ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

山口周さんの講演を聴く

「キーパーソン21」という認定NPO法人がある。キーパーソン21は、学校、教育施設、企業などと連携し、子どもたちが自分を見つめ、今を生き、未来をつくる力を育成するキャリア教育に取り組んでいる教育NPOである。そのキーパーソン21が主催して「わくわくエンジンexpo 21」という催しが行われた。その催しで、独立研究者で著作家の山口周氏が「これからどういう人が活躍するの?」というタイトルの基調講演を行った。中学生や高校生に向けた話であったが、初めて聴く話も多くあり刺激的で興味深いものであった。

まず初めに、山口周さんは日本の新聞はあまり読まないと話していた。そのかわり、山口さんは外国の新聞を読んでいるそうだ。日本の新聞は世界の報道が極端に少ない。世界的に見たらどうでもいいような日本の政治家のあれこれを大きく報道するが、世界で今何が起きているか、世界はどこに向かっているかの報道はあまりない。世界の動きを知るには外国の新聞を読むしかない。その意味で、しっかり英語を勉強して欲しいと本題に入る前に強調されていた。
本題では次のような事を話されていた。
「日本はコンピューターの先端技術国である。そのコンピューターの先端技術が集約されたのが携帯電話である。14年前まで、携帯電話の売り上げにおいて日本の電気メーカーの多くが世界市場のトップクラスに位置していた。それなのに、現在、携帯電話を製造している企業はいない。なぜなら、日本企業は競争に負けて撤退してしまったからである。4兆円を稼ぐ大きな市場だったのに、あっという間に日本の企業が携帯電話産業から消えてしまった。きっかけは2007年に登場したAppleiPhoneである。日本の多くの大企業がアップル社に、産業の歴史に類を見ないほどのボロ負けをしてしまった。
なぜ、こんな惨敗をしたのか。その理由は明白です。優秀な人が一生懸命やったから負けたのです。日本の会社のもの作りはマーケティング理論や経営学に則って作っていきます。お客さんの話を聞き、市場調査をやり、調査結果を分析し、お客さんの希望を数値化しそれに基づいてものづくりをしていきます。だから、どこの会社の製品も似たり寄ったりの製品に仕上がっていきました。

その当時、携帯電話の後発メーカーであるAppleはどのようにしたかというと、お客さんの話は聞かないし市場調査もしない。いま普及している携帯電話は面白くないしカッコ悪い。自分たちが一番カッコいいと思う、そして一番ワクワクドキドキする携帯電話というものを作ろうということで取り組んだ。その結果、今の携帯電話とはぜんぜん違うものになった。
自分たちが一番ワクワクドキドキするものはどんなものかと考えたらこういうものになりました。あなたも欲しくありませんかと言って売り出した。みんなが日本の携帯電話を投げ捨てて、これかっこいいといってAppleに飛びついていった。

客観と主観が戦って、客観が負けたということです。日本の企業は客観的にお客さんの声を聞いて、市場調査の結果これが一番受けが良かったからこれを作ろうと言って物を作る。主観的に、自分がワクワクするドキドキするなんて考えない。Appleは客観的な評価は重視しないで、主観的に自分がワクワクドキドキするものを純粋に追求して、ものつくりをしていって市場を席巻した。

人工知能がさらに進化しています。20年前、IBM人工知能が初めてチェスの世界チャンピオンになりました。この時の人工知能は1億円で販売されました。20年前に1億円だった人工知能は、現在、量販店で30万円で売られています。人工知能の進化はこれからも驚く速さで進むでしょう。頭のいい人は学校の成績が良くて、正解を出す能力が高い人です。そのような人がつく仕事は給料が高いわけですが、そのような人の仕事ほど人工知能が得意とする分野です。正解を出す仕事は多くは人工知能に変わるでしょう。皆さんが大人になるころにはますます人工知能の時代になっています。

人間に残された仕事は、世の中から問題を見つけてきてそれを解くことです。問題を見つけることは難しいことではありません。問題は「ありたい姿」から「現状」を引き算して残ったものが問題です。問題を解く前に、人間には問題を見つける力、作る力が必要になります。問題を作るためには考える力や想像力が必要です。考える力や想像力が十分に発揮されるのは、人間の進歩する原動力である「やらずにはいられない」という衝動です。そしてその衝動の根源は人間としての喜怒哀楽です。喜怒哀楽の豊かな感性こそが生きる力の源です。喜怒哀楽、めちゃくちゃ嬉しいと感じること、めちゃくちゃムカついていること、めちゃくちゃ哀しいと感じること、めちゃくちゃ楽しいと感じること、ぜひこの喜怒哀楽を大事にしてください。うれしいこと、楽しいことも大事ですが、怒ることや悲しいことも大事です。怒ることと悲しいことをなくすためにできる事を考えることが大きな問題解決につながり、大きな喜びになることもあります。自分の喜怒哀楽を大事にしていく。まずここから始めてください。」と結んでいた。

山口周氏の講演を聴き、産業史の中で類を見ないほどのぼろ負けをした日本の携帯産業の話は大きな驚きであった。AI時代には主観と客観という視点がさらに大切になってくるという感じがした。AI時代になると、人工知能があらゆる場所で活躍して私たちの生活を豊かにする反面人間の仕事を奪っていくという現実が現れる。そのような中、人間に残された仕事は問題を見つけることと問題を解決することであるという指摘はスウエーデンの家具メーカーIKEAの例などからとても参考になった。多くの若い人にぜひこの講演を聴いてもらいたいと思った。