているにもかかわらず、農産物の販売価格は、米価も 乳価も、野菜価格も十分 上がらず、農家は赤字と借入金返済に苦しみ、廃業が激増している。

 戦後、構築された自由貿易体制の中で、日本は海外から安い農産物を輸入し、今の繁栄を築いてきた。第1次産業の労働力を第2次産業に移動させることで電気製品や自動車を大量に輸出できる体制を整え、GDPで世界第2位の経済大国にのし上がった。発展の裏で常に犠牲になったのが農業である。そんな自由貿易のもとで成り立ってきた経済的繁栄や豊かさは砂上の楼閣であることが明らかになった。安い農産物で生活を謳歌できたいい時代は、クワトロ・ショックによって崩れかけている。これまで日本では、食料は、お金さえ出せば手に入るものと考えられてきた。しかし、その認識は根本的に改めなければならないということを、我々は大いなる危機感を持って胸に刻み込んでおかなければならないと書かれていた。

本当に怖い話だと思った。戦争だけでなくさまざまな天変地異によって海外からの食糧の輸入ができなくなることは十分に考えられることである。「お金さえ出せば手に入る」と豪語した時代もあったが、国際市場では今の円安の日本円では買い負けするばかりである。そんなことを考えると不安になる。真剣に農業政策に取り組む為政者の出現を期待したいし、そのような為政者を育てなければと思う。