昨日10月7日から「長崎くんち」が始まった。「長崎くんち」は長崎の氏神「諏訪神社」の秋の例大祭のことである。寛永11年(1634年)、二人の遊女が諏訪神社神前に謡曲「小舞」奉納したことが長崎くんちの始まりとされている。以来、長崎奉行の援助もあって年々盛んになり、さらに奉納踊りには異国趣味のものも多く取り入れられ、江戸時代より豪華絢爛な祭礼として評判となり現在に至っている。この奉納踊りは国指定重要無形民族文化財に指定されている。
長崎人は「長崎くんち」を「おくんち」と呼び、「おくんち」の演し物の中身は「わからん文化」と呼んでいる。「わからん」の漢字は「和華蘭」と書き、日本の和風、中国の中華、オランダの蘭からなる。この国際性溢れるお祭りの雰囲気から「長崎くんち」が「日本三大祭りの一つ」ではなく、「本朝随一の祭り」と言われる所以である。
待ち時間にアンコールを意味する「モッテコーイ」や素晴らしいよくやったを意味する「ヨイヤー」などの掛け声の練習をしながら踊町の到着を待つ。
長崎くんちの奉納踊りは長崎旧市内の各町が担ってきた。旧市内各町を七つに分け7年に一度踊町として奉納する。長崎くんちを全て見るためには7年かかることになる。今年は上記の五ケ町が7年ぶりに誇りと熱意を込めて踊りや演し物を奉納する
傘鉾は町の印を表すもので、踊町の行列では先頭の傘鉾の前を歩くことは許されない掟がある。今博多町の傘鉾は神楽を奉納するという意味合いから中央に三社紋をつけた火焔太鼓、鼓、榊を置く。神に通じる飾りものを配するので輪はしめ縄。垂れは塩瀬羽二重、亀甲形に鶴の文様入り三社紋織り出し。
今博多町は昔から本踊りを奉納してきた町である。「鶴の港」と例えられる長崎港にちなみ、奉納踊り「今日爰祭祝鶴舞」では諏訪神社の秋の大祭を祝うために長崎港から飛んできた六羽の鶴を表現している。踊子全員が動きを揃えて白い長絹の衣装を翼のように翻し、円や列になってしなやかに舞う様子は実に優雅である
ビードロ細工の飾物は市指定有形文化財。タイ、エビ、ワセ、魚籠、うたせ網を中にして葦を配す。製作は町内の玉屋硝子細工所。寛永6年(1853年)の作。輪は蛇籠にさざれ石。垂れは正絹無双に曙ぼかし織。
昔、この町に魚市場があったので今魚町と呼ばれており、それにちなんで川船を奉納するようになった。根曳の数は8名×2列の16名 で、補欠なしという緊張感の中練習を重ねてきた。根曳方も囃子の子供たちも全員男子で編成が伝統。
網打ち船頭による投げ網は二回行い二回とも大漁であった。この晴れ舞台で小学四年生の網打ち船頭が見事な網打ちを披露すると、会場は万雷の拍手に包まれた。
屈強な根曳衆が力を合わせて披露する船回しはキレのある動きに定評があり、激流に川船がもまれる様子を表現する。「右2回転半」という古式にのっとった整然たる船回しを見事に演じきっていた。
諏訪神社が建つ玉園山に町名が由来し、飾物には神具の八足、冠、鈴、中啓をあしらう。その隣に玉垣で囲った生木の榊を配し、神域を示す。輪はしめ繩飾り。垂れは塩瀬羽二重の生地に、前日は旭を背景に浮かぶ曙の瑞雲、後日は秋の七草と二種類の模様を披露する。
長与町に伝わる獅子踊を奉納する。獅子は7色の長毛が特徴。2人一組で親獅子七頭子獅子二頭によるダイナミックな踊りを披露する。かたぐるまで背伸びして牡丹の蜜を吸う「花しぶり」や勢いをつけて前転する「牡丹返し」など高い技術が必要とされる大技が披露されると拍手が鳴り響く。
朱塗り杯とVOC(東インド会社)の社章が入った染め付け皿を猫足台に載せ、下に洋酒の瓶を配する。朱塗杯に描かれる模様は、オランダ商館長が江戸町に贈ったとされる町章(タコノマクラ)。輪はビロードで表に「江戸町」、裏に「Jedomachi”」とある。垂れは塩瀬羽二重に三社紋を金糸刺しゅう。
洋楽器の華やかな囃子とともに、ロイヤルブルーのオランダ船が入場。帆先には赤、白、青のオランダ国旗と日本国旗、形が似ていることから「タコノマクラ」の名で親しまれている町章がはためく。子供たちによるかわいらしい「オランダ小船」も登場して場を盛り上げる。そして最後はオランダ船の大航海を勇壮な船の引き回し、船回しで再現する。
飾物は唐楽器で統一されている。龍の声を鳴らす金色のラッパに紅白のちりめんを結びつけて垂らし、銅鑼に立てかけて配す。両面太鼓の「鞨鼓」には裏に町名、表皮に双龍を描き、銅鑼には「本加護満知」と記す。輪は白紋繻子。正面に宝珠、左右に阿吽の双龍を描く。垂れは白茶地に金糸で龍紋の織り出し。
唐楽拍子による3種のリズムと爆竹音のなか、玉使いと龍衆(じゃしゅう)10人の勢いある技が、生きた龍のごとくダイナミックに演出する。
中国楽器の特に龍の声と言われる長ラッパの響きが耳に残る。走り、うねり、胴くぐりの「玉追い」と、とぐろを巻いて玉を探す「ずぐら」という、静と動のメリハリのある動きに引き込まれていく。
10人の龍衆に命を吹き込まれ猛々しく踊り狂う、空中を乱舞する龍踊に「モッテコーイ」の声が鳴り止まない。
御旅所踊場で連続3年「おくんち」を見続けている。でもまだ半分にきていない。まだまだあと四年続けないと完結編に至らない。今年も全ての踊町からおくんちにかける意気込み、熱意を感じることができた。神様も大喜びになったに違いない。今年も感動の連続であった。