激突対談の当事者は月刊『Hanada』編集長の花田紀凱氏と、リベラル派の旗手・ジャーナリストの斎藤贵男氏のお二人であった。
まず、花田氏が「中国の脅威には、よほど肚を据えて対処していかないといけない。手をこまねいていたら、いまや日本は、中国管轄下の「日本自治区」になりかねない情勢です。現に習近平国家主席は、『中国の夢』や『偉大な中華民族の復興』などというスローガンを掲げて周縁地域への一体化に向けた圧力を強め、同時に、対外的な膨張策も強引に進めている。たとえば、新疆ウイグル自治区やチベット、内モンゴルといった周縁の少数民族に対してひどい弾圧を加え、支配・統制を強めてきた。中国語教育を無理やり進め、民族の母語すら奪おうとしている。
香港への締め付けも凄まじい。英国からの返還時に『一国二制度』をうたって、『高度な自治』を国際的に約束したのに、2年前に香港国家安全維持法を施行し、民主化への動きを押さえつけている。要は、習近平は、人権も国際公約もへったくれもなく、周辺地域を遮二無二に自らの支配下に置こうとしているわけです。とてもじゃないが、信用できる政権、体制、国じゃないよ。そして台湾だ。中国は台湾を『核心的利益中の核心的利益』として、統一を虎視眈々と狙っている。日本にとっても、けっして対岸の火事ではない。これがいま、日本が直面している現実ですよ。中国という強権主義の隣国の膨張・支配圧力にもろに晒されている。それに対して、我が国は、安倍元首相が唱えていたように、防衛費を国内総生産(GDP)比2%の水準に増やして、自主防衛の力を抜本的に強化する必要がある。でも、現実的には、ここまで強大化してしまった中国には、自主防衛だけでは対処できない。だから、集団的自衛権を認めて、『助け合える同盟』に深化させた日米同盟で対抗していこうということしかないでしょう。」
それに対して斎藤氏は、「日本の地理的な位置から考えて、日本はどんな国際情勢でも、平和を求める外交を続けるべきだと私は思います。それ以外の道は破滅にしか繋がりません。花田さんは、日本の集団的自衛権を伴う、より強固になった日米の集団安全保障体制をもってして、中国への抑止力や対応力を高めるという安倍氏の安保路線を踏襲していくべきだと主張されていますが、なぜ、そこまでアメリカと一体となって「力対力」で中国を抑えようとするんですか。私は、集団的自衛権の下に、アメリカと一緒になって軍事的に中国に対抗することは反対です。何かのきっかけで火蓋を切る可能性が大いにあります。とどのつまりは、日本を防衛しているはずが、膨張する中国を制圧しようとするアメリカの覇権維持戦略の片棒を体よく担がされるだけの結果になってしまう危険が大きい。これは、自衛隊が中国と戦うアメリカの傭兵として使われることと同じです。また、作戦が実行されれば、南西諸島が中国からの攻撃対象となるのは必至で、自衛隊のみならず、沖縄の住民にも犠牲が出るでしょう。再び沖縄が戦場になるのです。日本が戦場になるのです。こう考えると、日米同盟の深化は、中国を抑え込むために、アメリカが日本を都合よく使う危険な仕掛けであることが見えてきます。日本は、安倍氏のまさに負の遺産である安保路線を突き進むべきではない。日米同盟の拘束力は根本的に見直すべきだと私は思います。」
花田氏が反論する。「台湾を中国から守ることは、たしかにアメリカの覇権維持の意味もあります。でもそれは同時に日本の防衛でもある。台湾に侵攻したら、次に中国は尖閣を落としにくる。アメリカとともに台湾を守ることは当然の道理じゃないか。アメリカと軍事的に一緒になるのは危険だと言うけれど、アメリカとの強固な協力関係なしに、どうやって中国に抑止力を働かせるの? 実際に有事になった際にいかに対処するの? 尖閣をどう守るの? どう考えてもアメリカの力は必要です。日本はアメリカの戦略には協力しないけど、尖閣や日本列島の防衛には力を貸してほしいなんて虫のいいこと、言えませんよ。国と国の関係も、人間関係と同じくギブ・アンド・テイクの世界。トランプ前米大統領が同盟国に対して「応分の負担をしてくれ」って言っていたけど、日本からギブするものがないと、アメリカだって親身には付き合ってくれません。斎藤さん、聞きたいんだけど、日米同盟の拘束力を弱めて、どうやって中国に処していくの?」
斉藤氏が答える。「いま私が主張しなければならないと考えるのは、『日本のフィンランド化』です。フィンランドは大戦後、長く国境を接する大国ソ連との関係構築に腐心しました。中立的地位を保障してもらう代わりに、ソ連に対して軍事的な義務を負った友好条約を結び、北大西洋条約機構(NATO)にも加盟しなかった。西側のタカ派政治家などは当時、ソ連に融和的なこうした外交姿勢を『フィンランド化』と呼んで蔑んだ。でもフィンランドはソ連の衛星国になることなく、自由経済体制を維持しながら中立を守って東西冷戦期を生き抜いた。『フィンランド化』という語も、小国のしたたかな外交戦略だったのだと、いまは国際政治学の世界でも高く評価されています。すぐにも日米安保を破棄しろなどと非現実的なことは言いませんが、日本が目指すべきなのも、この『フィンランド化』ではないですか。中国と何とか折り合う一方、アメリカにとって都合のいい国にもならず、中立を守っていく。そして、米中の間に入って緩衝役となり、あの手この手で衝突の未然防止の役目を果たしていく――日本はアメリカと違って、中国の隣に位置していることから考えても、これが、それこそ国益にもっともかなう道ではないか。」
花田氏「何を能天気なことを言ってんの。そんなのは甘い。」
斉藤氏「米中のいがみあいに、日本はどこまでも付き合って、中国を敵視し続けなければならないのですか。最後は戦争でカタをつけるというのですか。戦争になったら日本は終わりですよ。」
お二人の激突対談は結論に至らず物別れに終わった。
中国の台湾への武力侵攻が話題になったが、中国と台湾は密接な経済関係があり、台湾は中国の経済活動を支える柱でもある。その関係をもとに考えると、中国が台湾を軍事侵攻し台湾を破壊する可能性は少ないし、中国が台湾の近々の脅威とは思えない。また、日中間においても、現在、戦争でしか解決できないというような問題は存在しない。また、日中間においては、平和外交の道は閉ざされていない。私たち日本にとっての中国に関しての危機というのは、アメリカと中国の両国が衝突状態になった時である。その時日本は、日米同盟によって自動的にアメリカに加担してその戦争に巻き込まれることになる。これが一番の危機である。
その危機はアメリカの動きにあると思う。日本がアメリカ軍の二軍としてアメリカの戦争に参加したいと思うのであれば、今のままでいいだろう。しかし、アメリカの戦争に巻き込まれるのは嫌だと思うのであれば日米同盟のあり方を再検討しなければならない。私はぜひ、再検討してもらいたいと思う。お二人の激論を読みながら安倍氏の負の遺産などすぐに取り除くべきであると思った。