ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

映画「アリスのままで」を見た

大学のキャンパス内で道に迷ったり、得意なはずの言葉が出てこなかったり、ついさっき紹介された息子トムの恋人の名前も顔も忘れてしまうと言ったようなことが起きた。心配になったアリスは神経科を受診した。様々なテストや検査が行われその結果、医師から、若年性アルツハイマー病であると告げられた。この映画はアルツハイマー病を患ったアリスが記憶を無くしていきながら、人間としての苦悩と最後まで自分であり続けようとする闘いを描いたものである。記憶を保てないこと、記憶をなくすことは人間としての価値を無くしていくことになり、社会人としての資格を失うことかもしれないが、それでは人間の価値は何なのかということを考えさせられる映画であった。

アルツハイマー病は認知症の一つで、主に40歳以上の年代で発病するが、特に65歳以上で発病することが多い病気である。アリスは若年性アルツハイマー病と診断されたが、64歳以下で発症すると若年性アルツハイマー病ということになるようだ。

アルツハイマー認知症の最初にみられる症状は徐々に進行するもの忘れである。一般的に初期には、昔の記憶はあるものの最近のことを覚えることができず、同じことを何度も繰り返し聞く、物を置いた場所を思い出せない、日付が分からない、約束を忘れる、慣れた場所で道に迷うなどの症状が起こってくる。このようなもの忘れに加え、物とられ妄想、活気・意欲の低下、無気力、口数の減少などが伴うこともある。さらに進行すると昔のことも忘れ、自分の居場所が分からなくなったり、親しい人の顔も分からなくなったりしていく。また、食事や着替え、トイレ、入浴などの日常生活動作を1人で正しく行うことができなくなり、徘徊したり、攻撃的になることもある。夜間せん妄(夜になると興奮して騒いだりする)などの症状もみられるようになる。症状はゆっくりと進行し、最終的に記憶は完全に失われ、歩行困難で失禁なども起こり、やがて寝たきりの状態になる。、患者の約半数が発症から2~8年で寝たきりとなり、発症から死亡に至るまでの平均期間は約8~10年といわれている病である。

アルツハイマー病との闘病は壊れていく自分に対してそれに抵抗する闘いである。必ず負けるというのはわかっているが、かつての自分であり続けるための闘いを余儀なくされる。その闘いをしている中でも、記憶を失っていくことによって、昔の自分では考えられないような失敗をして嘲笑の的となり惨めな体験することになる。今までの自分では考えれないような悲惨な失敗もする。そして、実の娘の顔も判断出来なくなる。アルツハイマー病の症状は、波のように症状が引いて安定する時も有れば、症状が押し寄せて酷くなることの繰り返しで進んでいくようだ。症状が安定しているときは自分でも心静かに過ごすことができるが、症状が押し寄せてきたら自分が誰だか何もわからなくなる。そして症状が安定している時間が少しづつ短くなっていく。アリスは、症状の軽いときに自分のパソコンに自分宛ビデオレターを仕組んだ。そこには、このビデオレターの中にある質問に答えられないときは机の引き出しの奥にある錠剤を全部飲んでベッドに行くようにという睡眠薬自殺を促すメッセージを残していた。アリスはある時ビデオレターを偶然見つけて引き出しの奥にある錠剤を見つけた。しかし、飲むときにこぼしてしまい、そのあと何をするのかを忘れてしまう。

アリスが夫に語る場面がある。私は癌を患っていたらどんなに良かっただろうかと思う。癌でもアルツハイマーでもどちらも死に至る病であっても、癌だったら今までの自分のまま死んでいける。アルツハイマーは自分がどんどん壊れていくのと闘いながら死を迎えなければならない。癌であればどんな良かっただろう。

次女のリディアが仕事を辞めて介護をすることになった。症状が進行して会話も成り立たないような状態で寝たきりの生活になっている。リディアが本を読み聞かせをしてあげた。リディアが本を読み終えて、アリスの表情を見ると理解できたのかどうかわからないような曖昧な表情であった。大学の教授をしていた理性的な表情ではなく、ボーとしたような表情のままの母親にリディアは尋ねた。「今の話はどんなお話だったか覚えている。楽しかった?」しばらく考え込んでいたアリスが言った「愛のお話だった。とても楽しかった。」
自分の娘の顔もわからなくなり、自分の好みのアイスクリームの味もわからなくなり、自分の専門の学問もわからなくなり、理解力も何もかも無くしていくアリスであったが、アリスには「愛」という言葉だけは残されていた。アリスは何もかも全てを失っても、幼いときに両親から受けた愛、自分が子供に捧げた愛、その愛という言葉だけがアリスに残された言葉となった。

人間である限り死を免れない。だから、死を素直に受け入れたいと思う。しかし、死を迎える最後の最後まで人間としての尊厳を失わないように生きたいと思う。アリスもそのように考えていたと思う。癌であったなら(脳に関わる癌を除く)アリスは自分が壊れていく自分を見ることもなかっただろうと思う。症状が落ちつくたびに壊れていく自分に気づかされるというのは本当に辛い苦しいことだと思う。死にたいと思っても判断力が低下すると死ぬこともできない。それがアルツハイマー病である。
アリスにとって彼女の全人生のあらゆる体験、あらゆる記憶を失い、壊れていく中でアリスに最後に残るものは愛であった。愛を失わない限り人間であり続けることができる。仮に私がアルツハイマー病にかかり、全体験を失い、全記憶を失い壊れていく時に最後に私に残るものは何だろうかと考えた。全ての人がアリスのように最後に人間愛が残るとは限らない。記憶を失い人間が壊れていくアルツハイマーは怖い。