「自動車一本足打法の日本の没落」という古賀茂明氏の解説を聞いた。ここ30年近く、日本の労働者の賃金は上昇していない。30年前、日本の企業が世界市場のいろんな分野で先行していた時代があった。しかし、今は、日本の多くの企業が先頭集団から脱落して低迷している。しかし、自動車産業では今なお、トヨタが売上高において世界の先頭に位置している。そのトヨタが4月7日に次の声明を出した
「トヨタ自動車は4月7日、今後の電気自動車の戦略について発表し、2026年までに新たに10モデルを投入し、年150万台の販売を目指すことを明らかにした。米国では25年に、スポーツ用多目的車(suv)のEVの現地精算を始める」という声明であった。EV車(電気自動車)の分野で出遅れていると言われているトヨタが、いよいよ本腰を入れて反転攻勢に出るというニュースであった。この記事について古賀氏は次のように解説していた。
「このEV車150万台という数値目標は、世界のEV車メーカーの生産数から考えるとたいした数値ではない。大した数値ではないが、しかし、その数値さえも本当にトヨタは達成できるだろうかという疑問が残る。大した数値ではないと言う意味は、EV車のシェアを150万台伸ばすのはトヨタにとって相当力を入れて取り組まなければ達成できないことだが、たとえそれを達成したとしてもEV車メーカーのトップ集団に入れるわけではないし、これでは反転攻勢という図式は描けない」という話であった。
これからは明らかに電気自動車の時代である。今、出遅れているトヨタが、本腰を入れて取り組めば、電気自動車においても先頭集団に入れると思っていたが、簡単ではないようだ。
2022年現在、トヨタ自動車はガソリン車を含む自動車の販売台数世界一の自動車メーカーである。第一はトヨタグループで1048万台(13%)、2位は独VWグループで826万台(10%)、3位韓国現代グループで684万台(8%)、4位仏ルノーグループで615万台、5位欧州ステランティス600万台(7%)である。
EV車だけの販売で見ると、1位は米テスラ126万台(17%)、2位中国BYD86万台(12%)、3位米GMグループ70万台(10%)、4位VWグループ56万台(8%)、5位中国吉利控股集団36万台、ちなみにEV車ではトヨタグループは28位で2万台(0.3%)である。EV車はこれから毎年倍々ゲームが予想される市場である。それが現在、トヨタは28位の2万台である。今は、大きく先行メーカーから水をあけられている状況である。
トヨタが電気自動車に遅れた理由は、次世代車両としてトヨタは電気自動車ではなく水素自動車を本命として取り組んできたからである。電気自動車は開発当初、電気の性能から走行距離が短いとか、充電に時間がかかるとかの難点が問題とされていた。日本はナンバーワン企業のトヨタが水素自動車を選択したことで、水素自動車に多大な投資をして開発に取り組んだ。日本ではその分、電気自動車への投資は抑えられてきた。しかし、水素自動車の開発は困難を極め現在に至るまで完成に至っていない。反面、電気自動車は著しい技術の進歩が見られ、次世代自動車は一気に電気自動車という流れが世界中にできていった。
水素自動車の開発はできず、電気自動車の開発に乗り遅れたトヨタは、トヨタの総力を上げて取り組めば、いつだってEV車は造れるとばかり、2022年6月に「bZ4X」というEV車を世界に向けて販売した。しかし、販売してすぐに、海外で走行中にタイヤが脱落するという事故が発生し、リコールを出して販売中止に追い込まれた。ガソリンエンジン車と電気自動車では動力伝達装置が全く違うために起こった事故と言われている。「bZ4X」は、今は改修されて再度市場に出されているが、トヨタ車としては前例がないほど不人気な車となりほとんど売れていない。世界での、EV車におけるトヨタの信頼はとても低いと言われている。
トヨタはガソリンエンジン車を手直して、電気自動車を作ることができると思っていたようだが、普通の自動車と電気自動車は全く別物で部品一つ一つから電気自動車仕様で作っていく必要があるようだ。電気自動車の需要が高まっている中国においても電気自動車を投入したいが作れない。そこでトヨタは中国の電気自動車専門メーカーと業務提携して「bZ3」という新しいEV車を中国市場に投入することを決めた。今は、中国メーカーの力を借りないと電気自動車を作ることはできないという状況である。
以上の解説を聞きながら、このままだと自動車産業も凋落してしまうようだ。日本には自動車産業しか残されていないと言われて久しい。そのため、日本は一本足打法と言われてきた。その自動車産業も没落すると、稼げる物がいよいよなくなり、日本の国際収支は赤字になるばかりである。なんとかして、技術立国日本を取り戻さないと日本経済そのものが立ち行かない。日本の予算を何も産まない軍拡に使う段かと改めて思う。今の日本の産業の実態を考えると、軍拡に突き進む政治屋に怒りさえ覚える。