長崎新聞に、原発の運転に関する原則40年間、最長60年間の法定期間の延長を政府が検討しているというニュースが掲載された。自民党や経済界の一部が求める新増設や建て替えは世論の強い反発が予想されるため見送り、既存原発の長期的な活用を目指すことのようだ。
原発運転の法定期間は原則とされた40年間は既に骨抜き規制という指摘もある中、政府関係者によると法改正では原則40年間の運転期間を長期化したり、その後の審査を得て認められる最長20年間の延長を複数回可能にしたりする案が考えられているようだ。自民党内には原発事故後の長期停止を40年間の運転間から除くなどして運転延長を求める意見もあるようだ。
この記事を読んで、安倍政権は原発推進派であったが、安倍政治の継承を掲げて首相の座を射止めた菅政権も間違いなく原発推進派なんだと思った。世界各国が原発エネルギーから再生可能エネルギーへの転換を図るときに運転期間を短くまでして転換に取り組んでいるのに、日本政府は原発の危険性には目をつむり、しかも原発の核のゴミに対しては何一つ解決策を見出せないまま、利権まみれの原発だけは絶対にやめない方針らしい。基本方針は何も変わっていないのだと理解した。
古賀茂明氏の「官邸の暴走」を読んでいたら、『「原発守って太陽光と風力が絶滅」という記事があった。かつて日本が圧倒的に強かった太陽光パネルも今は見る影もない。日本国内ではまだ日本製も少し売れているが、日本メーカー1位の京セラでさえ日本のシェアは6%にしかすぎない。日本国内での太陽光パネルは中国製が一番多く、その後をカナダや韓国の企業が追っている。国内でも日本企業は敗退している。もちろん、海外ではもう誰も日本製の太陽光パネルは買わない
太陽光発電供給量では中国は約60%と圧倒的な大きなシェアを占め、それ以外ではマレーシアや台湾、ベトナム、韓国といったアジア勢が伸びている。
風力発電でも同じ状況である。国内風力発電機市場では、米ゼネラル・エレクトリック社を筆頭にドイツ、デンマークなどの欧米企業が大きなシェアを占めている。日本メーカーは完全に競争力を失い、日本メーカーは日本市場から駆逐されてしまった。
風力発電については、陸上でも洋上でも欧米企業と中国の争いで、日本は当初、陸上で負けたので洋上風力で挽回を狙った。しかし定置型で負けてしまい、今度は浮体式洋上風力発電で挽回しようと、さらに目標を遠くに定めた。それでも福島沖で経産省と日立が威信をかけて始めた浮体式の実証試験は失敗した。技術レベルで世界から完全に水をあけられ、今のところ挽回の手がかりはない。
菅総理は、「50年カーボンニュートラル」を宣言した2020年10月の臨時国会の所信表明演説で「世界のグリーン産業を牽引する」と述べたが、はっきり言って何も分かっていない。それから1ヶ月も経たないうちに、三菱重工が風力発電の自前開発を断念すると発表したのは、日本の状況を象徴する出来事であった。現状を正しく認識できない政府に正しい産業政策を期待しても、無理なことは明らかだ。
日本だけがこれほど遅れている原因は政府のエネルギー政策の失敗にある。2011年3.11福島第一原発事故の時、国民の多くが「原発はもういらない」と考えたのに、当時の経産省が考えたのはどうやって東京電力を守るかとどうやって原発を復活させるかだった。
ドイツはこの時、2022年までに脱原発を決め、原発なしで温暖化ガスも削減するという困難な道に挑んだ。EU は自然エネルギー最優先の政策を採り、各国の自然エネルギー電力は急拡大した。今や電力消費に占める自然エネルギーの割合はカナダは71%、スウェーデン70%、デンマーク66% 、ポルトガル51%、ドイツ44%、スペイン37%、イタリア・イギリス36%、中国27%、原子力大国フランスでも25%だが日本は20%と断然低い。
こうした状況を反映して、2030年の自然エネルギーの電力目標は、スペイン74%、ドイツ65%、イタリア55%、EU57%、米カリフォルニア州60%、米ニューヨーク州70%、と軒並み5割から7割となっているのに日本は何と22%〜24%と話にならないレベルだ。
経産省は原発を止める気はない。原発を動かせば電力は余る。したがって自然エネルギーへの投資は大規模には進まない。ドイツのように退路を断って、自然エネルギーにかけるという方向を政府が示せば、民間は一気に自然エネルギーと雪崩を打って投資するだろう。幸い、太陽光も風力も技術革新がすさまじく、もはや原発など全く歯が立たないほどに電源コストは安くなった。供給が天候に左右されるという欠点も蓄電池のコストが下がったことで克服しつつある。自然エネルギーの発電コストは原発はもちろん、火力発電など他の発電コストよりも安くなるという日が数年以内に訪れると言われている。
だが、菅政権は脱原発への改革には踏み込めないだろう。菅総理自身に哲学がなく、単なる人気取りで進めている温暖化対策だ。これではいつまでたっても日本の自然エネルギー産業が復活できないのは確実だ。』
「斜陽国家日本」「日の丸産業の凋落」などという言葉を最近よく聞くようになった。産業の成長、衰退は政権の取り組みと密接に関連しているということが、古賀茂明氏の「官邸の暴走」を読んでわかった。そして、安倍政権と安倍政治の継承を掲げる菅政権では、日本再生、日本復活などとても期待できないこともよく分かった。